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50歳の何でも屋、セカンドライフは魔王城~今度の依頼は国再建! 異世界バーガーで追放勇者を弟子にしました~  作者: おっさん5963
第一章 湯船で召喚!? 壺ハメおっさん魔王(仮)――気付いたら国を救ってた

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第一話 おっさん召喚されました。

初投稿です。不慣れですがよろしくお願いします。どんな声もお聞かせください。

「ふぅ~。今日も一日お疲れさん!」


狭い賃貸アパートの浴室には、安物の入浴剤が溶けた緑色のお湯が

満ちていた。

七転八起ななころびやおき五〇歳は、そこに深く首まで浸かる。

少し白髪の混じった髪をかき上げ、ふぅー、と長い溜息を

吐き出した。


「明日は換気扇の掃除に、午後は犬の散歩代行か……。

何でも屋も楽じゃないねぇ」


独身、貯金なし、定職なし。

だが、身に付けた小器用な技術と「なんとかなるさ」という精神で、

これまでしぶとく生き抜いてきた。


八起が目を細め、今日一日の疲れを湯船に溶かし出そうとした、

その時だった。


「あとは、よろしく」


耳元で、傲慢で、どこか投げやりな男の声が響く。

直後、浴室の湯気が異常なほどに膨れ上がり、視界が真っ白に

染まった。


「……ん? なんだ、火事か?」


慌てて目を開ける。しかし、そこにいたのは安アパートの湯船では

なかった。

カビ臭い天井の代わりにあったのは、高く荘厳で、禍々しい彫刻が

施された円蓋(ドーム)

柔らかな浴槽の縁の代わりに手が触れたのは、黒真珠のような

光沢を放つ、冷たく硬い巨大な椅子の肘掛けだった。


そして、何より。


「……寒い」


八起は今、広い玉座の間で、一糸まとわぬ全裸(ぜんら)の状態で

座っていた。


「……な……な……」


階下から震える声が聞こえた。

八起が視線を落とすと、そこには跪く二人の男女がいた。

一人は、眼鏡の奥の瞳を限界まで見開いた軍服姿の絶世の美女。

もう一人は、あまりの光景に彫像のように固まった、装飾鎧を纏った

美青年。


静寂。

八起の股間を、魔王城の冷たい隙間風が通り抜けていく。


(あ、これ、夢だな。よし、寝よう)


現実逃避を決め込んだ八起は、堂々とした動作で全裸のまま

背もたれに深く背を預けた。

組んだ足で大事なところを隠しつつ、ふてぶてしく言い放つ。


「……で。ココドコデスカ?」


静まり返った玉座の間。

口から出たのは、あえて相手の土俵に乗らない、とぼけた片言だった。

白髪混じりの頭をポリポリと掻きながら、八起は堂々と足を組み、

小首をかしげる。


内心は心臓が口から飛び出しそうなほどバクバクだが、長年

「何でも屋」で修羅場を潜り抜けてきた経験が、無駄に落ち着いた

表情を作らせていた。


だが、側近たちの動揺は、八起の想像を遥かに超えていた。


「なっ……ななな、何を……ッ!?」


悲鳴に近い声を上げたのは、眼鏡をかけた美女、ルナリアだった。

彼女は手元の書類を床にぶちまけ、顔を林檎のように真っ赤にして

絶句している。

視線は八起の顔と、隠しきれていない無防備な下半身の間を、

壊れた計器のように高速で行ったり来たりしていた。


「魔王様、何を……いえ、貴方は一体……!?

陛下はいずこへ!? なぜ、なぜそんな……そのような、

恥知らずな格好で玉座に座っておられるのですか!」


ルナリアの怒声が響く。

隣では、軍師のゼフェルが魂の抜けたような顔で立ち尽くしていた。


「陛下が……消えた……? いや、入れ替わったのか……?

しかし、この魔力の波長は間違いなく陛下のもの……。

だが、外見はどう見ても、ただの、その……くたびれた人間のおじさんだ……」


ゼフェルは完璧な美貌を歪ませ、ぶつぶつと虚空に向かって

呟き始める。

英才教育で得た膨大な知識を猛烈な勢いで引き出しているようだが、

目の前の全裸の中年男性という異常事態を処理できる項目は、

どこにも存在しなかった。


「あー、ノー魔王。ミー、お風呂。ジャスト・バスタイム。

……アンダスタン?」


八起は努めて冷静に、ゆっくりと首を横に振った。

内心では、早く帰してくれ、風邪ひくわ、警察呼ばれるだろこれ、と

絶叫していた。

しかし、ここで取り乱せば首が飛ぶかもしれないという本能が、

彼を飄々としたおっさんに留めている。


「ふざけないでください! 衛兵! 誰か、この不敬者を」


ルナリアが叫びかけた、その時。彼女の視線が再び八起の無防備な

一点に吸い寄せられた。

怒りで沸騰しそうな脳裏に、全裸の残像がフラッシュバックする。


「その、見苦しいものを……しまえと言っているんですッ!!」


ルナリアの羞恥心は限界を突破した。彼女は近くの台座に飾られていた、

禍々しい装飾の施された「魔銀の壺」をひっつかんだ。


「これでも食らっていなさい! この、不潔、不敬、無礼者ぉっ!!」


凄まじい勢いで投じられた壺が、放物線を描いて八起の股間へと

飛来する。


(うおっ!? あぶねぇ!!)


八起は本能的に、何でも屋で鍛えた動体視力と反射神経を

フル稼働させた。

空中で回転する壺の取っ手を流れるような動作でキャッチ。

そのまま勢いを利用して、股間の大事なところを隠すように壺を

スッポリと被せた。


スポンッ!


乾いた音が玉座の間に響き、シュールな姿が完成した。


「…………っ!?」


ルナリアは、壺がそこへ吸い込まれるように収まった光景を目の当たりにし、

言葉を失った。

怒り狂って投げつけたはずが、結果として自分が、見ず知らずの

おっさんの股間を丁寧に防衛デコレーションしてしまった形である。


あまりの羞恥と、信じがたいジャストフィット具合に、彼女の思考は

完全にショートした。

口をパクパクとさせながら、顔面を真っ赤にして呆然と立ち尽くす。


「……セーフ。ナイス・ピッチング。ユー、いい肩してるね」


八起は冷や汗を拭いながら、壺をしっかりとホールドしたまま

親指を立ててみせた。


その堂々とした、そして極めて間抜けな姿に、背後のゼフェルが

確信に満ちた表情で頷く。


「落ち着け、ルナリア。見るがいい……あの御仁の瞳には、飛来する物体を

咄嗟に股間の守りに転用する生活の知恵がある。

これこそが、次元の彼方より来たりし新たな支配者の証明ではないか」


「ゼフェル……あんた、何を、言って……っ!」


「いいから、今はその不敬な言葉を飲み込め。……おい!誰かある!

シオリ! シオリはどこだ!」


ゼフェルの朗々たる声が廊下に響き渡る。

それから一分もしないうちに、パタパタカサカサという多脚特有の

軽快な音が近づいてきた。


「はぁ〜い、お呼びでしょうかぁ〜? ゼフェル様ぁ」


現れたのは、上半身は可憐な少女、下半身は巨大な蜘蛛という姿の

使用人、シオリだった。

彼女はおっとりとした笑みを浮かべていたが、玉座に座る

「壺おじさん」と目が合った瞬間、動きがピタリと止まった。


「あ……」


シオリの大きな瞳が、八起の顔から逞しい胸板、そして中央に鎮座する

小さな壺へと吸い寄せられる。


「……人間の、おじ様。しかも……えっ、ええええっ!?

何ですかあのワイルドすぎるファッションはぁ!?」


シオリの脳内回路が、瞬時に爆走を開始した。


(あれは……もしかして、私への求愛行動!? 『俺はいつでも準備ができている』

という熱烈なメッセージ!? しかも隠すのが壺!? 斬新すぎます、

刺激が強すぎますぅ!)


「シオリ、妄想を止めろ。鼻血が出ているぞ。

……すぐにこの方に纏うものを用意しろ。このままではルナリアの血管が切れる」


「待ってくださいおじ様! 今すぐ、私の愛の糸で、あなたを包んで

差し上げますからぁ!」


シオリが猛烈な勢いで糸を紡ぎ始めようとしたその時、八起が待ったを

かけるように片手を上げた。


「あー、ウェイト。シオリさんだっけ? そんな仰々しいのはいらないから」


「えぇっ!? で、ですがおじ様、これではお風邪を召してしまいますし、

何よりルナリア様の目から血が出てしまいますぅ!」


「いや、服はいる。いるんだけど……。

えっと、上は綿っぽいやつ。ポケットがたくさん付いてて、丈夫な灰色か紺色。

下も同じ色のズボンで、裾は邪魔にならないように絞ってあるやつ。

要は……作業着。作業着を作ってほしい」


八起は、いつも仕事で着古している「何でも屋・七転」のユニフォームを

思い浮かべ、身振り手振りで説明した。


「さ、さぎょうぎ……? それは異世界の正装なのですかぁ?」


シオリは首を傾げ、妄想フィルターをフル回転させる。


(作業するための着衣……。つまり、私との共同作業(新婚生活)専用の

愛の衣ということですね! なんて素敵な響き!)


「……承りましたっ! おじ様の望むままに!」


次の瞬間、シオリの八本の脚と二本の腕が、視認できないほどの

速度で動き出した。


シュシュシュシュシュッ!!


空中に舞う純白の魔糸が、八起の説明通りに色を変え、形を変え、

立体的に編み上がっていく。


「ほい、完成ですぅ!」


わずか数秒。八起の目の前には、見慣れた作業服上下が完璧な形で

置かれていた。


「……は?」


八起は、思わず口を半開きにして固まった。

ついさっき説明を終えたばかりだ。自分の感覚では、まだ空中に

糸が舞っている残像すら見えている。


「……え、もう? マジで?」


八起は恐る恐る、出来立ての作業着に触れた。温かい。

まだシオリの魔力の熱が残っている。

裏地を確認し、ポケットの縫い目を見ても、ほつれ一つない。


「……これ、すごいね。俺の世界の最新ミシンでも、いや、

熟練の職人が百人いてもこうはいかない。

……感動した。アンタ、天才だよ」


何でも屋として、道具や技術を人一倍大切にしてきた八起の言葉には、

心からの敬意がこもっていた。


「ひゃうっ!? て、天才……愛の告白……っ!?」


シオリは顔を真っ赤にして、茹で上がったタコのようにクネクネと

身をよじらせた。


八起は感心しながら壺を外し(ルナリアが即座に絶叫して顔を背けた)、

手早く作業着を身に纏った。


「……うん、落ち着く。やっぱりこれだね」


玉座に座る、くたびれた作業服姿の五十歳。

魔王城の荘厳な雰囲気からは完全に浮いているが、本人はようやく

人心地ついた表情だ。

だが、その緩んだ顔は一瞬だった。

八起はふう、と深く息を吐き出すと、膝に置いていた手を握り込み、

ゆっくりと顔を上げた。


先ほどまでの飄々とした「とぼけたおじさん」の空気は消え、

そこには長年、修羅場のクレーム処理や無理難題な現場をこなしてきた

プロの、鋭くも落ち着いた「仕事師」の眼差しがあった。


「……さて。冗談はこれくらいにしましょうか」


低く、通る声。八起は玉座の背もたれから体を離し、正面に立つ

ルナリアとゼフェルをまっすぐに見据えた。


「俺は見ての通りのただの人間だ。

入浴中に変な声が聞こえたと思ったら、いきなり全裸でここにいた。

……代わりに、ここにいたはずの『誰か』が、俺のいた場所に飛ばされた。

そういうことでいいんですかね?」


その豹変ぶりに、ルナリアは息を呑んだ。

先ほどまで股間を壺で隠してへらへらしていた男と同一人物とは

到底思えない。

その瞳に宿る圧倒的な「経験値」の重みに、彼女の毒舌が喉の奥で

凍りつく。


「わ、我が国の魔王陛下は、禁忌の召喚術を発動されました。

その……陛下に不満があったわけではありませんが、我が国は今、

非常に困難な状況にありまして……」


「困難、ね」


八起は鼻を鳴らし、広大な、しかしどことなく埃っぽく、

手入れの行き届いていない玉座の間を見渡した。


「国だの魔王だの、スケールのデカい話は正直よくわからん。

だが、あんたらの顔色、そしてこの部屋の空気……。

どう見ても『景気がいい』ようには見えないな。

……で。何が起きてる? 隠さず全部話しな。

何でも屋は状況を把握してない仕事は受けない主義でね」


五十男が醸し出す、独特の包容力と厳しさが混ざり合った圧力。

それを受けたゼフェルは、ゾクゾクとするような高揚感に背筋を震わせ、

恭しく頭を下げた。


「御明察にございます。

……実を申し上げれば、この魔王国は今、滅亡の淵に立たされております」

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