最終話「罪の始まり」(後編)
浴室のタイルは、飛散した血に斑に塗装されて居るが、窓からの黄色い陽射しに照らされて凄絶に観える
眼前
溺死する寸前の者があげるような、ごぼごぼした声で色が呼吸して居る
正確には、呼吸が出来ては居ない
自らの血液を喉に詰まらせて、彼は窒息しながら床で猫のように躰を丸めて居る
そんな姿すらが色という男は掛け値無しに綺麗で、きっと先刻までの僕ならば、嫉妬して居たと思う
しかし当初予測した通り、そうした人間的感性は既に遥か後方に追いやられて居た
光輝く朝の陽光、
血に汚れながらも白鳥のように清潔で優美なる少年の皮膚、
淫靡に露出した、彼の皮膚の下の真実たる紅い紅い血肉………
僕は色の傍らに屈むと、肩部に在る皮膚の損壊箇所に触れて、手のひらに血を掬い取った
傷口を触られて呻く色を、立ち上がりながら素足で踏み付ける
赤い飛沫が、跳ねて僕の足を新しく彩色した
視せ付けるように舌を出し、手から血を一嘗めする
昂揚が咥内で、単なるヘモグロビンを甘露へと変えていく
我慢ならず、僕は着ていたシャツを破くと、余った血を自分の躰に擦り付けて塗りたくった
僕の皮膚組織の中の細胞が、色の躰から出た熱い粘液質の生命情報を飲み干していく音が、頭の中で聴こえる
ズボンの中で躰液が弾け飛ぶ感覚が有ったが、最早それすらが気にならなかった
それよりもメモを用意して居なかった事が、僕は本当に悔しかった
色程の美しい男でも、木椅子で殴り続けると、けだもののような声で呻いてみせること
その木椅子が、僕の興奮を満たし切る前に砕けて木片になってしまったこと
色の血は僕の皮膚にとても馴染んで、塗布した箇所の皮膚には弾力や質感、白さなどの面で向上が視られたこと………
余りに記録したい内容が、膨大すぎた
それだけではない
僕は彼の歯をペンチで折りたい
足の指を切断して食べさせ、喜びの感想を言わせたい
彼の血を湛えた浴槽に入りたい
まだまだ、やりたい事が余りに多過ぎる………
「色」
「…………生きよう」
「世界は、こんなにも美しいから」
色が顔を上げた
【被疑者「■■」の日記より一部抜粋】
・調書補足
※日記に書かれて居た場所を捜査したが、記載されて居た教会は存在し無かった
※また、『有澤色』と云う名前の少年は様々な特徴を鑑みても現実には存在して居らず、死体の身元は今でも判明して居ない




