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ほのぼの空中散歩




「修行から戻られてのアルル様は見違えましたね」

「だろう、と言いたいところだが……そんな涼しい顔で言われても嬉しくないのじゃ!」

「いえいえ、これでも汗を一つ掻きました」

「だったら、一つも掻いてない方がマシじゃい!」

「これでも魔族空手を長年嗜んでいるので。しかし、冗談は抜きにして、強くなられたのは本当のことですよ。戦闘スタイルもかなり変わりましたし」

「魔法とは撃ち放つものと言う固定概念があったのかも知れん。魔法を叩き込むことが、こんなにもアルルに合っているとは自分でも驚きじゃからな」

「仙術は人間が編み出した技術ですからね。魔法の扱いが拙いため、身のこなしを利用し近接戦に持ち込み、魔力を叩き込む」

「お前の魔族空手とどう違う?」

「空手には型がありますので、どうしてもそれに則った動きになります。仙術はどちらかと言えば、変則的な技ですね」

「確かにお前は流れるように攻撃してくるな」

「はい。連続技、多段攻撃が主体なので、攻撃自体に流れがありますね。仙術は一撃に全力を籠める。一撃必殺が多いように思います」

「その一撃をどう叩き込むか、と言う段取りも含めて仙術のように感じるな」

「その解釈で間違いないかと」

「ふむ。では、それを踏まえてもう一戦、願おうか」

「その前に、客人のようですよ?」

「何?」

「あっ、アルル様ー」

「イリアか、どうした?」

「いやぁ、ミアちゃんに修行してもらったって聞きまして。その成果を見に来ました」

「ほぅ、いい心掛けだ。今からクリフと一戦交える。よく見ておけ」

「ああ、あと、コマチちゃんからの報告で、何か知らないけどバルバトスがやられちゃったそうですよ」

「……もう一度頼む」

「だからですね、バルバトスの奴が誰かに倒されたって――」

「バカ者! それを先に言うだろ、普通は!」

「ごふっ! アルル様の拳が超痛い……。これが修行の成果……?」



◇◇◇◇◇



 怪鳥ヘルコンドルでやって来たのは、コマチだった。あたしの魔力を探知して、ライラックの街の遥か上空を旋回していたらしい。

 あたしはあたしで、その気配が気になって転移魔法を使わずに街道を歩いていた。しっかりしているし有能だし、おまけにタイミングもいい子だな。


 さすがに街道にヘルコンドルがいたら騒ぎになるんで、あたしはコマチの誘いに乗って、空中散歩をすることにした。


「ミアさんに聞きたいことがあるんすけど、まずは自分の話を聞いてもらっていいすっか?」

「いいよ」


 ヘルコンドルの上で向かい合うあたしたちの間には、木でできたローテーブルの上に、お茶とお菓子が置かれていた。まさか、ヘルコンドルの上でお茶をするとは。この子もこの子で、お茶が零れないよう、ゆっくり旋回しているんだろう。

 魔物って手懐けると、ここまでできるんだ。


「ミアさんは魔族軍総隊長だったバルバトスをご存知っすか?」

「いや、知らない。魔族軍とはやり合ったことないしね。けど、総隊長って言うくらいだから強いんでしょ?」

「はい。元は先代魔王様のライバルだった人で、先代様もその実力を認め、総隊長に任命したんす。あの勇者グラインをもう一歩のところまで追い詰めたとか」

「へぇー、凄いじゃん。じゃあ、間違いなく次の魔王候補っしょ?」

「そうなんす!」


 コマチは少し食い気味に、前のめりになりながら声を上げた。


「バルバトスは魔王候補の一人で、現在その中でも最有力候補っす。認めたくないっすけど、やっぱり人脈も人望もアルル様よりも持っているので……」

「まあ、アルルが若すぎるってのもあるだろうし、魔族は血筋重視じゃないんでしょ?」

「そうっすけど、先代様の実力があまりにも高かったせいか、アルル様に希望を抱く魔族も少なからずはいるんすよ」


 オリヴィアやイリア、コマチみたいな魔族が、ね。


「だから、バルバトスも有力候補と言われつつも油断はできない。だから、密かにアルル様を手に掛ける計画を進めていたようなんす。自分はその密偵をしてました」

「なるほどね。それで、遂にそのバルバトスが動いたから助けてって?」

「いえ、そうではないんすよ」


 違うんかい。


「結果から言うと、バルバトスはやられました」

「ええっ!? そうなの!?」

「順を追って説明しますと、バルバトスは幻惑の森でアルル様が修行するって情報を掴んだようなんす。そして、修行中のアルル様を襲う計画を立てた。自分はその密偵をしていたんで、その動きはすぐに察知したっす。けどまあ、ミアさんが一緒だし、問題ないよなぁって、ちょっと放置してたんす」

「……コマチ、イリアに似てきたんじゃない?」

「何か、嬉しくないっすね、その言葉」

「だって褒めてないしね」


 逸れた話を戻すために、コマチは咳払いを一つ。


「そしたらさっき、バルバトスが誰かに倒されたって情報が入ったんすよ。アルル様への報告は隊長に任せて、自分はこっちにすっ飛んできたってわけっす」

「けど、あたしはバルバトスなんて奴、知らないよ?」

「ミアさんの場合、知らずに倒しちゃうってこともあるっすよね」

「いやいや、さすがにそれは……――」


 あるな、うん。あるよ、多分。

 知らない魔族がクロエちゃんにちょっかい出してたら、相手が誰かなんて確認する間もなく、ぶっ飛ばすだろうから。


「けど、あたしはあそこでアルル以外の魔族とは戦闘してないよ。これはほんと」

「バルバトスの仲間が漏らしていた言葉があるんですけど、何でもとんでもないファイアボールにやられたそうっす」

「あっ……!」

「やっぱ心当たりあるんじゃないっすか!? 絶対そうだと思いましたもん! ファイアボールでバルバトスを倒せるなんて、ミアさんしかいないっすもん!」

「違う、違う! これは何て言うか……偶然! 不可抗力だから!」

「知ってること、吐いてもらうっすよ」

「ふぁい……」


 って、あたし何か尋問されてるみたいになってるけど、結果的にはアルルを狙う輩を倒したんだよね!? 感謝されてもいいんじゃないのかな!?


「アルルとの修行の時に、渾身のファイアボールを撃ったわけ。アルルは多重障壁を出したけど、そんなもの簡単に貫通するのはわかってた。だから、わざとアルルの体からは外したのね。それは誰もいない平原に被弾したんだけど……」

「まさか、偶然そこにバルバトスがいた……?」

「あたしは修行中、その一回しかファイアボールは使ってないよ」

「じゃ、じゃあ、バルバトスは流れ弾に当たってやられたってことっすか……?」

「不憫な奴だね。同情するよ」


 何かツッコまれるかと思いきや、コマチは頭に手を当て項垂れて、大きな溜め息を吐くだけだった。ツッコまれるより、こっちの方が何かちょっと腹立つな。


「まあでも、アルル様の敵だったわけですし」

「そう、そこ! そこを評価してほしいな。んで、そいつ死んだの?」

「いえ、瀕死の状態だったらしいっすけど、何とか周りにいた仲間が回復させたって。ただ、当分は戦線復帰できなさそうっすよ」

「結構、距離あったからねぇ。さすがにファイアボールで死なないか」

「十分凄いっすけどね……? 魔族軍のナンバーワンを初級魔法で瀕死にしたんすから。正直、ミアさんに近付くの怖かったっすもん。間違って攻撃されないか」

「しないわっ。誰かいるってわかってたら加減するしっ」


 だんだんとコマチもあたしの扱いが雑になってきてないか? 最初はあんなにもカッコいいって褒めてくれてたのに。


「けど、魔族側は大丈夫なの? 魔王有力候補が戦闘不能なんでしょ? 人間至上主義の勇者たちが指を咥えて見てるだけとは思えないけど?」

「そうなんすけど、まだ人間側の動きはないみたいっすね。情報がまだ漏れてないのか。それとも、人間側にも何かあったか」

「うん? そう言えば、勇者に何かあったらしいって話は聞いたよ」

「マジっすか!? それって詳しく教えてもらえたり!?」

「ごめん。ほんとに隠す気はないんだ。けど、詳細はあたしにもまだわかんない」

「大丈夫っすよ。ミアさんのことはわかってますから。けど、そうなると今は両種族お互いが何か問題を抱えてるってことっすかね?」

「変な偶然も重なったもんだね」

「っすねぇ」


 呑気にコマチが応えるもんだから、あたしも呑気にずずずっとお茶を啜る。

 いやはや、風が気持ちいいですなぁ。




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引き続き宜しくお願い致します。

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