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無限の火花の世界 [The Old World]  作者: Rocky Pancakes
第3章:泡の向こうへ
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第31話:遺された記憶

タルムノル王国の王都の壁の向こうに広がる世界の記憶。

「よいしょ――」


アリナーは小さく声を漏らしながら、馬車からハーリンを抱き下ろした。


「アリナーさん……もう目隠し、外してもいい……?」


ハーリンは少し震えた声で尋ねる。


黒い布がしっかりと目に巻かれている。


彼女の手は宙をさまよい、何かを探すように動いていた――本能的に。


そのかすかな不安を含んだ声を聞いて、

アリナーの唇が少しだけすぼまり、やわらかな心配の色を帯びる。


そっとハーリンの頭を撫でた。


「もう少しだけ、ハーリン。あとちょっとだよ。」


「きっと驚くから。」


ハーリンは小さく、心細げにうなずく。


指先がアリナーの服の裾に触れ――

そのまま、ぎゅっと掴んだ。


その小さな仕草に、アリナーは一瞬だけ目を留める。


「えっと――」


少し驚いたように振り向いた。


「銅貨二十枚だよ。」


ゆったりとした、穏やかな声。


そこには一人の老人が立っていた。

少し背を丸め、両手を後ろで組んでいる。


その髭は、どこか昔のガンマンのような雰囲気を漂わせていた。


どうやら御者らしい。


「はいはい、今出しますね〜」


アリナーは慌てて胸元の小さな袋を探る。


「アリナーさん?」


ハーリンが服を軽く引っ張る。


「ん〜?」

アリナーはそちらに顎を向けながら、まだ硬貨を数えていた。


「さっきお肉を買ったあと……まだ少しお金、残ってるから……」


もう一度、小さく引っ張る。


アリナーは微笑んだ。


「大丈夫だよ、ハーリン。お金はちゃんとあるから。」


老人もまた、静かに目を細めて微笑む。


数え終えたアリナーは振り返り、

ハーリンの頭をぽんっと軽く叩いてから――


銅貨二十枚を差し出した。


「はい、どうぞ〜。ありがとうございました。」


老人はゆっくりとそれを受け取る。


「その子……うちの娘にそっくりでな……」


小さく息を吐いた。


「時が経つのは早いもんだ……」


数えることもせず、そのままゆっくりと馬車へ戻っていく。


「あっ、そうだ!」


アリナーは慌てて追いかけた。


老人は首をかしげて待つ。


「ここでいいですから、日が暮れる前にまた迎えに来てくださいね。」


老人はくくっと笑い、手をひらひらと振る。


「分かっとる、分かっとる。このジジイもまだ忘れんよ。」


「楽しんできな、アリナーさんと……青い髪の嬢ちゃん。」


そう言って手綱を軽く鳴らす。


「またあとでね〜」


アリナーは手を振った。


「ア、アリナーさん……?」


「どこにいるの……?」


ハーリンの声がまた少し震える。

手は空を探るように伸びていた。


アリナーはすぐに駆け寄り、その手を取る。


「ここだよ。ちゃんといるから。」


「行こうか。」


「うん!」


今度は少し安心したようにうなずいた。


***


「準備いい?ハーリン〜?」


アリナーは楽しげに言いながら、目隠しに手をかける。


「うん!準備できてる!」


……


光が一気に差し込み――

闇は一瞬で消えた。


ハーリンは思わず手を上げ、目をかばう。


やわらかな風が頬をなで、

海のような青い髪がふわりと揺れる――

まるで穏やかな波のように。


そして――


目を見開いた。


どこまでも続く草原が広がっていた。


背の高い草が揺れ、太ももに触れる。

色とりどりの蝶やトンボが空を舞っている。


あちこちに咲く花々――


まるで広い緑のキャンバスに、

絵の具を無造作に落としたかのように。


それなのに――


だからこそ、


この景色は、何よりも美しかった。


懐かしい感覚が胸に広がる。


ハーリンは、息をするのも忘れた。


見えた――


フェルン村で、母と一緒にこんな草原を走っていた自分の姿が。


遠くには、ゆっくり家へ向かうヘイルの姿。


待たずに――


そのまま走って、彼の腕に飛び込んだ。


その後ろで、アリナーは静かに見つめていた。

優しい温もりを宿した視線で。


「やっぱり気に入ると思った。」


「あ、そうだ。」


「ハーリン。」


肩に手を置き、軽く揺らす。


「え、えっと……?」


ハーリンはまだぼんやりと振り向く。


アリナーはくすっと笑った。


「まだ戻ってきてないみたいだね。」


ハーリンは慌てて首を振る。


「戻ってるよ!」


アリナーは左の方を指差した。


ハーリンが見落としていたものへ。


「本当の見どころは、こっち。」


ハーリンはその先を見る。


「わあ……」


最初は一つの建物だと思った。


だが――


目を凝らすうちに、


その数に気づく。


細く高い石の塔が地面から伸びている。

その塔は、上から下まで重い金の鎖に縛られていた。


どこか冷たい――


役目を終えたまま放置されたような空気。


石には深いひびが走り、苔が広がっている。


同じ塔が一定の間隔で並び――


果てしなく続いていた。


「“堕ちた光”って呼ばれてるの。」


ハーリンは口を少し開けたまま振り向く。


「堕ちた光……?」


首をかしげる。


「うん。昔はタルムノル王国の最後の防衛線だったんだ。」


アリナーは遠くを見つめる。


「すごい……」


ハーリンも同じように視線を追う。


「でも――この話はまた今度ね。」


彼女は笑ってハーリンを見下ろした。


「今日は魔法の勉強をしに来たんだから。」


「は、はい……」


それでもハーリンの視線はまだ塔から離れない。


それを見て――


「ハーリン、あっちの森見える?」


右の方を指差す。


ハーリンが振り向く。


「うん?」


「捕まえてみて〜」


言い終わる前に、アリナーは軽やかに走り出した。


……


しばらくして、振り返る。


ハーリンはまだその場に立ったまま――


塔をぼんやりと見つめていた。


「ハーリン〜!」


アリナーが手を振る。


ハーリンははっとして瞬きをする。


「あっ、はい!」


「アリナーさん、待って!」


そして、その後を追いかけて走り出した。

— 作者より —

第31話を読んでくださってありがとうございます!

彼女は、これらすべてを前に見ていたかもしれない――

首都へ向かうユキグとの旅で見逃してしまった、その美しさを。

読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。


現在、この世界の魔法や力のシステムを作り込んでいます。きっと待つ価値のあるものになるはずです!


来週の更新については、次の3話を公開する予定です。

木曜日、金曜日、そして日曜日に更新します。


もし順調に進めば、土曜日にも1話追加して、合計4話になるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
美しい情景描写ですね!
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