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リベルタ  作者: 絡繰ピエロ
第七章 休日の過ごし方
21/35

カイル&ウルド&ニーナ編

 昼頃。

 カイルは頭にウルドを乗せ、ニーナと手を繋いで散歩をしていた。

 彼らは歩きながら、ニーナが空いた手であれは何と指して聞き、カイルが説明している状態である。

「あれは?」

「あれは教会だな。街の人の悩みを聞いて解消方法を教えて貰う場所だ」

「……あれは?」

「あれは出店だな。屋根を付けた荷車に食材を乗せて、簡単な料理を作って売る店のことだな。この国だと結構な数の出店があるんだけど、ニーナちゃんの国ではあまりなかったのかな?」

 こくりと彼女は頷く。

「そうか。じゃあ昼食替わりに食べてみるか?」

 彼女は再び頷いた。

 よし、とカイルが言い、出店に向かう。出店では薄く円状に焼いた手の平サイズのパン生地に生野菜と肉をバランスよく乗せ、上からもう一枚のパン生地を乗せて挟んだ『パシェル』が売られていた。

「パシェル、三つくれ」

「まいどあり。銀貨一枚です」

「ほらよ」

 カイルがポケットから一枚の銀貨を店主に渡す。それと引き換えに、三つのパシェルを受け取った。

「そんじゃ、あそこのベンチに座ってこれを食べるか」

 ニーナは首を振り、カイルの指した場所まで並んで歩く。

 辺りに人気はなく、たまに散歩をしてる人が通りかかる程度だった。

 ニーナが座り、続いてカイルが座る。そこからウルドがベンチを伝って地面へ降りた。

 カイルは両手で挟んで持っていたパシェルを落とし、ウルドに渡す。ウルドは体をクッションにし、崩れないように注意して地面に置く。

 そしてカイルは、ニーナに近い右手のパシェルを手渡しした。

 ニーナは両手で受け取ると、片手で持ち、もう片方の手でパシェルを開いた。

「ははっ。安心しろって、別に変なもんは入ってないからよ。ほら」

 そう言ってカイルは自分のパシェルを口に運んだ。食べると、生野菜のシャキシャキとした食感と、肉が入っているもののしつこくない味わいが口内に広がった。

 口に含んだものを飲み込むと、彼は笑って、

「ほらな。それにすっごく美味しいから食べてみなって」

 ニーナはゆっくりとパシェルに顔を近づかせ、かじった。彼女は口に入れたものをゆっくりと噛み、飲み込む。

 ニーナは頷き、

「……うん、おいしい」

「だろ? だからまあ、遠慮せずに食えよ」

 うん、とニーナは首を振り、再びパシェルをかじり始めた。




 カイル達がいるベンチから離れた場所に、道を歩く二人組がいた。

 口元に赤いスカーフをつけた男は、連れの若い男に右腕を担がれながら歩いている。

「もう、しっかりしてくださいよ。俺にとってカイルさんっていう人はよく知りませんが、多分勘違いですよ」

「……拙者もそうであって欲しいと願っておるので御座るが、もしかしたらって考えると頭が痛くなってしまうで御座る」

「なら予兆とかありましたか?」

「それが全くなく、逆に怪しいというか怖いで御座るよ」

「そ、そうですか」

 思いつく限りのフォローを全部マイナス方向に考えてしまうクロウに、トラウムは思わずため息をついた。

 ……この人をここまで落ち込ませるってどんな人だろう?

 クロウは普段、他人に自分の辛い気持ちを気付かれないように行動をしている。しかし隠すことが苦手らしく、簡単に見抜けられている。

 それでも脱力してしまうほど、表に態度を出したことは一度もなかった。そのため、トラウムはカイルさんはどんな人間かが気になっていた。

 ……名前からして男だろうけど。

「まあ、そこまで心配してるなら明日に会ってみたらどうですか?」

「そうするで御座るよ」

 クロウは自身の力で立ち上がり、

「こうくよくよしていてはダメで御座るね。すまなかったで御座る。――――ん?」

 前に向けた視線の先に、カイルと少女というには早い女の子が楽しそうに食事をしてる姿が映った。

 直後、クロウの体が硬直した。彼は思考を巡らせ、結果。

「カイルくーーーーん!!」

 叫びと共に駆け出した。



 カイルは自分の名前を叫ばれた方向に顔を向けると、クロウが敵意をむき出しにして走ってくる姿が見えた。

 彼は頭を下げ、腰を浮かせた体勢で、右手に二十センチ程度の短刀を逆手にして、眼前に構えていた。

 事情は分からないが、相手をしなければ納まらないだろう。

「すまないが、これをちょっと持っててくれ」

 ニーナに残りのパシェルを渡し、数歩前に出る。

 カイルは腰にしまっていた十センチにも満たない短刀を右手で取り出す。短刀を順手で持ち、左足を前にして構える。

 二人の距離が十メートルを切った時、クロウの姿が二つに別れた。二つのクロウの姿は全く同じもので、違いなどない。

 これはクロウのキャバシティである。

 それを理解しているカイルは驚かず、前進する。

 互いの距離はやがて二メートルを切り、先にクロウが動いた。

 カイルから左の男は瞬時に右拳を引き、顔面に目がけてのストレートを。右の男は腹部を狙って、左足の回し蹴りを繰り出した。

 拳を避ければ握られた短刀で顔を抉られ、蹴りを避ければ拳が追撃してくる。そのためカイルは、クロウの右拳を左手で握り、右膝を上げて回し蹴りを受け止めた。

 回し蹴りの衝撃で体は揺れ、しかし持ちこたえたカイルは、続いて襲ってくる攻撃に対処する。

 左の男は左足の回し蹴りを腹部に。右の男は右拳を顔面に向けて放つ。

 カイルは握ったままの右手をねじり、体勢を崩させ、蹴りを封じる。それから右足を地に着かせ、短刀目がけて下から短刀を振り上げた。

 カイルの受けに、右側のクロウの右腕が大きく仰け反った。

 二人のクロウに生んだ大きな隙に、すかさず右足の回し蹴りを叩き込む。

 攻撃は見事に当たり、左のクロウを捲き込んで転がる。それをカイルは追いかけ、倒れかけていた一人のクロウの胸元を掴み、短刀を喉元に向けた。

「どういう訳かわからねえが、これでお終いだ。キャバシティを解除しろ」

 クロウは眉間にしわを寄せつつ、倒れているクロウの近くで膝をつき、胸部に手を乗せる。すると、倒れていた体は真っ黒に染まり、手を伝ってクロウの中へと入っていった。

 一つの体に戻ったクロウは、立ち上がってカイルを見た。

「それで、どうしてお前はいきなり襲い掛かってきたんだよ」

「それは、カイルくんが悪いので御座るよ」

「…………、は?」

「だから、カイルくんが悪いので御座るよ!」

 スカーフを口周りにつけている男は涙目になり、ベンチに座ってカイル達を呆然と見ているニーナに指さした。

「イグニスくんから聞いたで御座るよ、あのような幼子おさなごに手を出して家に連れて生活をしていると!」

 彼の言葉に、言い方が悪いなと思いつつ、

「まあ、そうだな」

 言うと、クロウは両手で顔を塞ぎ、上を向く。

「うおおおお。認めた、カイルくんが幼子に手をかけたことを認めてしまったで御座るよー」

「って、ちょっと待て。手をかけたはねえだろ。他にも言い方ってもんがあるだろ」

 とそこへ。一人の青年が小走りでカイル達の輪に入ってきた。

「ふう、やっと追いついた。すみません、あなたがカイルさんですよね?」

「そうだが……えっと、たしかクロウのチームに所属したトラウムだったか?」

「はい、そうです。すみません、リーダーが迷惑をかけて。今、精神が不安定な状態なんです」

「そうか。それで、クロウがどうしてこうなってるか知ってるか?」

「さっきイグニスと会って、それでカイルさんが子どもと生活をしていることを聞いたんです。それでクロウさんが脳内でいろいろと変換させて、カイルさんを犯罪者予備軍だと勘違いしたんだと思います」

 なら、とカイルはクロウを見る。彼はまだ顔に手を被せて、空を向いている。

「とりあえずこいつを正常にさせるか」

 カイルとトラウムは互いに顔を向き合い、頷く。

「あ、話は終わったで御座るか? それではトラウムくん、一緒にカイルくんを……って、なんで背後から拙者の両腕を掴んでいるので御座るか!? ちょっ、カイルくんは腕を鳴らしているで御座る!?」

「そんじゃ、いくぞ」

「え、なん、アーーーー!!」

 クロウのみぞおちにカイルの拳が深く突き刺さった。



 

「……それで、あのニーナという子は仕事中に出会ってそれから一緒にいるということで御座るね」

「ああ、そうだよ」

 一度拳を入れられて正気に戻ったクロウは、ニーナとの出会いから成り立ちを聞いて納得していた。

 そして彼らが話している間、ウルドを抱えたニーナの話し相手をトラウムが請け負っている。二人はベンチに腰を下ろして向かい合っているものの、会話は全くしてないが。

「しかしそれならそうと拙者などに話してくれればいいで御座ろう」

「お前とかに話す前にこの件を済ませようと思ってたんだよ。それに、話したらこれについていじってくるだろうが」

「そ、それについては否定できないで御座る」

 クロウは苦い顔を浮かべ、笑みをつくる。

「それなら、これからどのようにすればいいのか目星は付いてるので御座るね?」

「いや全く」

 カイルの言葉に、彼は驚きを露わにした。

「なら、どうしてそんなに早く彼女の問題を解決できると思ったので御座るか!?」

「まあなんとなくだな」

「な、なんとなくって、そんなの理由になってないで御座るよ。それに、もしあの子ことを思って早く解決させたいのなら、カイル君のキャバシティを使って」

 その時だった。

「クロウ!」

 カイルが一喝のような厳しい声が、クロウを制したのは。

 銀髪の男は鋭い目つきで、

「お前、俺がそういうことするのが嫌いってことは知ってるよな?」

「……それなら知ってるで御座るよ。しかし、これは手詰まりでは御座らんか」

「そうでもねえよ。俺は俺でけっこう調べることがあるからよ」

「それならいいので御座るが、話を聞くかぎり相手は集団だと思われるで御座る。もし襲ってきたらどうするで御座るか?」

 クロウの問いに、カイルはお前なあと嘆息する。

「相手だって集団でこの国に突撃するほど馬鹿じゃねえだろ」

 それに、と彼は前置きをし、

「そうしてきたとしても、俺が絶対にニーナを守ってやるからよ」

 その眼差しは一切の迷いがなく、強い意思が含まれていた。

 だからクロウは、肩を落とす。

「決めたのならこっちは何も言わないで御座るよ。でも、もしものことがあったら即、駆けつけるで御座る」

「ああ、すまねえ」

 気が付くと空は茜色に染まり、辺りにいた人が帰る時刻になっていた。

 俺たちもそろそろ帰らないとな。

 そう思い、ニーナのいる方に振り返る。

「ニーナ、ウルド、待たせてすまなかった。そろそろ帰るぞ」

 カイルの声に、小さな少女はうっせらと、けれどもたしかな笑みを浮かばせる。ウルドが先に飛び降り、それから立ち上がった。

 ウルドが駆け、カイルに向かう。彼は膝を折り、そこに飛び、次は肩へ飛び、頭に乗った。

 そしてニーナはカイルの近くに行き、手を伸ばす。それに応えるように、カイルは彼女の手を手の平で包んだ。

「じゃあな、クロウ」

 言い終えると二人は歩きだす。

 その後ろ姿を、クロウはただただ眺めていた。

 

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