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きらびやかな誕生セレモニー

 父・ブロッサム伯爵のエスコートでセレモニーの会場の扉を潜ったローラに向けられたのは、無数の視線であった。

 奇異・好奇・侮蔑・畏怖……込められる意味に多少の違いはあれど、殆どが悪意の籠ったものだ。


 「……っ」


 今までとは違う、身の危険すら感じられる冷たい視線に、思わず父の腕に縋っていた指に力が入る。


 「大丈夫だ、ローラ」


 小声で低く父が囁く。

 自分と同じ青い瞳がちらりとこちらを一瞥する、そこに敵意はなくローラは少しだけ安堵した。


 「やあ、ブロッサム伯爵。 ローラ嬢もご機嫌うるわしく」


 そこに投げかけられた鷹揚な声に顔を向ければ、先日世話になったばかりのサンフラワー伯爵がニコニコと人のよい笑みを浮かべて近付いてくる。

 その後ろには、ジョージの兄であり文官のソーラの姿もあった。


 「サンフラワー伯爵、良き夜ですね。 ジョージ殿はどちらに?」


 「ああ、息子は城の警備にあたっているよ」


 「噂はかねがね、準騎士の中でも実力が抜きんでていると聞いていますよ」


 「ははは、アイツは身体が丈夫なのが取り柄だからね」


 父とサンフラワー伯爵も幼馴染の間柄だ。

 形式張った挨拶の裏には、勝手知ってる者同士のフランクさも滲み出ている。


 「サンフラワー伯爵に、ご挨拶を」


 父の後ろでそっとカーテシーを取るローラに、サンフラワー伯爵が労わるように目を細める。


 「大変だったね、ローラ嬢」


 「ありがとうございます」


 「君を信じている者も居る、私もその一人だ。 希望は捨てないでおくれよ」


 サンフラワー伯爵は幼い頃からのローラを知っている。

 父の傍らに立って励ましの言葉を掛ける彼に、ローラは静かに頭を下げた。


◆◆◆

 

 挨拶回りがある父と一度別れ、ローラは広間の片隅で、飲み物を片手に目の前の喧騒を眺めていた。

 広間の中に造られた立派な玉座にはシーズニア国王と、その伴侶である王妃が座っている。

 先程お目通りは叶ったが、二人とも冷酷なまでに淡々とした言葉を掛けるだけであった。


 (まあ、仕方ないか)


 王妃に関しては噂を信じてはいないであろう。

 しかし、現在の貴族達に渦巻くローラへの疑惑の視線は、王妃一人ではとても払拭できるものではなくなっている。

 故に、関わらないという残酷な選択を取ったのは、間違いではないとローラは考えていた。


 (声をかけてくれたのは、スノーホリィ侯爵令嬢だけだったわね)


 今宵の会場で、ローラに声を掛けた令嬢はスノーホリィ侯爵令嬢ただ一人だけであった。

 彼女はローラの手元、手袋ではなくフリルを使い手首をリボンで結わえたアームカバーのようなものを「目新しくて可愛い」と褒めてくれて、軽やかに去っていった。


 どうやら『ローラと話すだけでも呪われる』などと確証のない噂まで出回っているようだ。

 ひそひそ、こそこそと交わされる小鳥のさえずりが、なんとも居心地を悪くさせる。


 (……それにしても、此処まで露骨に変わるとはね)


 ゲルダの父であるスノードロップ公爵は宰相として王の傍に控えている。

 しかし、その近くにいつもいる筈の夫人の姿はどこにもない。

 いつもならば彼らの周りに人が集まるはずだが、その姿は寂しげにも思えた。


 反対に、人々の輪の真ん中に居るのがオスマンサス侯爵夫人であった。

 妹である優美で品のあるドレスを纏う王妃とは対称的に、オスマンサス侯爵夫人は目が覚めるような朱色の露出の高いドレスを身に纏い白の羽毛を使ったショールを合わせている。

 なんなら、王妃よりも目立っているような気もしなくもない。


 (……ジョージは、どこに居るのかしら)


 サンフラワー伯爵は城の警護についていると話していた。

 多分、この王城のどこかに居るはずだ。

 数日前の、幼馴染の傷付いたような表情が脳裏に何度も浮かぶ。

 そんな浮ついたローラの思考は、大広間で音楽を奏でていた楽団が、がらりと曲調を変えたことで現実へと呼び戻される。


 「オータムナル王太子殿下、ならびにリコ・オスマンサス侯爵令嬢の御成りである!」


 大広間の扉を抜けて堂々と現れたのは、まばゆい金の髪を品よく撫でつけたオータムナル王太子であった。

 白と金を基調とした礼服を身に着けたその自信に満ち溢れた姿は、まるで童話の王子様のようだ。


 軽く曲げられた腕にそっと手を通して滑らかに歩を進めるのは、今や侯爵令嬢となった『聖女』ことリコだ。

 柔らかく巻いた髪をシルクのリボンで結い上げ、金刺繍がほどこされた鮮やかな黄色のドレスに身を包んだ彼女に、もう純朴な街娘の面影は無い。


 耳元でキラリとかがやく魔宝石はオータムナル王太子の瞳と同じ色であり、誰が王太子妃に選ばれたのかを如実に語っていた。

 周りの令嬢から、感嘆や憧れ、そしてほんの少しの妬みの籠ったため息が溢れる。


 (オスマンサス侯爵令嬢……)


 ローラもまた、その様子をどこか寂しさを感じながら見ていた。

 玉座に座る両親に形式的な挨拶を交わしたオータムナル王太子は、そのよく通る声で会場内に居る全ての人物へと語り掛ける。


 「今日は私の誕生を祝うため、よく来てくれた。 この場を借りて礼を言いたい」


 朗々としたその声は、人を惹きつけるものだ。


 「私、オータムナル・ダージ・シーズニアは王太子妃としてこの、リコ・オスマンサス侯爵令嬢を迎えることを此処に宣言する!」


 王太子はオレンジの瞳に苛烈な瞳を宿しながら、高らかに宣言する。

 『風花令嬢』の断罪の舞台が今、始まろうとしていた。


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