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春咲令嬢の顛末とこれから

 「その言葉にも、何だか慣れてしまったわね」


 「……わりい、深い意味は無かったんだ」


 「良いのよ、元々悪い言葉じゃないもの」


 冬の晴天に降る、儚くも美しい雪。

 『花を咲かせる魔法』を使えるのに冷たい、そんなローラの態度から付けられたのであろう。

 今となっては誰がそう呼び始めたのかも分からなかったが、今のローラにはどうでも良いことであった。


 「今はもう、その名前で呼ぶ人のほうが少ないわ」


 『眠り姫病』事件の後、ゲルダやスノーホリィ侯爵令嬢に倣いローラに声をかける令嬢が少しずつ増えた。

 今では、『風花令嬢』と陰口を叩かれる事は殆ど無い。


 「聞いたことあるぜ、『花のような笑みの春咲令嬢』だってな」


 「え、私そんなこっ恥ずかしい呼び方されてるの?」


 「それほどお前の笑顔には魅力があるんだよ、覚えとけ」


 こつん、と額を軽く指で突かれ、むうと軽く唇を尖らせたローラは、そっと空を仰ぐ。

 花弁のように散る風花は、すぐに儚く消え去るだろう。

 まるで、魔法のような光景だ。


 「全て、先生のおかげだわ」


 思い描いたのは、『儚い』とは真逆に位置する人間だった。

 異国めいた艷やかな褐色の肌も、筋骨隆々な肉体も、絶対的な自信と包容力も、すべてが生命力に溢れていた。


 「今の私を作ってくれたのは、モモ先生よ」


 最初はただ、胡散臭い人間だと思ったのに、今はただ懐かしいばかりだ。

 もう会うこともない恩師の事を思い出せば、淑女として固く閉められていた涙腺が潤む。

 そんな肩を抱いたのは、他でもないジョージであった。


 「確かにセンセイの影響もあるぜ。 けどよ……お前が努力して変わったから、今があるんだろうが」


 「ジョージ……」


 「お前が変わろうとしたから、周りも変わったんだ。 胸張って良いことだぜ」


 指先が、ローラの目尻に溜まった涙を優しくぬぐう。

 胸の内がほわりと温かくなり、ローラは軽く頷いた。


 「……それに、この春咲花が咲く頃には俺は騎士に叙任されて爵位も賜われるんだ、その時には呼ばれ方も『春咲夫人』に変わるかもな」


 「そ、それはそれで恥ずかしいわよ」


 ジョージは春からサンフラワー子爵となる。

 暫くは王都で騎士として働くようだが、ゆくゆくはサーマ領の一部を治める事になるだろう。


 (私も、『サンフラワー子爵夫人』として恥ずかしくないようにしないと)


 そして、ローラもまた、サンフラワー家に嫁ぐ。

 勝手知ったる幼馴染の家だから憂うことはないが、それでも優しくいつでもローラの味方でいてくれる彼を支えたいのだ。


 (頑張るわ、モモ先生)


 この世界は、けして生きやすい世界ではない。

 それでも、愛しいものが沢山あるこの世界で、生きていこうと思う。


 (私らしく、私の人生(ものがたり)を生きていくわ)


 ローラの知らない世界で、あの教育係も強く生きている。

 あの逞しい背中に、いつかきっと近付いてみせよう。


 「どうかしたか?」


 「何でもないわ……さ、邸に戻りましょう」


 ジョージにエスコートされながら、そっと春咲花の木に背中を向ける。

 枝に付いた蕾のように、小さくも新たな『夢』をその胸に抱きながら、ローラはしっかりと一歩を踏み出したのであった。


 END


ここまで読んでいただき誠にありがとうございました!


おもしろかったよ!と思っていただけましたら☆での評価をいただけると幸いです!

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