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第3話:正円の呪い③

「...ここか」

 翔はコンビニの駐車場に軽自動車を停める。扉を開けると、そこから海の潮風が入ってきた。彼は車の外へと出ると、伸びをする。やはり海沿いは空気が綺麗だな。

 絆も後部座席から立ち上がると、車の天井に頭をぶつけそうになりながらも外へ出た。海風で白衣の裾がたなびく。彼女は少し駐車場を歩くと、柵の前に立って景色を眺めた。

 コンビニは高台にあったので、小さなK漁港を見渡すには十分だった。港に建てられた幾つかの倉庫と、係留された漁船がよく見える。その向こう側には、穏やかな湾の水面が広がっていた。

「ここなら、良い海藻が採取できそうです」

「...あんた、本当に連れとか居ないのか?」

「はい」

 絆は真顔で頷く。オリーブ色の長い髪と、胸元のペンダントが揺れた。翔は顎に手を当てて考える。

「...じゃあ、俺が案内してやろうか?」

 絆は目を丸くした。

「え、良いんですか?」

「ああ。この漁港には俺の知り合いも居るし、その方が手っ取り早いだろ」

 翔がそこまで話していると、既に絆は道路をスタスタ歩いていた。どうやら待ち切れなかったらしい。

「...おい、勝手に行くな!」

 彼はコンビニの駐車場を走り、必死に絆に追いつこうとした。


 高台の下。倉庫が立ち並ぶコンクリートの路面の側に、K漁港の漁業組合はあった。中には金属製の机が幾つか置かれており、古い扇風機が回っている。翔がそこの扉を開けると、中に居た中年の男性が顔を上げた。

「おお、翔くんじゃないか。久しぶりだな」

 彼は書いていた書類を机に置くと、翔の肩をポンと叩く。翔ははにかんだ。

「幕さん、相変わらず力が強いね」

「まあ、出荷作業やら水揚げやらを手伝ってるからな」

 幕さん、と呼ばれた男性は頷くと、椅子に座り直す。翔も隣の椅子に座った。

「で、今日はどうしたんだい」

「...実はちょっと、会わせたい人が居て」

 幕さんは頭をひねる。

「誰なんだ、その人は」

 翔は振り返ると、外で待っている絆に声をかけた。

「入っても良いぞ」

 扉が開き、絆が入ってきた。まだ白衣を着込んでいる。幕さんは眉をひそめた。

「...翔くんの彼女さんかい?」

「違うって! そういう関係じゃないから!」

 必死に否定する翔をスルーし、絆は空いている椅子に腰掛けた。

「早明浦絆、と申します。零壱大から参りました」

「...幕張瞭(まくはりりょう)だ。ここの漁業組合で働いている」

 幕さんは絆の方に視線を向ける。少し不審に思っているのだろう。

「...で、翔くん。この人はどういう事情でここに来たんだ?」

 翔は絆の腕をつつく。自分で説明しろ、と言いたげだ。だが絆は、それに気付かない振りをした。どうやら翔に説明を押し付けるつもりらしい。彼は溜め息をついた。

「...海藻の調査に来たらしいんだけど、詳しいことは分からない」

「まさか、その調査に協力しろと?」

 幕さんの表情が曇る。まあ、そりゃそうだろう。知らない人間がいきなりやって来て、調査させてくださいと言っているのだから。絆は椅子から立ち上がると、幕さんに向けて頭を下げた。

「突然押し掛けてしまい申し訳ありません。どうかこの調査に、協力して頂けませんか」

 幕さんは腕を組んで考え込む。

「うーん、しかしこっちとしても準備とかが必要になるしな...」

 さらに絆が説得しようとした時、扉が勢い良く開いた。息を切らした若い男性が入ってくる。

「幕さん、居るか?」

「...ああ。どうした?」

 男性は、壁に手を付きながら呟いた。

「...例の呪いだ。また現れたらしい」

 それを聞いた絆の瞳に、光が灯った。

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