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勇者の君へ —— 魔王になった僕が君を救う物語——  作者: R.R.
第一章 勇者

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05、聖剣


 月明かりが、森の木々の隙間からこぼれていた。


 僕は大木の枝に腰を下ろし、黒い外套のフードを深く被る。


 眼下には、小さな広場。


 その中央で、銀髪の少女が剣を構えていた。


「――はっ!」


 セシリアが地面を蹴る。


 同時に、一頭の魔物が飛びかかった。


 振り下ろされた爪を、聖剣が受け止める。


 ――ギィンッ!


 甲高い音が森に響いた。


 セシリアは押し負けない。


 身体を捻り、爪を横へ流す。


 そのまま一歩踏み込み、聖剣を突き出した。


 刃が魔物の胸を貫く。


 黒い体液が飛び散り、魔物が地面へ倒れた。


「……っ」


 セシリアは剣を引き抜く。


 その刃から漏れる光は、弱い。


 明滅するだけの、濁った光。


「次……!」


 左右から二頭の魔物が迫る。


 セシリアは一頭の爪をかわし、横薙ぎに剣を振った。


 だが――浅い。


 魔物の身体を裂いたものの、倒れない。


「くっ!」


 振り返った瞬間、もう一頭が背後から迫っていた。


 セシリアが身をひねる。


 間に合わない。


 鋭い爪が肩を掠めた。


 白い服が裂け、赤い線が走る。


「……」


 セシリアは肩へ手をやった。


 指先についた血を見る。


 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「まだ……」


 聖剣を握り直す。


「まだ、やれる」


 再び魔物へ向かって走った。


 僕は枝の上から、その姿を見下ろしていた。


 腰の魔剣へ手が伸びる。


 ――だが。


 柄に触れたところで、指を止めた。


「……」


 僕は手を離した。


 セシリアが戦っている。


 なら、僕が手を出すわけにはいかない。


「――はあっ!」


 セシリアの剣が閃く。


 一頭。


 二頭。


 三頭。


 最後の魔物が倒れた。


 広場に静寂が戻る。


「はぁ……っ、はぁ……」


 セシリアは剣を握ったまま、その場に立っていた。


 肩が上下している。


 銀髪が汗で頬に張りついていた。


 やがて、彼女は手元へ視線を落とす。


 聖剣の光が、消えていく。


 すうっ、と。


 残ったのは、ただの剣だった。


「……」


 セシリアの指が震えた。


 柄を握り直す。


 もう一度。


 さらに強く。


「光って……」


 聖剣は動かない。


「お願い……」


 セシリアが両手で柄を包み込む。


「光ってよ……!」


 返事はない。


 彼女の唇が小さく震える。


「私……ちゃんと頑張ってるよ」


 剣を見つめたまま、一歩後ろへ下がる。


「毎日、練習してる」


 また一歩。


「魔物だって倒した」


 声が途切れた。


 セシリアは俯く。


 ぽたり。


 地面に雫が落ちた。


「……どうして」


 もう一滴。


「どうして、光ってくれないの……?」


 僕は枝の上から、その姿を見ていた。


 セシリアは腕で目元を拭う。


 そして、何事もなかったように立ち上がろうとした。


 けれど、膝が折れた。


「……っ」


 地面に手をつく。


 聖剣だけは離さない。


「……まだ」


 震える手で剣を拾う。


「明日も……やらなきゃ」


 立ち上がる。


 ふらつきながらも、鞘へ聖剣を収めた。


 そのまま森の出口へ歩いていく。


 僕はセシリアの背中が木々の向こうへ消えるまで、枝の上から動かなかった。


 やがて、完全に姿が見えなくなる。


「……セシリア」


 僕は木から飛び降りた。


 足元には、倒れた魔物たち。


 腰の魔剣へ手を添える。


「このままじゃ……間に合わない」


 黒い刃が月明かりを吸い込む。


 僕は森の出口とは反対方向へ歩き出した。


「待っていてくれ」


 一歩。


 さらに一歩。


「絶対に」


 黒い外套が夜風に翻る。


 僕は森の奥へ消えていった。

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