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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第六章 「ハラが減っては戦にならぬ、ハラが膨れりゃ戦はできぬ」

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第五十四話 青春噛みしめろよぉ(前編)

「おはようございますっ!」


宿場町の朝、二階の住居から下りて店舗の裏口を開けた瞬間、

聞き覚えのある元気な声が響いた。手にしたバケツを持ったまま、

俺は思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。


「ぶふぉっ……。お、おはよう。早いね」


まだ朝の澄んだ空気が漂う時間帯だ。ここは一階が店舗で二階が

住居という、店舗兼住居の造りになっている。入り口の前に

立っていたのは、昨日大号泣して店を去ったはずの勇者コウタロウだった。


「コウタロウ君、早すぎじゃないかなぁ。

まだ開店まで時間かなりあるよ?」


「あ、朝セットあるかと思って」


頭を掻きながら照れくさそうに笑うコウタロウ。必死に平静を装って

いるようだが、視線があからさまに泳いでいる。俺に気づかれないよう

頑張っているつもりらしいが、視線は何度も俺の後ろを往復していた。


要するに、ルナリア(秘書官)の姿を探しているわけだ。

なんだか、年頃の娘を持った父親ってのはこんな感覚に陥るんだろうか。

まだ恋を知らないガキの純情を目の当たりにして、俺の心の中に

妙な笑いが込み上げてくる。


「うち、お昼からしかやってないんだよ。悪いなぁ」


「そ、そうですか。じゃ、また来ます!」


分かりやすく肩を落としたコウタロウは、寂しげに、だが律儀に一礼して

去っていった。その後ろ姿が見えなくなったのを見計らって、俺は

厨房の陰に向かって声をかける。


「もう帰ったぞ、ルナリア」


「ふぅ……。な、なんですか、朝早くから。

本当に心臓に悪いじゃないですか……」


裏口の物陰からひょっこり顔を出したルナリアは、胸に手を当てて

大きなため息をついている。コウタロウの気配を察して、慌てて姿を

隠していたらしい。


なんだ、顔くらい見せてやればいいのに。顔を赤くして息を整えている

彼女を見て、俺の顔は自然とニマニマと緩んでしまう。


「顔を見せてやれば、あいつも喜んだだろうに。

そんなに遠くから見つめなくてもいいだろ」


「な、何を言ってるんですか! 私は別に、あの子を気にして

隠れてたわけじゃありません! おじさんが朝からニマニマして

変なからかい方をするから、巻き込まれないようにしてただけです!」


顔をさらに真っ赤にして怒るルナリア。

そんな彼女へ生温かい視線を送り続けていると――。


バシッ!


「いった……!」


容赦のない手ごたえとともに、背中を強く叩かれた。

痛む背中をさすりながら、俺は心の中で小さく愚痴る。

まったく、青春だなぁ。


昼近くになり、いよいよ開店の時間を迎えた。

大行列の一番目に並んでいたのは、当然のように勇者コウタロウだった。

だが、今日は連れの三人娘の姿がない。どうやら一人でやってきたらしい。


「照り焼きバーガーセット、四人分を持ち帰りでお願いします!」


「はい、毎度。こちらのカウンターへどうぞ」


注文を受けるルナリアは、昨日とは打って変わって冷ややかな態度だった。

完全にビジネスライクな、冷淡とも言えるほど感情の起伏を感じさせない

眼差しで、淡々とコウタロウに対応していく。


だが、コウタロウはその冷たい態度に対して、嫌がるどころか、

むしろ頬を赤く染めていた。じっと見下ろすような彼女の鋭い視線に、

少年の心臓は密かにドクドクと高鳴り、未知のドキドキを感じているのが

丸分かりだった。


「……あの、ルナリアさん、今日も綺麗ですね」


「お世辞は結構です。後ろがつかえておりますので、

お会計を先にお願いします」


「うっ、はいっ! すみません!」


コウタロウは慌てて財布を取り出し、きっちりと代金を支払った。

商品を受け取ると、ルナリアの冷淡な対応に軽く身悶えしながらも、

嬉そうに小走りで去っていった。


それからというもの。次の日もいるな、と思ったら、その翌日も

当然のように先頭にアイツの姿があった。

……今日もいる。昨日もいた。


「…………」


毎日開店一番にやってきては四人分のセットを買い込んでいく

勇者の姿を見送る。さすがに俺も心配になってきた。あいつ、本当に大丈夫か?


そんなある日の夕方。営業も落ち着き、仕込みの片付けをしていた時だった。


「あ、あの……。すみません」


背後から、ひどく控えめで、どこか悲壮感の漂う声がかけられた。

振り返ると、そこには勇者パーティーの聖女、ノエルが困り果てた顔で

佇んでいた。


「助けてください、七転さん。実は……コウタロウのことで、ご相談が……」


「話なら奥で聞くけど、どうした?」


促されて店の奥の椅子に腰かけたノエルは、今にも泣き出しそうな表情で

事情を話し始めた。清楚な法衣に身を包んだ彼女の瞳には、

深い不安の色が滲んでいた。


「コウタロウが毎日、こちらのお店に通っているのはご存じですよね?」


「ああ、毎日一番に並んで買ってくれてるよ。

上客でありがたいんだが、さすがに買いすぎじゃないかと思ってたんだ」


「そうなんです……。あのひと、自分のなけなしのお金をためらいもなく

使ってしまうんです。それが仲間として、どうしても心配で……」


ノエルはギュッと胸の前で白く細い指を握りしめた。きつく結ばれた唇と、

揺れる瞳の奥。それは単なる戦闘職の仲間を案じる義務感だけでは、

到底説明のつかない熱を帯びていた。


ただ真っ直ぐに誰かを見つめるコウタロウを、祈るような距離で見つめて、

それでも静かに寄り添い続けることしか選べない。

そんな少女の、言葉にならない切なさが、彼女の小さな震えから

静かに滲み出ていた。


「ノエルさん。あいつ、そんなに買ってどうしてるんだ?

流石に、一人で食える量じゃないだろ?」


俺の問いかけに、ノエルは悲しげに首を振り、驚くべき事実を口にした。


「……コウタロウは、そのハンバーガーを自分で食べているわけではないんです。

この宿場町にいる路地裏の子供たちに、毎日すべてを分け与えているんです」

感謝!初めて評価いただきました。とても嬉しかったです。本当にありがとうございました。

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