南国のハネムーン
結婚式を無事に終えた二人が新婚旅行の地として選んだのは、王都から遠く離れた南国の高級リゾート地・コバルトアイランドだった。
見渡す限りのエメラルドグリーンの海、真っ白な砂浜、そして燦々と降り注ぐ南国の太陽。
「うわぁ……! 海がとっても綺麗です、アルヴィン様!」
プライベートビーチに面した豪華なヴィラのテラスで、ルチアは涼しげな薄水色のワンピースの裾をなびかせながら、瞳を輝かせていた。
「ああ、美しいね。……だが、太陽の熱で君が溶けてしまわないか心配だよ」
日畳み付きのサマーベッドに腰掛けたアルヴィンは、相変わらずの過保護ぶりでルチアの腰を引き寄せ、自身の膝の上にちょこんと座らせた。彼自身も寛いだシャツ姿だが、アメジストの瞳は南国の陽光よりも熱くルチアを見つめている。
「溶けませんよ! それに、ここに来たからには……ふふっ、結婚式の前の約束を果たさなきゃいけませんからね!」
ルチアは胸を張り、テラスに設置された特製の『持ち運び式・ルチア・ラボ機材』へと向かった。
今回ルチアが用意したのは、小型ポータブルクーラーの熱交換技術を応用した【超急速冷却・魔導シャーベットメーカー】だ。
「南国の新鮮なフルーツ……この『太陽の果実(マンゴー風味)』と『星型ベリー』の絞り汁に、少しのお砂糖と、隠し味に微量の魔導蜜を加えて……」
ボウルに材料を投入し、ルチアが魔導シャーベットメーカーのダイヤルを回す。
カチリ。
『冷却ルーン起動:急速冷凍&低速撹拌モード』
パドルがシャリシャリと音を立てて回り始め、ルチアの精密な温度コントロールによって、果汁が一瞬で細かな氷の結晶へと変わっていく。液体がふんわりとした口当たりの極上シャーベットに変化するまで、ほんの数十秒だ。
「できました! ルチア特製『南国フルーツの極上異世界シャーベット』です!」
透明なガラスの器に盛り付けられたのは、鮮やかなオレンジとピンクがグラデーションを描く、見るからに涼しげで愛らしいスイーツ。
「きゅ~う❤」
足元では、特製の麦わら帽子をかぶったシロちゃんが「ボクの分は!?」と言わんばかりに尻尾をブンブン振っている。
「はい、シロちゃんの分は果汁100%の特別仕様だよ」
「きゅふぅ~!」と歓喜の声をあげ、専用の小鉢から勢いよくシャーベットを舐めとるシロちゃん。冷たさに「キーン」となったのか、おでこを押さえるような仕草をして固まる姿が愛くるしい。
「ふふ、可愛い。……さあ、アルヴィン様もどうぞ!」
ルチアは小さなスプーンでシャーベットをすくい、アルヴィンの口元へと差し出した。いわゆる「あーん」である。
アルヴィンはアメジストの瞳を細め、素直にルチアの手から一口味わった。
「……ん」
口に含んだ瞬間、完熟フルーツの濃密な甘みと酸味が広がり、続いて雪のように儚く溶けるシャリッとした冷気が、南国の暑さを一瞬で吹き飛ばしていく。
「どうですか……?」
「驚いたな。氷を砕いた粗いものではなく、まるで風そのものが甘く冷たく固まったような……素晴らしい口溶けだ。さすがは我が妻、賢者ルチアの発明だね」
「よかった……! 大成功です!」
ルチアがほっと笑みをこぼした瞬間、アルヴィンはすっと手伸ばし、ルチアの手にあったスプーンを奪うと、今度は自らシャーベットをすくった。
「では、次は私から君へ」
「えっ……あ、自分で食べられ――」
「あーん」
拒否権を許さない甘い微笑みに負け、ルチアは意を決してパクリと口を開いた。
「……っ~! おいしい……! 冷たくて甘くて、果汁がじゅわっと弾けます……!」
あまりの美味しさにルチアの頬がゆるむ。
すると、アルヴィンはその隙を見逃さず、ルチアの唇の端に少しだけ残っていたシャーベットの雫を、自身の指先でそっと拭い――そのまま自分の口元へと運んだ。
「――ん、確かに美味しい。だが、君の唇の方がずっと甘いね」
「なっ……!? あ、アルヴィン様っ! どこでそんなキザなセリフを……っ!」
ルチアの顔が一瞬でシャーベットのイチゴ色よりも赤く染まる。
「ふふ、照れる姿も愛おしいよ。……さあ、冷たいスイーツで身体も涼しくなったことだ。そろそろ涼しいヴィラの中に移動して、二人きりで甘いハネムーンの続きを過ごそうか」
「まだお昼ですよ!? というか、エアコンの『絶対障壁』をここにまで持ち込まないでください~っ!」
「きゅ~う(お腹いっぱいで丸くなって寝始める)」
南国の爽やかな海風と、ルチアの手作りスイーツ、そしてどこまでも過保護で甘い旦那様。
エンジニア少女と黒ハラ公爵の甘く涼やかな物語は、これからも幸せいっぱいに続いていくのだった。




