如月紫苑 -復讐を終える男の物語- 10話
車で走っていく走行音。仮面の仲間の一人は、ゆっくり重い頭をゆっくり上げていく。起き上がったのは、女性の方だ。
『津熊さん・・・人質はどうしたんですか?』
その女性は、運転手席に座る男、この仮面集団を指揮していたリーダーへと声をかける。やや静かな沈黙が流れた後・・・
『みんな、無事だよ』
しかし、女性の視線から微かに映る助手席には携帯画面が1秒のとこで止まっていた。おそらく、起爆するはずだった爆弾のカウントダウン。
『でも、爆発はさせようとしていた。なのに・・・何で・・・みんな無事なんですか?』
単に聞きかったはずの質問に、彼・津熊は苦しそうに声を放つ。
『・・・子供を殺すなんて。できない』
* * *
(如月紫苑目線)
三浦大和自宅の2階にて。
0・・・・もう0秒になったはずなのに、爆発しない。そっと目を瞑った先には、タイマーが1秒で停止していた。子供の茅はいつ爆発するか分からない様子に、ひたすら小刻みに震えるうさぎに成り代わっていた。これは、助かったのか・・・
* * *
大和親父には怪物狩りの組織からも狙われているため、娘と一緒に安全なところへ移動させた。俺もカメラ前で発した言葉で、組織から狙われるかもしれない。だが、茅の爆弾解除が確認できるまで、この場を動くことができなかった。無事、俺の前には装備を身につけた爆弾処理班の応援が来た。あとは"解除できました。" 俺はその言葉を聞くまで、この自宅から離れない。ソワソワしているこの感覚。今にも爆発するのではないかと恐れていた。実際、幻覚的な何かが、俺に爆破したことで広がる炎を見せつけてくる。いや、そうはならない。と強い意志で祈るばかり。
そんなことを考えていると。俺の胸ぐらに掴みかかってくる厚い手が視界を遮る。北村だ。
『おい、お前!!あのビデオの発言はどういうつもりだ!!!』
『北村か・・・"どういうつもり"というのは?』
悟った俺は、旧友との関係が今にも解消されることは覚悟していた。敵対してもおかしくない関係だと。
『あんな話聞いたことないぞ!!!あれが本当なら、俺たちはずっと隊長に嘘を教えられてきたってのか!!!』
え・・・
本気で訴えてくるその眼差しに、上からの指示には、部下たちに偽りがあったことが発覚した。
『誰が・・・お前らに指示を・・・』
『お前の師匠だよ。島谷柊乃介副隊長』
そんな・・・
『そこの君たち・・・』
別の人物に呼ばれ、振り返った先には爆弾処理班たちが。結果は・・・結果は・・・
『無事、解除できました』
たくましいそのチームの横には、震えきった茅が車椅子で引っ張られている姿が確認できる。俺は思わず、自分の手で助けれなかった謝罪とよく恐怖と戦ってくれたことを褒め称えるため、強いハグで示した。
『よく頑張った!!茅!!きっと、香穂も喜ぶに違いない!!!』
それに対し、涙ながらの”うん”が返ってきた。
* * *
俺・如月紫苑は、また隠れ家を探した。ひとまず親父と妹は逃したが、行くあてが見つからない。そんな不安な表情を刻んでいる俺に幼い声がかけられた。
『紫苑さん・・・大丈夫?』
警察の許可も得て、俺が保護することにした香穂の友人・茅だ。また香穂や俺を誘い出すために、またこの子が誘拐されるのはご免だしな。しかし、本当に行く宛がない。そう思っていた矢先に優花から電話がかかってきた。
『なんだ?』
『吉田から来るように言われた。吉田琢磨の息子から』
* * *
かつての財閥であっても、さすが経済力には驚かされる。目の前には広がる緑鮮やかな芝生と白く鮮やかに光る豪華な屋敷が立ちはだかっていた。
『ここは・・・』
茅がそう口にした時、俺は"友人の家だ"と答えた。彼ともしばらく会っていない。きっと彼に呼ばれたのは・・・
『紫苑様。皆様がお待ちしています』
俺たちが接近しているのを感づく犬のように、現れた執事。長年執事としての接客を経験してきた仕草とルックスが物語っている。白髪に染まっていても綺麗に整えられた頭髪。シワが年齢を示そうとも、綺麗な肌つやを見せる男性だと認識させた。俺は彼の誘導に導かれていく。天井なんて開放感の極み。シャンデリアが色鮮やかに、そして透明感溢れる飾りが感動の渦を引き起こしていく。
『やあ、紫苑。久しぶりだな』
そう。目の前の男が、収容されていた吉田琢磨の息子・吉田隆文。彼は実の父に操られていた被害者の一人で、父には罪の償いを求めている。俺が再会する前に知っていた情報はこのくらいだ。そんな彼は優花、香穂、桐島、そして親父の大和を招いている。
『なんで俺たちを?』
『君たち、狙われてるんだろ? だから匿うのさ』
独り占めするには贅沢だ。そう思うほど広々とした幅と高価な素材を兼ね備えたソファでくつろいでいる。
『でも・・・今度は君まで・・・』
『何言ってるんだ?友人の俺がお前を助けるのは当然だろ?』
『いや、そんな・・・』
『困った時は助け合えばいいんだって』
余裕の笑みを見せる爽やかな表情。本当は父のことについて聞きたがっているのではないかと。そう思っていた。
* * *
次の日の朝。
いつもの高校生活。廊下はいつものように女子生徒がワチャワチャと会話する。そして男子生徒は、静かなタイプの集団とはしゃぎ回るタイプが。僕・山﨑瑛太をいじめてくる奴は、紫苑の手によって消された。それに対し、半分安堵と半分罪悪感が入り混じる。とはいえ、今気にすべきなのは紫苑のこと。彼とは連絡が取れていない。昨日、ビデオで言っていた真実のことで、怪物狩りの組織に拘束されているのかも。その時によぎった自分の考え。僕はいつも彼に助けられてばっかりだった。今度は僕が助けるべきだろ・・・そう自分の言葉に葛藤していた。だがどうやって・・・足手まといになるのは目に見えてる。一体、何が・・・できる?
* * *
もうホームルームの時間なのに、担任の先生がまだ来ていない。すると別の先生が引きドアから顔を出す。
『ああ・・・今日は私が代わりの先生となる。津熊先生は、昨夜の交差点で起きた事件により大怪我を負っているとのことだ』
『え・・・』
津熊先生も・・・なんか身近な人たちが怪物による被害を喰らっていることに、圧迫感が襲いかかる。全身に・・・
『そういえば、美佐枝さんも学校全然来なくなったよね』
『優等生なのに・・・なんかあったのかも』
そんなことを会話しているのが微かに前の座席から聞こえてくる。
『でも、なんかテスト期間中にも関わらず、津熊先生から何度も呼び出されたって・・・』
『え・・・なんかヤダ。もしかして先生と美佐枝さん、付き合ってるのかな?』
余計な憶測までもまとわり付いた話だが、事実も含まれているように思えた。待って・・・
実は・・・交差点の事件とハッキングが起きたあの日の夜、僕は不自然な美佐枝さんと会っている。なぜなら美佐枝さんは、僕の自宅の隣に住む幼馴染だから。その時に起きたことに、僕は違和感を覚えていた。
* * *
その日の記憶を辿る。
『ちょっと走ってくるわ!!』
その言葉を約束に僕は夜空が光る坂道へと下ろうとした時のこと・・・隣に住む美佐枝さんは、真っ黒なフード姿に黒いバックを背負う格好で、下り坂へと僕の前を歩いていた。僕は思わず、彼女に声をかけた。
『美佐枝さん!!!今から塾?』
しばらく僕の言葉に背を向けたまま時間が流れ、ゆっくり視線を向け始めたのはその数秒後。その時に悟った彼女の負のオーラ。黄色い瞳。まさか・・・そして手に握られていた仮面らしきもの。その仮面は間違いなく怪物のものだった。彼女はそのまま僕の言葉に反応せず、去っていった。
* * *
そして、昨日流れたハッキングの動画に映り込んだあの仮面。暗かったが、間違いない。フードを被っている仲間が数分間、確認できた。ってことは・・・美佐枝さんは・・・担任の津熊先生と手を組んでるのでは?でもなんで・・・そもそも担任の先生は怪我しているらしいし・・・手を組んでるわけでは・・・途端にフラッシュバックする記憶。怪我したって・・・もしかして紫苑に肩を斬りつけられたときの怪我。その時の姿は映像でも捉えられていた。なら、津熊先生が美佐枝さんと手を組んでる可能性がある。いや。でも、なんで・・・そればかりが脳に走ってくる。僕は美佐枝さんと津熊先生の共通点を洗ってみることにした。
* * *
あっという間に昨日の長い夜を終え、朝日が窓ガラスへと入ってくる。綺麗で鮮やかな光の色が、白く照りつける床へと反射していく。
今日は舞踏会でも開きそうな開放感ある空間へと腰をかける吉田隆文。紅茶を楽しんでいるのか、優雅に心の落ち着きを得ているそのフレーム。だが、俺は気がかりであのことを口にしてしまった。
『なあ、隆文。親父さんのことは・・・知ってるのか?』
『殺されたことか?』
あっさりとした返答に、息を呑んだ。
『そうだ』
『あんな人、死んだ方が清正なのかもな。実の親には申し訳ないけど・・・命を狙われて当然のことはしてたよ』
『ああ・・・』
『だからって、殺した人は許せないけど』
その瞳は、殺意溢れた。
『俺が必ずその人も・・・罪を償わせる』
お!!!なんだ!!ポッケから振動する携帯で"またSOSか?" そんなことが頭によぎりながら、携帯を手に取った。相手は・・・
『瑛太か、どうした?』
『あの仮面集団の正体がわかったんだ!!!あのチームを指揮しているリーダーはうちの学校に通う津熊先生です!!!!』
『お前、何を言って・・・』
『先生は息子の治療を怠った怪物狩りの組織と妻を殺した犯人を・・・美佐枝さんと共に復讐しようとしてるんだ!!!』
『美佐枝って・・・?』
『リーダーと一緒にいた女の子ですよ!!!その子も先生の妻を殺した犯人に・・・自分の父さんを殺されてる。つまり共通の敵だから一緒に手を組んだんですよ!!!』
『だからって・・・なんで津熊という男が犯人に?』
『美佐枝さんが仮面を手に握ってるのを見たんです!!だから手を組んでる可能性はあるんだって!!!実際、津熊先生は、美佐枝さんを放課後に呼び出すことが最近多かった!!!それより早くしないと!!!また犠牲者が!!!』
切羽詰まっている声。走ってる?というよりかは誰かに追われてるのか?
『お前、誰かに追われてるのか?』
『はあ・・・はあ・・・はあ・・・僕のことは気にしないで・・・・ハア・・・しないで・・・ください』
そのまま、通話は切れた。
『おい!!瑛太!!瑛太!!!』
* * *
『どうした?紫苑』
俺の中で描いていた焦りが、隆文にも伝わる。
『仮面集団の正体が分かってて・・・』
『マジか・・・』
『ぼっちゃま!!!皆様!!これを!!!』
お上品な様子だった執事まで焦りの表情で迫り来る。執事によって、テレビのリボコンが起動されるその先。そこには、刑務所が襲撃されてる姿が生配信で放送されていた。映像の角度から見ると、上空のヘリから撮っている様子だ。辺りには黒煙に包まれ、何が起きているのかわからない。
『速報です!!今、現場から数キロ離れた別の刑務所でも、爆発が起きているとのことです!!』
『おい!!隆文!!これはどこだ?』
『え・・・これって警視庁近くのカエシマ刑務所だと・・・』
『おい!!桐島!!山﨑瑛太の居場所ををマークして、彼を助けてくれ!!!』
その言葉と共に手渡したのは俺の携帯。いつも、山﨑がいじめっ子に迫われた時に位置情報を共有しておいた。それを元に、場所をマークしろということだ。
俺が玄関へ駆けていく先に、幼い声が何度も聞こえる。
『兄さん!!私も!!!』
『だめだ!!!』
『私もいくの!!!』
『だからだめだ!!!』
『あなたは、私の!!!実の兄さんなんでしょ!!!これ以上、家族を失いたくない!!!』
最後の叫びに、俺は思わず足を止めた。
『これ以上、死なせない・・・』
涙目をウルウルさせる香穂。だが、俺も家族を殺されるとこは見たくない。その思いに応えるように、優花は歩み寄ってくる。真剣な眼差しで。
『私もついていく。あなたの家族はちゃんと守るから』
『分かった。だが外で待機してろ。俺が呼びつけた時にだけ来るんだ!分かったな?』
俺は彼女たちを信じることにした。




