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ほのぼの雑談



「やはり小娘、幻惑の森に来たな」

「どうして読めたんだ、バルバトス様よお?」

「魔術師の修行の場として名高いのもそうだが、先代魔王様や俺も修行した場所だと、幼い頃のあの娘に話したことがあるんだ。だから、いずれここに来るとは思っていたのさ」

「修行して疲れ切ったところを襲うってわけか?」

「ああ。俺も経験したからわかる。あそこでの精神消耗は半端なものじゃない。おそらく護衛を付けてはいるだろうが、そいつらの疲労も溜ってきた頃だろう」

「そこを一気に叩くってわけか」

「強くなったと浮かれているところを、な」



「グライン様、こちらです」

「おお、着いたか。ったく、国王軍の魔術師が三人掛かりでようやくかよ」

「す、すみません。距離が距離だけに、一度に転移するのは無理で……」

「まあ、お蔭で俺の魔力が温存できたからいいが。それで? 幻惑の森はどっちだ」

「あちらですね。騎士団の魔力も少し感じます」

「修行なら俺が付けてやるってのによ。噂の宿屋のお手並み拝見といかしてもらおうか」



「おっ?」

「うん?」



「て、てめえ、魔族軍のバルバトスじゃねえか!?」

「お前は勇者グライン! なぜここに!?」

「それはこっちの台詞だ! けど、まあいい。今度こそ、ぶっ殺してやる!」

「パーティーのない今のお前など、恐るるに足らぬわ!」

「ぐ、グライン様! 前方から何かの魔法が!」

「バルバトス、気を付けろ! 敵襲かも知れないぞ!」

「あぁ? ただのファイアボールじゃねえか。放って置け」

「あの程度の初級魔法で俺の体に傷一つ――」


 ドガァアアアアアーン!!


「グライン様が流れ弾のファイアボールでやられたー!?」

「おい、バルバトス! しっかりしろ、おい!」

「すぐに回復魔法を!」

「こっちも回復だ、急げ!」

「お、おい、魔族の者。一つ提案があるのだが……」

「奇遇だな。俺も提案したいことがあるんだ」

「ここはお互い見なかったことにすると言うか……」

「そもそも出会ってもなかったってことにして……」


「「撤収だ!」」



◇◇◇◇◇



 幻惑の森での修行は二週間ほどで幕を閉じた。アルルはよくあの修行に耐えたもんだ。お蔭でかなり成長して、上級冒険者でも五人くらいなら一度に相手できるくらいにはなったんじゃないかな?


 騎士団の方も個人のレベルとしては凄く成長したってわけじゃないけど、団としてのレベル、連携の強化はできたと思う。

 大体の上級魔法でも一回は無効化できるアイテムを錬成してあげたし、それでもダメそうなら最悪呼んでくれてもいいよ、とは言ってある。正直あんまり行きたくないけど。


「ウェルさんはもう、うちの常連さんですね」

「あの人の依頼って、結構面倒で厄介なことが多いから、ちょっと嫌なんだけどね」

「詳しくは聞いてなかったですけど、あの修行は領主様からの依頼だったんですか?」

「いや、そうではないんだけど……まあ、似たようなものかな。お偉いさんに頼まれちゃってさ。あたしは直接手を出さなくていいから、修行だけ付けてほしい、ってさ。ちょうどアルルもいたし、ついでにいっかって思ったってわけ」


 今日は出張宿屋としてじゃなく、普通にサンローイの宿屋として営業をしていた。

 ちょっと前にちょっかいを出して来たマルクスの宿は未だ人気で、こうして通常のグランベルジュに泊まりに来てくれる人は珍しいし、大切なお客様だ。


「アルルもだいぶ逞しくなって帰ったし……って、ねえねえ、オリヴィア?」

「何?」

「アルルって魔王城に住んでんの?」

「違うわ。詳しい場所は私も知らないけど、先代様が所有していた屋敷が別荘に住んでいるはずよ。魔王城は魔王のためのお城だから、現役の魔王とその親族、選ばれた配下しか住むことができないの」

「じゃあ、魔王城って今、蛻の殻なの?」

「いえ、管理人がちゃんといるわ。先祖代々、魔王城を管理している魔族の家柄があって、魔王不在の際は彼らが城を管理しているの」

「へぇー、じゃあある意味、魔王代理じゃん」

「古くからの取り決めで、彼らには魔王に準ずるような権限は一切与えれていないそうよ。あと、魔王の座に立候補することもできない」


 結構ちゃんとしてる、って言うと失礼なのかな? あたしも知らない魔族の世界を少し垣間見たような気がした。


「前に出張依頼で魔王城の近くに行きましたよね」

「そうなの?」

「まだオリヴィアさんがうちに来る前の話です」

「その時は城の中に入らなかったの?」

「近くに宿を出してほしいって依頼で、しかも二日だけの短期間」

「……何なの、その依頼?」


 オリヴィアが首を傾げるのも無理ないだろうね。あたしも最初は「この依頼者、何言ってんだ?」って思ったもん。


「勇者気分を味わいたかったらしいよ」

「勇者気分?」

「その依頼者はまだまだ未熟な冒険者で、でもいつかは自分も勇者みたいな強い冒険者になるんだって、憧れだけは強かった。だから、自分の目標を高く掲げるために、一度魔王城をこの目で見ておきたいんだ、って依頼だったの。それで、あわよくばその辺の魔物でも倒せたら、もっと自信が付くんじゃないかって」

「何か倒せたの?」

「倒せるわけないじゃん。一撃で瀕死だよ。あたしも初めての魔王城だったし、ちょっと楽しみだったんだけど、そいつの介護に必死で探索すらできなかったんだ」


 グランベルジュの噂に魔王城の傍にも出張した、ってものがあるんだけど、これは確かに真実だ。けど、実際のところはただ単に、魔王城の近くに宿を出しただけ。宿を建てただけ。

 何か特別な、凄いことをやってのけたわけでも何でもないんだ。


「魔王城ってどんなとこ?」

「無駄に大きい要塞、もしくはダンジョンってところかしら。何十年、何百年と勇者やそのパーティーに襲撃されるものだから、日に日に増設されていって、魔族でさえも迷子になっちゃうくらいなのよ」

「住んでる家の中で迷子になるってことだよね? 不憫すぎない?」

「恥ずかしいわよ。だから、魔王様も極力、魔王の間からは出ないようにしていたわ」


 魔王って玉座にどっぷり堂々と座っているイメージがあったけど、それって迷子にならないためなんだ……。何か可愛いけど、可哀想だな。


「しかも、城内はトラップだらけ。管理人はそれを一つ一つちゃんと記録しているけど、こっちはそんなの憶えていられないわ。だから、不用意に歩けないのよ」

「お城って豪華で優美なイメージでしたけど、魔王城はちょっと違いますね……」

「ただ、あそこに住むと自然とレベルが上がるわよ。危険回避とか危険察知の能力が」


 オリヴィアの師匠、フィンネルさんの察知能力が高かったのも、そう言う理由があったのかも。


「アルルが魔王になったら、オリヴィアもまた魔王城のシェフやるの?」

「あっ、そうですよね……。オリヴィアさんは元々、お城のシェフでしたし、魔族としてもそっちの方が誇らしいお仕事ですもんね……」


 あたしは何の気なしに聞いたんだけど、クロエちゃんは少し悲しそうな顔をするのだった。それを見たからか、オリヴィアはできるだけ無表情を装っているように、あたしには見えた。


「多分、呼ばれないわよ、私は」

「そ、そんなこと――」

「アルフィード様が魔王なら、あたしをこのままグランベルジュに置いておくと思うの」

「あっ、そっか……」

「グランベルジュは魔族と人間の、謂わば架け橋になるような存在。確かに魔王城のシェフは料理人として誇らしい称号だけど、私にとってはグランベルジュの料理長って言う肩書きの方が大事なのよ」

「オリヴィアさぁん、ありがとうございますぅ!」

「泣かないの、クロエ。ミアに嫉妬されると面倒でしょ」


 久々の日常だなと思うとホッとするような、イジられてるのが日常なんだと思うと少し悲しいような、何か複雑な気分になる今日の駄弁り合いだった。



 それから数日後。

 ウェルさんから前の元国王軍の賊についての、結果報告をオルレアンさんの屋敷で聞くことになった。結果から言うと、賊は倒されたそうだ。それなりに苦戦したそうだけど、相手が必殺技みたいなものを放ってきたんだけど、それをあたしの錬成アイテムがあっさり無効化しちゃったもんだから、戦意喪失しちゃったらしい。

 賊とは言え、気の毒だな。何か、ごめんとしか言いようがない。


 元々の依頼主であるガーランドさんもお礼がしたいって言っていたそうだけど、実際に動いて頑張ったのはウェルさんたち騎士団だ。だから、お礼ならそっちに、って丁重にお断りしておいた。


「ミア殿なら辞退すると思っていたが、一応伝えてはおきたくてな。ただ、実際のところは律儀にお礼に来る余裕もなさそうなんだがな」

「うん、何? どゆこと?」

「王都の方が何やら慌ただしいのだ。詳しいことは私にもまだ伝わっていないのだが、勇者殿に何やらあったらしい」

「へぇー、何かヤバそうな感じだね」

「王都が混乱する前に、例の賊を捕らえられたのが幸いだ。だが、王都は事態の収拾で手が回っていないのが実情のようだ」

「ウェルさんたち騎士団にも何か要請が? 何だったら手伝おうか?」

「気遣い、感謝する。だが、今のところ我々には何の要請も依頼もない。王都は今回の一件を穏便に済ませたいのかも知れない。あまり知られることのないように。そんな感じがするのだ」


 だとしたら、不祥事とかかな? それが勇者関連ってことだよね? もしかして不倫でもした!? そっち系のスキャンダルとかかな。それだったら、ちょっと面白そうだ。


「ミア殿、何故にやけているのだ……?」

「にやけてないっ」

「何が起きているかはまだわからないが、事と次第によっては芳しくない状況になるやも知れない。気を付けてくれ」

「心配ありがと。けど、あたしがいれば大体のことはどうにかなるから大丈夫だよ」

「だな。うちの団にもミア殿のような人材がいてほしいものだ」


 やめろ。高齢者を扱き使うもんじゃないよ。


 ウェルさんとの雑談もそこそこに、あたしは屋敷を後にした。



 何かこの頃、お喋りばっかのほのぼのライフだな、とか思っていた矢先。

 お喋りには変わらないんだけど、ほのぼの感がいきなりなくなってしまった。


「ミアさん、ミアさん! お久しぶりっす! 自分っす! いきなりで申し訳ないんすけど、自分の話、聞いてくれないっすか!? ああっ! お茶とお菓子はたっぷり用意してるんで!」


 街道を歩いていたあたしの目の前に、バカデカい怪鳥が舞い降りて来て、それに乗った魔族の少女があたしに向かってぺこぺこと頭を下げてくるのだった。


『釣り好きが高じて釣り上げちゃったのは異世界貴族のご令嬢でした』

と言う作品も投稿しています。

釣りと料理を主に扱った作品です。よかったら、そちらも楽しんでもらえると嬉しいです。


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