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天才魔法具師は、スパダリに保護される  作者: 輝久実


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王宮夜会の支配者

燦然と輝くシャンデリア、鳴り響く優雅な楽団の調べ。


王宮の大舞踏会は、名だたる貴族たちの熱気と下衆な思惑で満ちていた。その中央に、一際大きなざわめきが巻き起こる。


「――アルヴィン公爵閣下がお着きになられました!」


会場の扉が開いた瞬間、すべての貴族が息を呑んだ。


現れたのは、一分の隙もない礼服に身を包んだ、国中から畏怖される最強の宮廷魔導師長、アルヴィン。そしてその腕にそっと手を添えているのは、星空のように輝くドレスをまとった可憐な少女――ルチアだ。


「……おい、あれが噂の魔法具師か?」


「なんて愛らしい……しかし、公爵閣下が女性をあんな目で見つめるなんて……」


アルヴィンは周囲の視線を完全に無視し、ルチアにだけ、とろけるような蜂蜜色の笑顔を向けていた。


「大丈夫かい、ルチア。緊張して足が震えているね。いっそ私がここで抱き上げて歩こうか?」


「ひゃっ!? い、いえ、大丈夫です! ちゃんと歩けますから!」


ルチアが真っ赤になって小声で抗議する。その初々しいやり取りすら、アルヴィンにとっては周囲への「独占欲の誇示」だった。


そこへ、一人の傲慢そうな青年が、数人の取り巻きを連れて歩み寄ってきた。この国の王太子、レナードだ。


「やあ、アルヴィン。ようやくその『隠し資産』を披露する気になったか。下町の有象無象を囲うなど君らしくもないと思っていたが……ふん、確かに顔だけは悪くないな」


レナード王太子はルチアを品定めするように見つめ、下卑た笑みを浮かべた。


「おい、娘。お前が作ったという魔法具、我が王室で買い取ってやってもいい。公爵邸のような狭い場所ではなく、王宮の専属職人として働く光栄をやるぞ。ありがたく思え」


(わあ、教科書通りの嫌な貴族様が出てきた……)


ルチアが内心で呆れていると、隣のアルヴィンから、空気が凍りつくような、すさまじいプレッシャーが放たれた。


「――レナード殿下」


アルヴィンのアメジストの瞳から、完全に光が消える。


浮かべているのは極上の微笑み。しかしその背後には、いつでも王宮ごと更地にできるほどの禍々しい魔力が渦巻いていた。王太子とその取り巻きたちが、恐怖でヒッと息を呑む。


「私のルチアに、その汚らわしい視線を向けないでいただけますか。耳障りな声で彼女を脅すのも不愉快だ。それから……我が家の工房は、この王宮の十倍の予算を投じて作らせた至高の空間です。こんな狭くて埃っぽい王宮などと一緒になさらないでいただきたい」


「な、何だと……っ!? たかが下町の魔法具師にそこまで――」


「たかが、ですか」


アルヴィンは、胸元から一本の漆黒の万年筆を取り出した。ルチアが作った『神話級ペン(AI&自動浄化機能付き)』だ。


「殿下。貴方が毎晩、他国と交わしている『怪しい密約の書状』……その机の引き出しにかけられた隠し呪詛を、このペンは持った瞬間にすべて看破し、自動で書き換え、我が公爵家に通知してくれましたよ? ――これほどの国家最高機密級の遺物を数日で造り出す彼女を、たかが、と仰るのか?」


「な、なにいぃっ!?」


王太子の顔面が、一瞬で土気色に変わる。裏での不正を完全に握られたのだ。


「ルチアの価値を理解できない愚か者に、彼女を渡すわけがないでしょう。彼女は私のすべてを懸けて生涯守る、世界で唯一の婚約者(予定)だ。……これ以上彼女に無礼を働くなら、次回の魔導演習、王宮の防壁結界を『間違えて』すべて消滅させてしまいますが……よろしいですね?」


完璧な笑顔での、国家レベルの脅迫。


王太子は


「ひ、ひぃぃっ!」


と情けない悲鳴を上げ、取り巻きたちと共に腰を抜かして逃げ去っていった。周囲の貴族たちも、アルヴィンの本気の怒りに完全に恐怖し、誰もルチアに近づこうとしなくなった。


「ふふ、やっとハエが失せたいね。お待たせ、ルチア」


一瞬でいつものスパダリ笑顔に戻ったアルヴィンは、ルチアの腰をグッと抱き寄せた。


「アルヴィン様……あの、万年筆、やっぱりそんなヤバい機能があったんですね……」


「おや、無自覚だったのかい? 本当に君は最高の魔女だ。……さあ、悪い子たちに君の美しさを見せつける用事は済んだ。こんな場所、一秒でも早くおさらばしよう」


「え? もう帰るんですか?」


「当然だろう。君のドレス姿を、これ以上他の男たちに見せたくない。……邸に帰ったら、今度は二人きりで、このドレスをゆっくりと『脱がせて』あげるからね?」


「ひゃああっ!?」


耳元でとんでもなくエッチで過保護なセリフを囁かれ、ルチアが再び茹でダコになる中、アルヴィンは彼女を軽々と横抱きにし、呆然とする貴族たちを置き去りにして、堂々と夜会を後にしたのだった。

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