第1話 異世界への転移
午後十一時、コンビニの白熱灯が目に刺さるように痛む。
天宮零はビニール袋を提げて自動ドアから外へ出た。初夏の湿った夜風が顔をなでる。袋の中には割引弁当が二つ、烏龍茶が一本——「冷蔵庫は空っぽだ、母さんは今夜も残業だ」。
彼はだるそうにポケットのスマートフォンを取り出そうと手を伸ばした。
その瞬間、視界が太陽を直視したかのように強い光で弾け、再び目を開けた時。
目の前には、昼過ぎの陽射しでほんのり熱を帯びた灰白色の石畳が広がっていた。両側には三、四階建ての石造りの建物が並び、壁はくすんで枯れた蔦が這い上がっている。頭上の看板がきしみながら揺れ、見知らぬ文字が刻まれていた。空気には香辛料、革、汗、それに馬糞のにおいが混ざり合う。
ここは商店街なのか。それとも、それに似た場所なのか。
「どけ!」
乱暴に肩を押され、零はよろめいて顔を上げた。
人通りは絶えない。ローブをまとった商人、大剣を背負った屈強な男、ターバンを巻いて子供を連れた女。
さらに遠く、通りの突き当たりには巨大な城壁が空高くそびえ立つ。灰がかった黄色い石の壁は重厚で古びており、城門は開いたまま、馬車と商隊が長い列を作って入城検査を待っていた。
ビニール袋を握る指が緩み、中身が地面に転がり落ちた。
零は右手を上げ、陽だまりの中で五指を広げた。
肌に伝わる熱、耳に届く風の音、遠くの馬のいななき、革と香辛料が混ざり合ったにおい。
「これは……夢なのか?」
「ねえ、大丈夫?」
横から声が聞こえてきた。
深い茶色のショートヘアの少女が三歩先に立ち、肩にはパンパンに膨らんだ布袋を背負っている。頭には毛深い耳がまっすぐ立ち、琥珀色の瞳が警戒した様子で彼を見つめ、後ろのふわふわした尻尾は少し逆立っていた。
十三、四歳くらいの少女だ。
「道の真ん中でぼんやりしていたら、馬車にはねられちゃうよ」彼女は近づき、零の手首を掴んで道端へ引っ張った。
「……ここはどこだ?」
「トレド。帝国東部の国境都市だ」少女は手を離し、耳をぴくりと動かした。「自分がどこにいるか分からないの?」
「分からない」
「……まさか名前まで忘れちゃったの?」
「天宮零」
「変な名前だね。私はリア」彼女は眉をひそめ、彼を上から下まで眺め回した。「その服、地元のものじゃないし、訛りもおかしい。いったい何者なの?どこから来たの?」
零は一瞬黙った。「話したところで信じてもらえないだろう。別の世界から来たんだ」
彼は反応を待った。疑われるか、あざ笑われるか、狂人扱いされるか。
だがリアはただ首を傾げ、耳を前に向けた。
「……転生者?」
今度は零が驚いた。「知ってるのか?」
「たまにいるよ。賢者の塔の文献にも載ってる。塔を建てた賢者たち自身が転生者だったらしい」リアは天気の話をするようにあっさり言った。「故郷に帰りたいんでしょ?」
「……ああ」
「なら王都へ行かなければならない。賢者の塔とアタロル図書館はそこにあり、この世界のほとんどの知識が保管されている。帰る方法があるとしたら、間違いなくそこにある」リアは一瞬黙り、尻尾を垂らした。「だがここから王都まで、馬車でも一ヶ月近くかかる。旅費はある?」
零はポケットを探った。空っぽだ。
「ない」
「やっぱり」リアはため息をついた。「行こう、城門の掲示板を見に行く。商人が臨時の荷物運びを募集していることがあって、食事付きだ。数日働けば旅費が貯まる。今夜の飯代すらないのに、先のことを考えても仕方ない」
彼女は歩き出し、振り返って彼を見た。夕日が背後から彼女を照らし、輪郭に淡い金色の縁取りを与える。逆光の中、琥珀色の瞳が特に鮮やかに輝いていた。
「行きなさい、ぼんやりしてないで」
零は最後に、地面に転がった弁当の容器と烏龍茶のペットボトルを見た。それは前の世界から持ち込んだ唯一の痕跡だ。
拾わなかった。足を上げ、リアの後を追った。
――――
城門横の掲示板は巨大な板で、黄ばんだ羊皮紙がびっしり貼られていた。リアはつま先立ちになり、尻尾を左右に揺らしながら、一列ずつ文字を素早く目で追った。
「あった」彼女は端からしわくちゃな一枚をはがした。「レイトン商隊、臨時荷物運び募集。日給三十クリスタルコイン、二食付き。明日早朝出発、西へ向かって三つの町を経由し、最終的に王都近郊のゼル町まで行く」
「王都近郊?」
「そう、途中まで乗せてもらえる。旅費が半分以上浮くわ」彼女は告示を零の手に押しつけた。「急いで、まだ日が暮れていないうちに、商隊の管理人に会いに行こう。この仕事は奪い合いになるから」
リアに引っ張られ、街の半分を横切った先、木箱が山積みされた倉庫の前で商隊の管理人に会った。口ひげを生やしたドワーフで、腕は太く、エプロンには油が染みついている。
「荷物運びか?」ドワーフは零を一瞥した。「華奢な体つきだが、何キロ運べる?」
「二十五キロなら大丈夫だ」
実際に運べるかどうかは分からない。だがこう言うしかなかった。
ドワーフは鼻で笑い、隅に積まれた木箱を指した。「これらをあちらの馬車まで運べ。十個運び終わったら、今日の仕事は合格だ」
木箱は重かった。最初の一つを肩に担いだ瞬間、肩甲骨に見知らぬ痛みが走る。麻のシャツはすぐ汗で湿り、背中に張り付いた。零は歯を食いしばり、一つずつ運び終え、指には木片で何箇所も切り傷がついた。
ドワーフが数え終えると、腰から三枚の輝くクリスタルコインを取り出し、零の手のひらに乗せた。
「明日夜明け前に出発だ、遅れるな」
倉庫を出ると、零の手は震えていた。疲れのせいではない。三枚のコインが手のひらに重く乗っているからだ。三十クリスタルコインで何が買えるのか。何食分の飯か、一晩の宿か。彼にはさっぱり分からなかった。
リアは一枚のコインを受け取り、夕日の下で高く掲げて細目に眺めた。そして再び零の手に戻した。
「この一枚は私が貸してあげる。王都から戻ってきたら、倍返しだ」
「……利息が高すぎないか?」
「当然だ。ハイリスク・ハイリターンよ。正直言って、生きて戻れる確率は高くないもの」リアはあっさり言うが、尻尾は垂れ下がっていた。
零は手のひらの三枚のコインを見つめた。これがこの世界での全財産だ。
「王都までの道中、三つの町を通るんだって?」
「そう。ゼル町が最後で、そこから王都までは一日だ」リアは指を折って数えた。「道中は気をつけろ。この辺りの商隊はたまに魔物に襲われるから、管理人も急いで人を募集しているんだ」
「魔物?」
「うん、城外は安全じゃない。見たことないの?」リアの耳が立ち、彼が本気だと気づいてため息をついた。「とにかく商隊から離れないように。後は道中で覚えていけばいい」
彼女は布袋を肩に担ぎ直し、路地の奥へ歩き出した。
「リアの店はあっちだ。明日は城門まで見送りに行く」彼女は背中を向けたまま手を振り、尻尾が闇の中で二回揺れた。「死ぬなよ、天宮零」
零は倉庫の前に立ち、小さな姿が薄暗い路地に消えるまで見送った。夜風が冷たく吹き、遠くの城門のたいまつが風でゆらゆらと明滅している。
彼は汗で湿った三枚のコインを見下ろし、強く握り締めた。
この世界にはコンビニも、割引弁当も、家でゲームをする部屋もない。だが城壁も、魔物も、商隊も、コインを貸してくれる亜人の少女も、すべての知識が眠る塔も存在する。
零は顔を上げた。
空には二つの月が輝いていた。一つは大きく明るく、もう一つははるかに小さく、くすんだ衛星のように大きな月の左下に浮かんでいる。見知らぬ星座が夜空一面に広がり、知っている星は一つもない。
彼はコインをベルトの内側にしまい、リアの教えてくれた安宿の方へ歩いていった。




