第1話 レイ
フォルデノ城の元・国王の寝室。前にも語った通り、今は黒の剣士マーダの寝室。
今日も彼はこの寝室でヴァロウズ4番目の女、フォウと共にダラダラと、裸同然の姿で過ごしている。
勿論、国王の間と玉座は存在するのだが、彼は滅多にそこに座る事はなかった。
マーダの側近とも言えるヴァロウズの連中は、命のない限り、自由行動を許されており、マーダ自身も他人に付きまとわれるのを嫌った。
よって普通の王の様に玉座でふんぞり返って、部下を招集したり、客人の相手をするといった類の作業は、ほぼ皆無に等しい。
「オットー、良くやった。貴様に与えた赤眼は無駄にはならなかったぞ。お前は無駄死ではない。実に良い働きをしてくれたわ」
マーダはフォウを傍らに寄せて、実に上機嫌であった。
「フォウよ、あれを見るがいい」
寝室のベッドの向かいにある壁には、アドノス島全土を示す巨大な地図がある。この地図は実に精巧なもので、実際のアドノス島とほぼ違わぬ姿を表現している。
アドノスの技術力の高さが窺い知れるものだ。
その地図の方を顎で指すマーダ。言われた通り地図に視線を送るフォウ。エディン自治区、アマン山の辺りに赤い点が浮かんでいた。
「これは何を指しておられるのですか?」
「あれこそ、あの爺の居所だ。ようやく見つける事が出来たよ」
主に身体を預けたまま質問するフォウの顔は、どこか覇気がない。
フォウの黒い頭を撫でながら、愛しい女に諭す様に答えるマーダ。
「オットーは殺されてしまったが、奴の放った赤い目は、戦った相手の身体の中に残り、そして爺への道案内をしてくれたのだ。実にいい仕事だった」
「サイガン、た、確か、エディン民衆軍の指揮者と言いながら、裏で暗躍しているという男……」
「そうだ、我こそがこの世界を創造したと言わんばかりの不届きな輩よ」
マーダは頭を撫でたまま、もう片方の手の指をフォウの身体の上で、好きに歩かせながら、クククっと笑う。
時折吐息を漏らしながら、何とかマーダとの会話を続けるフォウ。
「そっ、創造主、かっ神は、こっこの世にマーダ様だけでっ」
「その通りだ、フォウよ」
マーダが遊びを止めないので、必死に息を殺しながら答えるフォウ。
実に楽し気にフォウの反応を見ながらその身体を弄ぶ。
「けっ、あっ、消されるので、ございますかっ」
フォウは勝手に身体が動くのを止めるのに難儀する。何しろ近頃の主様は、終始この様な行為を楽しむのである。
この寝所には風呂も併設されており、食事は従者が運んで来るため、二人は常に一緒なのだ。
「いや、泳がす」
「なっ、なぜ、ハァ…で、ござっ、アッ…」
フォウの真っ赤に染まった唇に深いキスをするマーダ。
「爺が、青年を成長させた所を私が全て頂く為だ。そして私は真の神になる」
(ハァハァ…)
もうフォウの方は、流石に会話を続ける事が出来なくなり、マーダにその身を任せ、グッタリとするしかない。
突然、寝所の扉の向こうから大きな声がした。フォウの肩が驚きで震える。
「よおっ、大将! 今、戻ったぜっ!」
「おおっ、戻ったか。ご苦労。遠慮は無用、入れ」
およそ遠慮を知らないデカい声であった。
マーダはフォウに対する行為を止める事なく、扉の外にいる人間の入室を許可した。
(えっ、そ、そんな……)
こんな姿を他の人間に晒す。フォウはうろたえたが、もうどうにもなりそうにない。
女は扉を勢いよく蹴り開くと、遠慮なしにズカズカと入ってきた。
「おっと、お楽しみ中だったのか。ホントに良かったのかい?」
女はベッドの二人をじっくりと冷笑しながら見つめて告げる。流石に開けた扉を閉じてやる事だけが、一応の作法であった。
「構う事はない、そんな事より相棒は見つかったのか?」
言葉通り本当に構うことなく、自分とフォウの裸体を晒し、フォウを弄ぶ事を止めない。
「おやおや、随分とご満悦そうだな、四番目」
女はそう言いながら、両太腿のホルスターから相棒を二丁抜くと、目にもとまらぬ速さで両手に握り、二人の方へ向けた。
(う、うるさい、黙れ! 力だけの下賎の女!)
フォウはマーダにいい様に弄ばれながらも、鋭い視線を女に送る抵抗を止めなかったが、哀れ…その姿は相手のいやらしい笑いを、かえって助長してしまった。
「まあ、どうでもいいぜ。俺に男は不要。こいつらがいれば野郎も女も化物も関係ねえ。こいつらをぶっ放す事が、俺の最高の快楽さ」
言いながら女は、相棒達に深いキスをする。
女の名は『ディエディン』身長170cm程、髪の色は銀色、女の割には無頓着らしくボサボサである。
5番目の女『ティン・クェン』の様な鋼の肉体は持ち合わせていないが、格闘術とボウガンの腕をかわれてヴァロウズの10番目になった。
一見、他のヴァロウズがまとう黒い制服やスーツの様なメイルに似ている格好だが、この装備、実は彼女の私物。
自国に居た時の彼女の職業は警官。白い革製のグローブと保安官を示すバッジが輝いていた。もっともバッジは千切って捨てた跡がある。
格闘術とボウガンと言ったが、これは彼女本来の得物ではない。
「ほぅ、見つかったのだな。元仲間に取り上げられたお前の相棒とやらは」
マーダが彼女の相棒を怯む事なく見つめる。
「そう言う事だ。此奴は『コルト・ガバメント』っていうイかした銃だ。日本人が言ってる”ヒナワ”とかいう花火とは次元が違うのさ」
今度は黒光りする相棒を見つめながらニヤニヤしている。
「やつら、俺を捉えた時に二度と使えん様に此奴等をぶち壊すって言ってたんだぜ。でも価値に欲に目が眩んだんだろうな。後生大事に金庫に隠していやがったよ。全員ブチ殺してやった」
10番目は言うなり、ケラケラっと笑い飛ばした。
「随分と威勢のいいことだな、それはそこまで良い物なのか」
「そりゃあそうさ。コイツが撃ち出す銃弾が、アンタがやられそうになったものなんだぜぇ。銃は剣より強しって言葉を知ってるか?」
(この女! マーダ様まで侮辱するつもりか!)
狂戦士との戦いを思い出し不快な気分に落ちるフォウ。
この女、本当に礼儀を知らないと悔しくなったが、マーダにすっかりいい様にされて声も出せない。
「いいかい、此奴等を手にしたら、もう俺の事を10番目なんてダセぇ名前で呼ぶのはナシだ。そうだな、8番が空席になったんだろ? とりあえず、そこにブチ込んでくれ。ま、もっとも順番なんてどうでもいいけどよ」
自ら8番である事を勝手に宣言した女はさらに続ける。
「但し、オットーなんて名前はさらに願い下げだ。そうだな……これから俺の事は、『レイ(ley)』って呼んでくれ。二丁拳銃のレイ、異論は認めねえ」
レイとなった女は見下す様な視線で、マーダとフォウに言いたくった。
「か、勝手な事ばかり言うな! 仲間殺しが法を名乗るのか」
息を切らしながらようやく反論するフォウ。
「おっと、まだ起きてたのか四番目。大将の指でてっきり、気持ちよーく、逝っちまったかと思ってたよ」
白目になって逝ってしまう真似をしつつフォウを挑発するレイである。
「自ら法の番人を語るか、良かろう、認めてやる。まあ私が認めるも何も、言い出したら聞かないのがお前だ」
冷笑しながらそんな自由なレイを認めるマーダ。器の違いを見せつける。
「さすが大将! 話が分かる奴は楽でいい。あ、あとついでにご所望してたガトリング砲。あれも貰って来た。それにライフルとか他のどうでもいい銃も土産にくれてやるよ。あとは煮るなり焼くなり好きにしてくれ、じゃあな。邪魔して悪かった。あとはごゆるりと」
たった今、改名しレイとなった女はクルっと背中を見せて、挨拶代わりに右手をひょいっと挙げてから、退室していった。
「マ、マーダさまぁぁ……」
フォウは気が付くと涙を流していた。自分の醜態を晒した事とマーダの事を馬鹿にした様なレイの発言に抵抗出来なかったことが、余程悔しかったらしい。
「なんだなんだフォウ。私のために泣いてくれるのか? まあ、気にするな」
マーダがフォウを優しく抱いてその頭を撫でる。
「私にとって女はお前だけで十分なのだ。どうだ、満足したか?」
さらに大粒の涙を流すフォウ。全ての屈辱が洗い流されていく気がした。




