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無限の火花の世界 [The Old World]  作者: Rocky Pancakes
第3章:泡の向こうへ
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第32話:驚きの初授業

それは才能か

それとも運か?

「フォーエバーグロウの森」――タルムノル王国の王都の北西。


緑に飲み込まれた森――

木々の隙間から差し込む陽光が、まだらに地面へと落ちる。


葉がささやく。

鳥のさえずりが、遠くで響いては消えていく。


***


ゴォォ――


アリナーは静かに立っていた。


集中している。


片手を前へ――遠くの大きな岩へと向ける。


その手のひらには、ひとつの火球。

明るく、安定して燃えている。


その周囲に風が集まり――締め上げるように収束していく。


草がなびき、葉が舞い上がる。

桃色の髪が、落ち着かない気流に揺れた。


「放つ前にね、ハーリン――

 まずはどこへ飛ばすかを決めるの」


振り返る。


すぐ近くで、ハーリンが両手を口元に浮かせたまま――

目を大きく見開き、驚きと興奮を混ぜた表情で見ていた。


アリナーは微笑む。


そして再び前を向き――その目が鋭くなる。


「進む道を決めたら――

 あとは導いてあげるの」


空気が変わる。


見えない力が形を取り始め――

細長く、中が空洞の筒へと変わっていく。


まるで風でできた砲身のように――

ただ一つの目的のために。


導くために。


一筋の汗が、アリナーの頬を伝った。


わずかに歯を食いしばる。


「最後の工程……ハーリン」


その声には、わずかな力みが混じる。


「これが……一番難しいわ」


振り返り、いたずらっぽく笑う。


ハーリンはごくりと喉を鳴らした。


その胸の高鳴りは、もう不安へと変わっている。


ミス・アリナー……

まだちゃんと聞いてるよ……そんなに無理しなくても……


彼女は慌ててうなずいた。


「はい、ちゃんと聞いてます!」


アリナーは空いている手で額の汗を拭う。


「最後の一歩――

 これで倒れるかもしれないけど……」


最後の一言は小さくこぼした。


再び前を向く。


「進む道が決まったら――

 それを信じて」


一拍置く。


「――放つ」


ヴロォォォシュ――!


火球が前方へと弾けるように飛び出す。


風の通り道を激しく回転しながら、空気を引き裂いていく。


ドォン!!


……


煙が漂う。


岩には――深く焼き焦げたクレーターが残っていた。


「わぁ……」


あれ……ちょっと怖いかも……

崩れちゃいそう……


ハーリンは目を離せなかった。


「次はハーリンの番よ~」


「あ、は、はい!」


彼女は慌てて前に出て、アリナーの位置へ立つ。


手を上げ――深く息を吸う。


……


できなかったらどうしよう……

怒られるかな……


……ううん。お母さんみたいにやればいい。


ぎゅっと目を閉じ、頬を赤く染める。


「んんん……!」


小さな火花が――揺らめく。


……


ぽふっ。


火花はあっさりと消えた。


「……どうしたの、ハーリン?」アリナーは首をかしげる。


ハーリンは俯き、恥ずかしそうに顔をそらした。


「わ、わたし……まだ火、出せなくて……」


アリナーは瞬きをする。


「それは……先に言ってほしかったわね……」とため息をついた。


「ごめんなさい……」


アリナーは少し頬をふくらませ――それから近づき、優しく頭を撫でる。


「大丈夫よ~」


「じゃあ、ゆっくりやりましょう」


「うん!」ハーリンはうなずいた。


アリナーは一歩下がり、腰に手を当てる。


「じゃあ、まずはあなたのマナを見てみるわね」


ハーリンは少し首をかしげた。


マナ……?


それでも頷き――再び前を向いて目を閉じる。


「何を感じる?」


閉じた瞼の奥――


暗闇の中に、無数の赤と青の光が漂っていた。


まるで雪のように、ゆっくりと落ちていく。


「……赤と青の光が見えます……」


「赤と青……」アリナーは小さく呟く。


「さっき火花を出したとき、どうしたの?」


「赤いのを集めて……

 くっつけました……」


「……私とは見え方が違うのね……」アリナーは考え込む。


しばらくして――何かに気づいた。


「ハーリン!」


「そのあと――

 青いので赤いのを“養って”あげて」


「……養う?」


「えっと、青いのを赤いのにまとわせて、それからどんどん流し込むの!」


「……分かりました!」


青いのも大事なんだ……?

やってみよう……


ゆっくりと、赤い光が集まっていく。


ぎゅっと、中心で締まりながら回転する。


そこへ青い光が寄り添い、螺旋を描く。


手のひらの前で――


小さな揺らめき。


……


ぼっ。


小さな火が灯った。


不安定――

でも、確かにそこにある。


アリナーの火球みたいな形じゃない。


どちらかというと――ろうそくの炎のようだった。


アリナーはそれを見つめる。


気づかぬうちに、口元に笑みが浮かんでいた。


「そのまま続けて、ハーリン。

 止めるまで流し続けて」


「はい!」


青い光が渦のように吸い込まれていく。


炎が変化していく――


丸みを帯び、厚みを増す。


ハーリンの水色の髪がふわりと浮き始める。


草が揺れ、枝がざわめく。


空気さえも歪んでいくようだった。


アリナーの笑みはそのままに。


成長が早い……


「そのままよ、ハーリン。

 いい感じ」


どこまで耐えられるか、見せてもらおうかしら……


***


炎は、最初の四倍ほどの大きさに膨れ上がっていた。


そして――


色が変わり始める。


橙から――

黄色へ。


そして、緑へ。


その変化は、はっきりと肉眼で分かるほどだった。


ハーリンは顔をしかめる。


手が震える。


汗が、頬を伝い落ちた。


熱のせいなのか、疲労なのか――分からない。


その背後で、


アリナーは動きを止めていた。


唇が、きゅっと引き結ばれる。


……何かがおかしい。


「つ、続けて、ハーリン……」


「やってる……!」


ゴォォン――


球体が脈打つように膨らみ、淡い青へと変わる。


「んっ――!」


「ミス・アリナー……もう止めていい……?」


返事はなかった。


アリナーはただ見つめている。


その場に縫い付けられたように。


ゴォォン!


再び変化する。


紫へ。


すべての揺れが、止まる。


いや――


自由に動いているわけではなかった。


引き寄せられている。


髪。

服。

草。


枝までもが、内側へと引き込まれていく。


熱で空気が激しく歪む。


「ミ、ミス・アリナー!」ハーリンが叫ぶ。


その声で、ようやく我に返った。


「ハーリン!」


「いい、聞いて――!」


「風で中空の通り道を作って、それで岩に導いて撃ちなさい!」


ハーリンは息を乱しながら、ぎゅっと目を閉じた。


暗闇の中――


青い光が前へと流れ込む。


中空の筒を形作る。


だが――


途中で崩れ、


赤い核へと引き戻されてしまう。


「……だめ……」アリナーが呟く。


「あれを放ったら――」


その目が見開かれる。


「ハーリン!」


「撃っちゃダメ!」


「供給を止めて! そうすれば消える!」


だがハーリンは首を振った。


顔が歪む。


「む、無理……全部引っ張られてる……!」


青い光が――


一つ残らず、赤い核へと吸い込まれていく。


その瞬間――


すべてが止まった。


赤い球体が縮み、


一点へと圧縮される。


そして――


弾けた。


白い球体が、そこに現れる。


小さい――


だが、完璧な形。


それはもう、赤い光の集まりではなかった。


“存在”していた。


ハーリンの目が見開かれる。


手のひらの前にあるのは、


ぼやけた白い球。


それは、決して火ではない。


まったく別の何かだった。


世界が、軽くなる。


切り離されたように。


さっきまで引き寄せられていたものが――


青い髪も、服も、草も、葉も。


今は、ゆっくりと漂っている。


まるで重力が消えたかのように。


アリナーは動けなかった。


思考が止まる。


理解と否定の狭間で。


「……もう……純粋活力に……?」


いや……早すぎる……まだ……


「ミ、ミス・アリナー……?」


ハーリンが振り向く。


その声は震えていた。


涙が頬を伝う。


「コントロールできない……」


体が激しく震える。


「お願い……助けて……」


アリナーは――動かなかった。


考えもしなかった。


長すぎる一瞬。


「……何してるのよ、私! しっかりしなさい、アリナー!」


背中へ手を回し、


巨大なハサミを掴もうとする。


掴めない。


もう一度。


「落ち着け、アリナー!」


ようやく指が柄を捉える。


迷いなく引き抜く。


「ディスフユプッ!!」


斜めに振り抜いた。


ハーリンのかすむ視界の中で、


白い球体は――


白い斬撃によって、真っ二つに裂かれる。


そして――


ゆっくりと消えていった。


同時に、


ハーリンの視界も暗転する。


闇が、彼女を包み込んだ。


***


「……我が一部を分かち、失われしものを繕え……」


ハーリンの目が、ゆっくりと開く。


アリナーが傍で膝をつき、詠唱していた。


「ミ、ミス・アリナー……?」


アリナーは一瞬止まり――


すぐに彼女を強く抱きしめた。


「ごめん……私のせいよ」


「わ、わたしこそ……」


ハーリンの声は弱々しい。


「コントロールできなくて……」


「違う、違う!」アリナーはすぐに体を起こさせる。


「すごかったのよ、ハーリン!」


片手を上げる。


小さな水球がゆっくりと浮かび上がる。


「ほら、飲んで」


「ゆっくりね」


ハーリンは体を寄せ、少しずつ口に含む。


アリナーは、髪に絡まった草を丁寧に取り除く。


「もしお母さんが今日のあなたを見たら……たぶん気絶するわよ」


「私も危なかったんだから!」胸を指して言う。


ハーリンは、かすかに笑った。


アリナーも微笑み返す。


安堵がにじむ。


「あっ!」


服の前のポケットを慌てて探る。


「自分を責めちゃダメよ?」


「私でも、あれは苦戦するわ……」


取り出したのは、


紙に包まれたもの。


それを開く。


クッキー。


「ハーリン、あーん」


ハーリンは小さく一口かじる。


「どう?」


ハーリンは小さく頷き、ほんのり微笑む。


アリナーは残りを彼女の手に乗せ、


優しく頭を撫でた。


「今日はここまでね~」

— 作者より —

第32話を読んでくださってありがとうございます!

この話から分かるように、元素はエネルギーから成り立っており、そのエネルギーの捉え方は人それぞれ異なります。

ハーリンが見ている赤や青の光も、単なる元素を表しているわけではなく、もっと根本的なものを示しています。ですが、その話はまたいずれ。

読者の皆さんの感想をいただけると、とても嬉しいです。


今週の更新については、次の3話を公開する予定です。

木曜日(本日)、金曜日、そして日曜日に更新します。


もし順調に進めば、土曜日にも1話追加して、合計4話になるかもしれません。

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