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最強の3K魔法使い ~臭い、汚い、気持ち悪い~  作者: マノイ
間章:次の街へと向かう前に

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23. 二番目のお姫様と次の目的地

「シュウ様、プリンテンス様がお呼びです」

「あ、はい、分かりました」


 プックルの探索者登録をした翌日、今日は誰の顔を見に行こうかと考えていたらメイドさんが俺を呼びに来た。指定された部屋に向かうと、次女のプリンテンス様、プックル、エリーさんが居た。


「(本が山積みで倒れそう)」


 特にデスク周りは本だらけで、その中心に座っているプリンテンス様は本に埋もれてしまいそうだ。

 流石に応接用と思われるソファー付近には本が少ないので、そこに座っているプックルもエリーさんもそんな危険は無さそうだが。


「うふふ、レディーの部屋をそうジロジロ見るものではないわよ」

「あ、申し訳ありません!」


 部屋の様子を確認していたらエリーさんに窘められてしまった。

 確かにどんな部屋であれ必要以上に観察するのはマナー違反だ。


「別に気にしていません。それより早くお座りください」

「は、はい」


 相変わらず感情が薄く事務的な対応だ。

 プリンテンス様が感情豊かに話をしたのは、プックルにプロポーズした時の『私達はプルプックルのことを愛している。そういうことです』だけだ。それ以降はあまり話す機会は無かったけれど、偶に話をすることがあっても淡々とした口調なのが印象的だった。


 俺はプックルの隣に座りながら、何故呼ばれたのかを確認した。

 座った直後にプックルがすすっと体を少し寄せてくるのが超可愛い。


「プックルとエリーさんも呼ばれていたのですね。一体どのような御用でしょうか」

「霊薬の素材についてです」

「在処が分かったのですか!?」


 俺達が霊薬探しの旅に出るという話をしたら、プリンテンス様とエリーさんが素材の在処を調べてくれることになったのだ。

 流石に任せきりなのは申し訳なく俺も調べないとと思ったのだが、旅の準備(イチャイチャ)してろと丁重にお断りされてしまった。二人ともプックルを溺愛しているから彼女の為に何かをしたいと思ってくれているのだろう。

 ちなみにプックルはしばらく王都を離れることになるため、俺とのデートだけではなく他の姉妹と話をする時間を沢山設けている。そこでたっぷりと甘やかされているらしい。


「いえ、代替素材が存在する可能性が高い場所について判明しました」


 霊薬の素材はあまりにも貴重であり、そもそもどこで入手すれば良いか分からないものがほとんどだ。しかし先ほどの臭い森騒動で分かったことだが、何らかの異変によって既存の素材が貴重な素材へと変化している可能性がある。そこならば霊薬素材の代わりとなるものが採取出来るのではないかということらしい。


「マッタンベークの沼で聖純水ホーリーピュアウォーターが見つかるかもしれません」

「マッタンベークの沼?」


 王国どころかこの世界の地理について疎いので全く聞いたことが無い。

 そんな俺の反応に気付いたのかエリーさんがフォローしてくれた。


「王都より遥か南東、マッタンベークの街の東にある沼のことよ」

「そこに聖純水ホーリーピュアウォーターっぽいものがあるってことですか?」


 霊薬の素材の一つ、聖純水ホーリーピュアウォーター

 純水なのに聖なる何かが混じっているじゃないか、なんて言ってはならない。むしろその混じっているのに純水であるという矛盾した存在であることがポイントで、単なる純水に聖属性の魔力を付与したところで聖純水ホーリーピュアウォーターにはならない。


「分かっていません」

「え?」

「私が提示できるのは、あくまでも可能性だけ」


 ううむ、なんだか曖昧な表現すぎて良く分からない。

 教えてエリー先生!


「臭い森のことを覚えているかしら」

「はい」


 忘れたくても忘れられるわけない。


「あそこでは特殊な臭いが充満したことで、本来の素材の性質が大きく変化したわ」

「つまりマッタンベークの沼でも似たような何かが起きていると」

「ええ。数年前から沼の色が禍々しく濁り、不快な臭気を放っているそうよ」

「また臭いんですか……」

「うふふ、臭い森よりも臭くは無いから安心して頂戴。実際にあそこは何人もの人が調査に向かっているから」

「誰も近寄れなかった臭い森とは違うってことですか」


 とはいえせっかく臭い森から解放されたのにまた(にお)いと戦うのはどうにも気が進まない。

 もちろんプックルのためを思えば行かない選択肢なんかないけどさ。


「でもそんな場所に聖純水ホーリーピュアウォーターの代わりになりそうなものがあるんですかね。真逆のイメージですけど」

「あら、臭い森だって解呪ポーションの素材なんて無さそうな場所だったでしょう?」

「確かに。思い込みはダメってことですか」


 もしかしたらプリンテンス様もエリーさんも俺と同じように思い込みをしていて、マッタンベークの沼で聖純水ホーリーピュアウォーターが採取出来るかもしれないという考えにすぐには至らなかったのかもしれないな。だって気付いていたらすぐに教えてくれたような気がするし。

 

「プックルを連れて行きたく無いなぁ……」

「行きます!連れて行って下さい!」

「でも臭いんだよ?」

「平気です!頑張ります!」

「ゲロインにはなって欲しくないんだよね」

「良く分からないけど、ゲロインとやらにもなります!」

「ならないで!?」


 好きな人がオロオロとキラキラリバースする姿なんて見たくないよ。

 もちろんその程度で幻滅なんてしないしちゃんと介抱するけどさ。


「むしろシュウ様の臭魔法を私に使ってください!」

「何言ってんの!?」

「臭いに慣れれば私も共に戦えますから!」


 確かに俺が臭魔法で相手の動きを封じてプックルが攻撃するという役割分担にすれば、エリンギゴリラとの戦いのように無様に殴り続ける必要は無くなりスマートに敵を倒せるようになる。強敵相手にも十分に立ち回れるだろう。


 しかしだからといって、自分の嫁ヒロインに超臭い魔法をかけられるわけがないだろう!?


「お願いします、シュウ様……」

「うっ」


 上目遣いでウルウルするのは反則だ。というか、そのおねだりの内容が臭くして欲しいって言うのはどうかと思うぞ。


「わ、分かったよ。連れて行くから」

「やった。それと訓練もお願いします!」

「う゛……じゃ、じゃあ弱い奴から少しずつな」

「はい!」


 気は進まないが、プックルのおねだりを断れる訳が無い。

 かすかに臭う程度から始めてたっぷりと時間をかけてゲロインにならないように徐々に慣らしていこう。


 というか臭魔法のレベルが上昇したら臭い耐性みたいなスキルを覚えられないのかね。

 臭いを放ち臭いを吸収するだけじゃ、俺が臭くなる一方なんだが。


「プルプックルを泣かせたらどうなるか分かっていますよね?」

「も、もちろんです!」


 いきなり殺気を放たないでくれませんかプリンテンス様!

 インドア派なのにプックルのことになると武闘派になるタイプだったんですね……


「本当にお願いしますよ?」

「はい」


 あれ、殺気は消えたけどやけに念押ししてくるな。


「本当はプルプックルにも行って欲しくはないのですが、この子は一度決めたら譲らない子ですから」

「もちろんです!たとえプリンお姉様のお言葉でもこればかりは譲れません!私は妻として絶対にシュウ様の傍にいると決めたのです!」


 妻として、という言葉にドキリとしてしまう。

 一応まだ婚約中という扱いなんだがな。


 なお、結婚はとある理由によりしばらく待つことになっている。


「…………」

「プリンテンス様?」


 あまり感情を見せないプリンテンス様が、珍しく何かを悩んでいる様子だ。

 眼を閉じて眼鏡のつるを指で押さえ、時間をかけて何かを考えている。


「プリンテンス様、私は伝えた方が良いと思うわ」

「…………そうですね」


 エリーさんが背中を押したことで、プリンテンス様は何かを言おうと決心したようだ。

 一体どんな爆弾情報が飛び出してくるのだろうか。


「良く聞きなさい。シュウ、プックル」


 その声には確かに俺達を心配する気持ちが籠っていた。

 プリンテンス様が感情を出さざるを得ない話とは一体。


「魔王種に気をつけなさい」

「え?」

「え?」


 どうしてそこで魔王種の話が出てくるんだ。

 魔王種なんてレア中のレアの魔物で、最近出現したのだからもうしばらくは出て来ない筈じゃないか。


「例の森の異変には魔王種が関わっていました。そしてマッタンベークの沼も例の森と同じように数年前に突然異変が発生しました。類似性から考えると魔王種が関わっている可能性が無いとは言い切れないのです」

「マジですか……」


 あんな化け物と相対するなんて二度とごめんだ。

 そう思っていたのに、こんなにも早く遭遇する危険があるだなんて酷すぎる!


「うふふ、でもその可能性は低いからそれほど警戒しなくても良いわ」

「そうなんですか?」

「あの森とは違って、マッタンベークの沼は調査が行われているのよ」

「こっそりと強い魔物が潜んでいるなら、もう見つかっているはずということですか」

「その通りよ」


 確かにそれならばその沼に危険な何かが隠されている可能性は低いだろう。

 しかしどうにも嫌な予感が拭えなかった。


「また魔王種が……」


 そう呟いたのはプックルだ。

 その顔は恐怖に怯え震え……てないだと!?


「こうなるから言いたくなかったのです。プックル、本当に気を付けるのですよ?」

「はい!もちろんです!」

「はぁ……」


 プックルの目は期待に満ち溢れてキラキラしていた。

 そういえばプックルは魔王種と戦う英雄に憧れていたんだっけ。ゆえに魔王種を倒した俺に対する愛情も限界突破して筋肉痛で寝込む俺の横でずっと目がハートマークだった。


 もう一度俺が魔王種を倒す姿を見られるかもしれない。 

 あるいは自分がそのサーガの一端を担えるのかもしれない。


 そう思ったらワクワクしてしまったのだろう。


「そんなに心配しなくても、シュウ様がいるから大丈夫です!」


 なんという俺への信頼度の高さ。

 確かに臭魔法は魔王種にも効いたが、もしも相手が臭い無効だったら詰むんだぞ。

 そこんところ分かってるのかね。


「……シュウ。頼みましたよ」

「はい」


 なるほど、プックルがこうなってしまうからこの話を言い出し辛かったのか。

 確かにこれは俺がしっかりと手綱を握らなければ危ないな。


「それともう一つ、内密に話があります」

「内密ですか?」

「ええ、私達王族以外には絶対に伝えてはいけません」

「は、はい」


 そんなに極秘なら俺には話さなくて良いですよ?


「うふふ、あなたはもう王族の一員みたいなものじゃない」

「違いますよ!?」


 久しぶりに心を読まれてしまった。


「そうですよ、エリー。私がシュウ様に嫁いだのですから、シュウ様は王族とは無関係です」

「あらあら、相変わらず愛されてるわね」

「幸せすぎて怖いくらいです」


 そして同時に、怖くなるくらいの幸せを与えてやりたいとも強く思う。


「話を戻して良いかしら」

「申し訳ありません」


 話の腰を折ってしまったが、そんなに不機嫌そうではない。

 表情があまり変わらないから分かりにくいが、むしろ俺達のイチャイチャを見て少し安心しているような気がする。


 おっとそんなことよりも話の内容だ。


「魔王種の裏に人が関わっている可能性があります」

「え?」


 なんか今、とんでもないことを言わなかったか?

 人類の敵である魔物と人間が繋がっている?


 そんな馬鹿なことがありえるのだろうか。


「何故あの魔王種は私達王族をピンポイントで狙って呪ったのでしょうか。そもそもどうやって私達のことを知ったのでしょうか」


 確かに言われてみれば不自然かもしれない。

 魔王種は知性があるから何らかの手段で情報収集をしてもおかしくないが、そもそも何故王族を狙ったのか。トップが崩れれば組織が崩壊するというのは自然なことだが、どうせ国ごと滅ぼそうとするのならば騎士団などの戦力的な意味での実力者を狙った方が遥かに力を削げるはずだ。


「皆さんの情報を魔王種に伝えた誰かがいるということでしょうか?」

「ええ、それも仮に魔王種が倒されても王族が滅んでいればそれで良いと思った誰かが」

「それは……内密にせざるをえないですね」


 思い返せばあのエリンギゴリラはどう見ても脳筋タイプだった。

 王族を呪ったり魔物を強化したりと、裏で暗躍する姿には違和感がある。


 誰かにアドバイスを受けてそうしたと考えても何らおかしくはない。


 そしてそれすなわち、今回のことは魔王種の侵攻でカモフラージュさせた王族を狙ったテロの可能性があるということだ。

 魔王種とコミュニケーションを取れる存在がいるかもしれないことも含め、多くの人を恐怖させてしまうため決して口外できる内容では無い。


「かの者の目論見を潰したことで、貴方達は逆恨みで狙われるかもしれません。十分に気をつけなさい」


 どうやら俺達の旅は、まったりのんびりというわけには行かないらしい。

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