(2) ロイクス、勧誘する
「ところで、君。名前は?」
「カイルです」
「これから冒険者登録するんだよね?」
「はい」
「良かったら、僕たちのパーティに入らないか」
カイルは視線を僕に向けたが返事は返ってこなかった。
まぁ、いかにも怪しい勧誘だ。胡散臭さが漂っている。警戒するの気持ちもわかる。
こういうの苦手なんだよな。
「一応、冒険者について簡単に説明しておくよ」
「冒険者登録すると、Gランクから始まる。ここから依頼ポイントを貯めて昇格していく。最初は弱い魔物討伐や薬草や山菜の採取しか仕事はもらえない」
「カイルの実力からすれば簡単過ぎる仕事だ。順調に依頼をこなしても、通常はランクアップに三ヶ月以上かかる」
カイルは黙って聞いている。
「僕たちのパーティは、ギルドに登録して承認もされている。通常はランクの違いすぎる冒険者同士はパーティとして認められないんだが、僕らのパーティには新人育成枠が認められているんだ」
「一人で冒険者を続けるよりはランクアップは早いと思うよ」
黙って聞いていたカイルが口を開く。
「わかりました。ありがとうございます。少し考えさせてください」「何かを決断するときは一晩かけて考えてからにしろというのが、育ててくれた爺ちゃんの教えなので」
「とても大切な教えだ」
「はい」
その気はなさそう、と感じた俺は強引に誘うのを止めた。
俺も貴族都市ラノブレスにいた時は周りの存在すべてが煩わしかった。
人に何を言われても生返事だけ。カイルの反応はあの頃の自分を見ているようだった。
それからは何事もなくレーゼに到着。直行で冒険者ギルドに向かう。
先に僕たちパーティの依頼達成報告を済ませたあと、カイルの冒険者登録に進んだ。
僕は、カイルがオークを6匹も一人で倒していたことをアピールしたが、パーティメンバー誰一人それを確認していないので却下された。まあ、却下は想定内だったけどね。
続いて討伐魔物の買い取りを依頼した。
ギルド隣の作業場に移動する。ここはいつ来ても寒い。
顔馴染みになっているオットーが担当してくれる。
オーク死体12匹で、うち6匹がカイルの取り分だと説明すると、オットーが「嘘だら」と驚く。
そして少年の空間倉庫の大きさにまた驚く。
「サラちゃんなら分かるが…」とオットーは呆気に取られる。
僕だって手荷物程度の大きさだ。エリンやゴウヤもだいたい同じ。習得難易度が高く、普通はそのくらいで妥協してしまう。魔力がそこそこ高くなければ入学できないアカデミーで知り合った僕たちでもだ。
もちろん、もっと大きくしたいとは思っているのだが…。
そういう魔法を持たない冒険者はどうするのか。
ひとつは市販されているアイテム袋を買う。高額なので、全装備の中で最高額になる冒険者も少なくない。
特殊な魔法を込めた魔石が必要なのでそれも仕方ない。
あとは、高額で売れる所だけ解体して必要最低限だけ持ち帰る方法。余った部分は燃やして土に埋める。放置したままで去れば、素材の売買記録から犯人探しが始まる。
指定場所にカイルはオーク6匹を置き、伝票を貰う。受け取りは2日後。
依頼指定された魔物なら最短で即金払いだが、今回の魔物は偶発的なものだったので仕方ない。
僕たちが見ていないオークはアーチャーオークだった。弓使いのオークだ。先に厄介な遠距離型を仕留めておくなんて、どんだけ戦い慣れているんだ。
僕たちが加勢しなくてもこの少年は勝っていたと思う。
戦っていたのが熟練冒険者なら勝手に加勢するのはマナー違反。ギルドに訴えられたら僕たちはペナルティ確定だ。
しかし、襲われていたのが少年だったら話は別。
助けなかったのを見られていれば確実にペナルティだ。
誰がこんな少年がオークの群を殲滅できると思うのか。
加勢したエリンとゴウヤの判断は正しい。
続いて僕たち。オーク6匹、それ以前に狩っていた、フォレストウルフ7匹、ストーンリザード3匹。
オーク以外は街道から少し離れていたので別に倒さなくてもよかった(他の冒険者なら気づかない)相手ではあったのだが、サラの探知魔法で炙り出されたのが運の尽き。
ここでカイルとは別れた。
今晩泊まる所はあるのかとか、いろいろ思うところはあるのだが、要らぬお節介のように感じてしまう。
サラも「ダメだったね」と言うだけ。いつもなら「ロイクスが悪い」と叱責される。完敗を認めよう。
「帰ろうか」
僕たちはそれぞれ住み家を持っている。
しかし、帰るという場所は僕が住んでる家だ。
この国は土地を所有する場合、一定期間を定めて最初にほぼ全額の賃貸料を払って借りる。最大で99年間だ。
僕が住んでる家は母の実家が購入したもの。
僕の籍があるアカデミーは母の母校でもある。
貴族ゆえに「5年間だけ」というみみっちい買い方は貴族のプライドが許さないらしい。
故に今後70年以上は母が所有する家というのが正しい。
溜まり場にするには広いし最適な家なのだ。
但しそこに住民登録できるのは主人家族以外は従者のみ。平たく言えば召使いの類いだ。
だから全員が別に自分の住処を持っている。
★




