如月紫苑 -復讐を終える男の物語- 7話
ハア・・・ハア・・・ハア・・・私・岡本優花と香穂ちゃんは、危険な場所から離れようと必死に駆け抜けていった。もちろん、付近に追っ手のような人たちの格好が見えたから、なるべく路地裏のような狭い道を転々と移動しているイメージ。とりあえず、逃げないと!この子を守らないと!!その一心で駆け巡っていたのか、それとも走りすぎて脳が貧血状態なのか、冷静な判断ができない。その時、路地裏から抜け出たその先の道に、一台の黒い車のバンが飛び出てくる。いかにも、犯罪者の匂いがする雰囲気。私は、急いで通ってきた路地裏へと戻ろうとしたその時、(バンの)
ドアの隙間から伸びた手が、私の首元に掴みかかる。
っく・・・息ができない・・・私は絞めるその手元を引き剥がそうとするも動じない。それより、この握力・・・人間の力とは思えない。次第に霞んでいく視界。そして、嫌がっている香穂ちゃんを無理矢理、バンの中へと引きずり出そうとしているのは分かった。
『お前の知り合いに伝えろ。三浦大和という男を連れてこいと。でないと、少女の命はない』
同時に解放された首元。霞んでいく視界は元へと戻ろうとするが、息の詰まりから解放されない。まだ絞められた感覚がキツく残る。ゲホッ・・・ゲホ・・・
『優花姉ちゃん!!!』
『ッハ!!香穂!!!!』
気づけば、バンのドアは閉まり、そのまま向こうの道へと走り去っていく。到底、私の足で追いつける速さではなく、ただただ香穂を奪われた悔しさを叫びとして表現することしかできなかった。
『あああああああああああああああああ!!!!!!』
* * *
入って来た道を戻っていく下水道の地下。時間が経てば、鼻も慣れるだろうとは思っていたが・・・全然臭いし、異臭で頭がおかしくなる。
『あの医師・・・ずっとこの地下下水道で、息を潜めるつもりですかね?』
『あれが俺の親父ではないことを祈るしかねえ』
『なんで?』
『こんな臭い下水道で、鼻を覆うだけで暮らせるやつだぜ!!そいつの家なんか想像しただけで身震いする!!絶対部屋に散乱したゴミがあっても、平気で暮らしてるんだろうな!!じゃなきや耐性がつかねえ!!』
『へー』
そんな軽蔑で絵に描いたような桐島の瞳が、俺に突きつけられる。
『な、なんだよ!!』
『別に・・・』
『とりあえず、ここから出るぞ』
* * *
マンホールから顔を出した360度には、夜ということもあり、ほとんど街灯と静かな木の揺さぶられる環境音だけ。
『はあ、やっと外の空気吸えたぜ』
俺は少し気を許せるようになった桐島の様子を伺う。何やら瞬きが多くなっているようだが・・・
『どうした?』
『いや、なんか苦い記憶思い出しちゃって・・・』
『苦い記憶?』
『そういえば、俺も不潔な人間で、好きな人に振られたことがあるっていう・・・』
『おお・・・お前にもそういう時期があったのか・・・』
つい、桐島慎也も恋には興味がないような振る舞いをしていたことと実際のギャップに少し俺の心は浮ついている。俺のからかいに慎也は、気持ちを吐露した自分の行動に後ろめたいような仕草を見せる。その後ろめたさを隠そうと・・別の話を振り出す。
『そういえば、紫苑さん。彼女がいたんでしたっけ?』
『話を逸らすな。その好きな人のことを聞かせろよ』
その時の彼は、不機嫌満載の顔つきだった。
『紫苑さん。俺をからかってるんですか?』
『違う。お前がもう二度と好きな人に振られないようにするためだよ』
慎也は、深い溜息をついた後、ゆっくり過去話を披露してくれた。どうやら、怪物狩りの組織が忙しく働いてた頃、たまたま助けた女の人に一目惚れしたそう。一目惚れしたものも、もう二度とその恋を抱いた女性と会うことはないと思っていた頃、行きつけのレストランでバイトをしていたのだ。そして、意を決して告白したものも、気づかないうちに不潔なところに、嫌悪感を抱いていたそう。身だしなみはもちろんのこと。
『まあ、怪物狩りの組織は、ほとんど運動部男子の溜まり場だったもんな。まあ、そういう清潔感には疎くなるよな』
『じゃあ、なんで紫苑さんに彼女なんか出来たんですか?』
『"俺みたいなやつに彼女なんかできるわけないだろ"。そうでも言いたげな言い回しだな』
『そうです・・・』
即答の答えに、思わずずっこける勢いで肩を落とすが、確かに俺みたいな奴がなんで・・・だが俺が思う答えに胸に強く拳を当てた。
『なんでかって?それは心よ!!心が綺麗なやつは外見がどうであれ、惚れてしまうのよ!!』
『アー』
完全に滑っている!!慎也の表情は完全に曇りきり、先輩の俺に失望しきっている顔。
『そういうのかー』
『ち、ちが!!真に受けるな!!!確かに身だしなみは相手の第一印象を物語るものだが、やっぱり心が綺麗じゃないとな!!その人も輝いて見えんだろ?』
俺の言葉に、少し考える仕草を見せる慎也。
『でも、心が綺麗ってどうやって?』
『それは・・・人の幸せを喜べる人・・・人の幸せのためなら、何でもできる人?』
『紫苑さんにしては、頭使いましたね』
慎也の言葉に少し怒りの筋が浮き上がるが、"これは挑発だ"と自分の心を落ち着かせる。
『まあ、だいたいそういう人ってカッコよく見えますもんね』
『自分がそんな人間だったとは思わないがな』
『じゃあ、どっちなんすか!!!』
思わぬ慎也のツッコミと同時にポケットにしまっていた携帯電話が鳴り響く。突然のことで、何事かと目を通せばそこには岡本優花の電話番号だった。
『もしもし!』
『助けて!!!香穂ちゃんが連れさられた!!!とにかく、香穂ちゃんの父親を連れて私のとこに来て!!』
* * *
結局、地下下水道で待機していた父親・三浦大和を呼び出し、優花のところへと向かっていった。やたら人気のない自然に阻まれている。どうやら掲示板を見る限り、そこそこ大きく広い公園のようだが、木々により囲まれ、内部の様子を知るには、俺たちの前に敷かれた道を辿っていくしかない。俺は、その先へと向かった。自然の緑鮮やかな風景は夜の影響で闇堕ちしたような視界。木々が俺の左右から離れていく先には、黒い人影がベンチに座っている。
『優花か?』
その人影は俺の一声に耳を澄まし、俺のとこへと駆け寄ってくる。
『紫苑!!!!香穂ちゃんが!!!!香穂!!!!』
『娘は大丈夫なのか!?』
そう父親は優花に負けない勢いで詰め寄っていくが、彼女はすぐガラケーで答えを突き出した。どうやら、娘を連れ去られる時に、渡されたガラケーのようだ。
『これで、次の場所を教えてくれるみたい』
父親はすぐに、そのガラケーに登録されている電話番号に出た。すると、すぐ相手は反応を示した。
『お前は、三浦大和か?』
『そうですけど・・・娘を返してください』
『なら、お前は指定された場所にこい。あと、怪物狩りのお仲間さんは連れてこないように。もし、そのことが分かれば、娘の命はない』
そして、電話の主は、まだ要件があるらしい。それは俺たちに向けられたものだった。
『そして、今そこにいる怪物狩りの組織の諸君。お前たちにはどうしても邪魔されたくないから、一つ用事を増やしといたぞ。ぜひ、四分夜の大きい交差点の様子を見てみるがいい』
『はあ!?それは・・・』
質問を聞く前に、通話は切れた。
『クロス交差点?誰か調べれないのか?』
俺の言葉に反応するように、何人かはすぐに携帯を取り出す。
『紫苑さん!!早く四分夜に行かないと!!!』
『四分夜はお願いします。私は犯人の指示通りに動くだから!!』
『でも、それは・・・香穂が!!』
俺の気持ちにけじめをつけるように、父親の大和は俺の胸ぐらに掴みかかる。
『これは提案じゃない!!命令だ!!!娘は絶対救ってみせる!!!』
その掴みかかる勢いとともに、服に寄っていくシワが濃く映る。
『分かった・・・じゃあ、慎也!!クロス交差点に向かうぞ!!!』
* * *
きゃああああああ!!!!
あちこちに映るのは火の海と人が逃げ惑う姿。ただ人が逃げ惑うだけじゃない。人の多さで互いにぶつかり合い、地面にねじ伏せられた人々を容赦なく踏みつけていく。自分が助かりたい一心を表現するように。
『現場から報告!!怪物狩りの組織の要請を!!!』
無線で援助を頼む覆面パトカーが、事態の深刻さに目を焼き付ける。
『何やってる!!新人!!早く現場を片付けるぞ!!!』
『え・・・あ・・・はい!!!』
上司の勢いに、新人も現場へと向かっていくことしかできない立場にいた。誰かが止めないと・・・誰かが・・・その瞬間、空中から舞い降りてくるいくつかの影が刑事たちの目に映る。夜ということもあり、月明かりも見えないこの空から飛び降りてくるその何か、そこには確か刀のようなものが握られていた。
『怪物狩りの・・・組織・・・帰ってきた・・・帰ってきたぞ!!!!』
そう誰かの歓喜の声が響き渡ると同時に、刀を持った一人の男は、刑事たちと部下に語りかける。
『すでに警察と政治には処刑の許可を取ってる。手加減せずに怪物に乗っ取られた奴は始末しろ!!前の奴らは俺がやる!!』
そう指示するのは、北村勝司。彼の指示で一斉にクロス交差点で襲われている人々の救出と処理へと向かう。
黄色い瞳で睨みつけてくる一人の男性。手には白く光る魂を握りしめたまま、北村へと視線を向ける。
『なんだ?来いよ』
彼の挑発に乗るように、直進してくる敵。荒ぶった勢いは左右へと重心が揺れ動くが、仕留める時の感覚は忘れていないようだ。彼は手に握る刀を信じ、そのまま一直線に相手へと斬り込んだ。
* * *
その頃、私・三浦大和は見覚えのある場所へと向かっていた。この住宅街、俺がよく見る帰り道。そう。犯人に指名された場所は私の住む一軒家だった。実は妻の理央が亡くなってからというもの、東京へと帰ってきていた。それは(私の)仕事の関係が大きく影響していただけだったが・・・それにしても、犯人はどうやってここを・・・私は息を呑んだ。何か仕掛けられているのではないかと、警戒はしていた。その時!!
『おい!早く入ってこい!!』
ドアの隙間から仮面らしき顔が覗き見をしてくる。
私は更なる恐怖心と闘うべく、そのまま一軒家へと入っていった。
* * *
私は玄関で待ち伏せしていた仮面の男に、銃を突きつけられる。その銃が指し示す先には、椅子に頑丈な鎖で拘束された香穂が。
『香穂!!!』
『まだだ!!お前には伝える責任がある!!それを成し遂げてからだ、娘の再会を喜ぶのは』
『伝える?成し遂げる??何の話だ?』
そして、リビングにはカメラのセッティングを進めるもう一人の仮面の女がいた。しかし、メインで話しかけてくるのは目の前の男。もちろん仮面で本来の素顔は見えない。
『君が三浦大和か・・・君たち一家には感謝の意と失望が入り混じる』
私は娘とは違い、テレビ前に置かれたソファへと無理やり座らせる。
『なぜ、研究をやめた?大勢の人を救えるかもしれない研究を・・・』
『それは・・・怪物狩りの組織に・・・』
『やはりな。じゃあ、今日はそのことをこのビデオカメラの前で話してくれ』
その言葉と同時に三脚で建てられたカメラが、私の方へとレンズを向ける。
『ちなみに、君たちがは逆らうようなことをすれば、香穂ちゃんの大事な友達が死んでしまうかもしれない』
『大事な親友!!どういうことだ!?』
香穂は過呼吸と共に追い詰められながらも、必死に言葉として私に残した。
『今、2階に・・・・ハア・・・拘束 さ・・・れた・・・茅ちゃん・・・が・・・』
『何?』
『悪いな。お前たちは私たちにとって殺せない存在だからな。どうでもいい人間まで巻き込むことになった』
『・・・・っく。クソ野郎が』
* * *
四分夜にて。
『頼む!!間に合ってくれ!!!』
ここに来るまで30分かかった。それにしても、いつもの日常とは変わり果てた荒れ具合が、燃え盛る炎と人々が入り乱れる群で物語っている。
『紫苑さん!!!』
慎也の一言で、目の前から奇行的な走り方で向かってくる怪物の被害者が3人。俺と横に並ぶ慎也は日本刀を鞘から外そうとするが、俺は反射的に慎也を止めた。
『よせ!!奴らはまだ治せる!!鞘のままで戦え!!』
『え!!でも!!!』
『俺を信じろ!!!』
そう刀を鞘で収めたスタイルで相手へと振り向ける。
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます!!!いかに読者の方によってこの作品が支えられているのか、日々心に強く感じています!!本当にありがとうございます!!このセカンドシーズンもついに後半戦へ突入しました。そして後半戦のイメージソングも先ほど解禁しました。ぜひ、このままデイズを、如月紫苑を応援していただけると幸いです!!よろしくお願いします!
せっかくなので、少し後半戦についてコメントします。
いろんな展開が次々と起こり、飽きさせない要素が詰まっています。そして、いろんなキャラクターがそれぞれ自分たちにできる役割を果たす場面も多くあったように思います。それらが皆さんにも伝わるように、日々の作品づくりに努めます。




