最終話 目一杯の祝福をこの世界へ(後編)
此処でドゥーウェンが狙ったパラレルワールドの真意に付いて明かそう。
我々の知るサイガン・ロットレンは、西暦1978年の3月に生を受け、そして1993年に於いて、日本人の血を受け継いだアヤメとの哀しい死別を経験している。
if………これが巧い事、順繰りすれば、或いは新しいサイガン・ロットレンが、この世に生を受ける可能性があるやも知れぬ。当然アヤメも然りだ。
実際、ローダとルシアは既に、サイガン、そしてアヤメの両親と成り得る存在が、出会い、結ばれつつある処迄は確認している。
もっとも虚ろな人間の恋愛模様………。必ずしも同じ道を辿り得るとは限らない。しかしそれでも、この可能性を提示したドゥーウェンの言葉。
これをローダとルシアのみならず、60年前共に戦った皆が信じたいと心底願った。そして永遠を生きると決めたローダとルシアがさらに欲を張る。
未だ見ぬ二人を今度は、俺達が祝福へ導いてみたい。
これがもし叶うのであれば、新しいサイガン・ロットレンは、絶望の灰の中からではなく、希望の内から新たなる人工知性の開発と、それに繋がるマーダを生み出すかも知れない。
全く以ってifにifを重ね続けた手前勝手な想像だと認識こそしている。だけどこれこそが、最初の扉を開いた者の宿願だと定義づけた。
それまで自分達も決して絶望ではなく、世界の祝福を信じ、新たなる扉を開く存在を待とう。そういう想いで、やってゆけば明るい未来を夢見ることが出来る。
因みにヒビキ・ロットレンは、父の様に10の試練を潜ることは結局なかった。
ただ………生まれる以前から既に周りに自分の存在を響かせた彼女である。
これはもう真の扉を持つ父と、創造より生まれた母の遺伝子を継いだ新たな扉の形なのではあるまいか。
加えてヒビキ自身も母と成り、その血統は脈々と受け継がれている。それはルイスとフォウから連なる子供達とて同じことだ。
周りから容認されない力は発揮出来ない扉という厄介な力。
もっとも無理矢理不完全なものを開いた連中は、あの最終決戦以後も至る所に現れ、その度にローダ達は苦心を続けている。
また今後、身勝手な形でローダの様な扉を開いてしまう者も現れないとは限らない。所詮、人が創りし虚ろな力なのだから………。
「………それでも、俺はいつの日か……人が判り合える未来を信じて歩む」
これがお人好しであるローダの信じる道の終着駅である。
───やがて今日の陽が落ちて夜の闇が訪れた。
「………今年もやるんだね。もう皆『いつまで呼び出すんだあ』って文句を言ってるかも知れないよ」
「フフッ………そうだな」
夜空に星が瞬く最中、これからローダがもっと身近な星々を生む。夜空へ向けて両手を広げる。そこへルシアが自分の左手を重ねるのだ。
「「……アイ……リス」」
ローダとルシア、二人が真心を込めた言葉を重ねると、緑色の輝きが蛍の如く、次から次に降ってきては、意識の言葉を散らしてゆくのだ。
ディン(元エタリア国の船頭・ローダを送り届けた少年。多分まだ存命)
―ローダの兄ちゃん! オイラまだまだ現役だぞ! また遊びに行くからな!
リンネ・アルベェリア(神竜戦争より・音使い)
―まだまだこれからもローダ達だけで英雄譚の歌が創れそうだよ。
ヴァイロ・カノン・アルベェリア(神竜戦争より・初代暗黒神)
―もう一体、何曲作っているのだそれは?
ミリア・アルベェリア(神竜戦争より・ヴァイロ、もう一人の妻)
―まあまあ………リンネの音色は、幾らあっても良いものでございますわ。
アズール(神竜戦争より・紅蓮の魔導士)
―リンネの歌は俺も好きだぞ。でも俺はやっぱりドカンッが好きだな!
アギド(神竜戦争より・先読みのアギド)
―フゥ………永久に絶つことのない英雄譚か。まあ、良いんじゃないの。
ファウナ(神竜戦争より・森の女神)
―あらあら、女神の私を差し置いて、随分と愉し気なこと、やってんじゃないの?
ルチエノ(神竜戦争より・天使の様な鳥人間)
―わ、私、あれから出番が無くて寂しかったんですよぉ………。
ノヴァン(神竜戦争より・ヴァロウズNo9の黒き竜)
―フンッ、この輝きも悪くないが我の蒼き炎の方が勇壮ではないか?
ジェリド・アルベェラータ(柄の長い斧の騎士)
―おお、今年もまた盛大にやっているな。
ホーリィーン・アルベェラータ(ジェリドの元妻で戦の女神司祭級)
―リイナは未だに美しいですねぇ……正直羨ましいわ。ロイド君は元気かしら?
プリドール・アルベェラータ(ラオ守備隊副団長『赤い鯱』・馬上槍の使い手)
―アタイとジェリドの子供だって連れて来なっ!
エリナ・ガエリオ(リイナの叔母で戦の女神の司祭)
―リイナ………本当に立派になって………ちょっとなり過ぎな気もするけど。
ロイド・アルベェラータ(リイナの夫・76歳で普通に生きている)
―ホーリィーンさん! すっかり老いぼれてしまいましたが、未だリイナの夫ですよ!
ランチア・ラオ・ポルテガ(ラオ守備隊団長『青い鯱』・投げ槍の使い手)
―ローダ、ルシア………。お前達60年経ってもラブラブなのかぁ……。俺な、ちょっと後悔してんだわ。
ドゥーウェン(元ヴァロウズNo2の学者・自由なる爪の使い手)
―僕のべランドナ、ずっと空からその美しさを眺めているよ。
レイ(元ヴァロウズNo8の二丁拳銃使い)
―………ったく。此奴ホントにずっと見てやがるぞ。飽きもせずにまあ………。
べランドナ(ハイエルフ・精霊術のマスタークラスの使い手)
「………はい、マスタードゥーウェン。これからもローダ夫妻を助けてゆきます」
レイチ(ハイエルフでダガー二刀の使い手・まだ生きている)
―………安心して。べランドナの背中は永久にこの僕が守り続ける。
ガロウ・チュウマ(示現流を使う侍大将)
―また今年もやってるのか? また鹿児島から呼び出されたな!
トレノ(河南士郎・ヴァロウズNo3の剣士・氷狼の刃の使い手)
―今年も艶やかなものだ。此処に季節外れの雪を降らせようか? 一段と綺麗になるぞ。
ティン・クェン(ナナリィー・ヴァロウズNo5の拳闘士)
―おぃ、金髪の女! こっちにはアンタみたいに強いのがいなくて実につまらん! たまには手合わせしてくれよな!
フォウ・ファルムーン(ヴァロウズNo4の暗黒神魔導士)
―やはり何度見ても美しいですね………。今度は私の地元、カノンでやってくれないかしら?
ルイス・ファルムーン(ローダの兄、二番目に真なる扉を開いた青年)
―………フフッ、僕の可愛いフォウは本当に真面目だよ。ローダ………君は僕の誇りだ。
アスター・バルドワルド(葬送のレクイエムより特別出演・亡者送りの剣士)
―お前達二人に真の祝福が訪れることを願っている………。
メル(葬送のレクイエムより特別出演・魂送りの使い手)
―リイナ! ヒビキ! また一緒に遊ぼうね! ………って、私まだ死んでないよ!?
リイナ・アルベェラータ(戦の女神の最高司祭・不死鳥の使い手)
「うんっ! メル、きっとだよ! お父さん、そして二人のお母さん………私はもう暫くそちらへは行けませんが元気です!」
ジオーネ・カスード(元エドル大司祭。故にセカンドネームのエドルを外した)
「ニャオォォォンッ! リイナのことは任せるニャッ! ……そして母さん、我儘な僕を赦して下さい」
エゾルデ&ロカミュー(ジオーネの両親)&ロカンダ(ジオーネの姉)
―リイナ大司祭殿に余り迷惑を掛けんよう……いや、これは余計だな。
―あらあらあら………本当にリイナさんと良い仲よねぇ。私はいつまでも待っているわ。
―ジオもロッギオネで逢った女の子も幸せそうで本当に良かったよ!
ヒビキ・ロットレン(自らの意識を周囲に響かせる能力を持つ)
「………メルちゃん、私はその……まだやることが残って……いんやっ! やっぱり絶対遊びに行くよっ!」
サイガン・ロットレン(人工知性『AYAME』を創ったエンジニア)
―全く………二人目のワシとはまた大風呂敷を広げたものだ。………待て、そうなると此処に居る自分は果たしてどうなるのだ?
マーダ(人工知性『AYAME』を積んだ最初の人造人間)
―こればかりは爺の言うことがもっともだと思うのだが………。大体意識だけの我がもう一人生まれたら………。フフッ……まあ、好きにするが良かろう。
様々な色合いを含んだ声が緑色の星々が木霊する。亡くなったかけがえのない者達と自分達を通わせたい。
これはローダが望んだ私用………所謂身勝手な扉の使い方なのかも知れない。でもこの位の遊びであるなら、何処にいるとも判らぬ神も赦してくれると思いたい。
ルシア・ロットレン(サイガンが創造より生み出した人類を超えた人類・ローダの妻)
「フフッ………今年も皆元気だねっ! 私達、ずっと幸せでいられるよう頑張ってゆくよ!」
ローダ・ロットレン(最初の扉を開いた青年。だけど騎士見習い)
「嗚呼、そうだ……。そして俺達が俺達の意志で、これからも皆の祝福を繋いでみせる!」
いつか、いつの日か………。人が真に判り合える………。そんな子供じみた夢を信じて。そんな祝福が世界に訪れることを夢見て………。
………そしてローダとルシア、この愛し合う二人に目一杯の祝福を!
── ローダ第一章『最初の扉を開く青年』 終演 ──
── ローダ第零章マーダ『森の護り人・ファウナ』へ戻りし物語 ──
Presented by 狼駄@ともあき 2024年6月30日




