(1) ロイクス、挨拶する
僕の名前は、ロイクス・アンダーソン。
貴族出身の冒険者だ。
別に貴族を追放されたわけじゃない。
僕は五男四女の下から数えて4番目の四男。
微妙なポジションになる。
9人の兄弟姉妹を等しく社交界デビューさせようとすれば経費は嵩み、家が傾く。
だから、親はあっさり認めてくれた。
1人くらい変わり者がいてもいい。
罷り間違って魔王でも倒してくれれば家名に箔がつく。くらいのもんだ。
「家名だけは汚すな」と釘を刺されているので、普段はファーストネームしか名乗らないようにしている。
俺の実家は、ラノブレスという貴族ばかり集まった街にある。なんで貴族ばかりの街が存在できるのかも疑問だが、王族寄りのとある策士が目障りな貴族を口車に乗せて根こそぎ排除したんじゃないかと考えている。
そこでの実家のランクは、下の上と言ったところ。
うちより下はどうみても没落貴族な家柄が多い。うちの家もそこに片足突っ込んでいるようなものだ。
「貴族」なんてもんに何時迄もこだわってないで、普通の街で普通に暮らせばいいのに。子供のころからずっとそう思ってきた。
貴族の子供はアカデミーの初等部のうちから完全に格付け社会に晒される。
格下の家の子は6歳の頃から、同年代の下僕扱いだ。
しかも僕は入学時の魔力測定だけはトップクラスだった。
単純に持っている魔力量を測るだけ。
魔法の技能試験とかではない。魔法なんて習ったこともない。
それでも周りの貴族の子供はそれが面白くないんだろう。下級貴族の子供が魔力測定でトップなど生意気だというところだ。それで嫌がらせを受ける毎日だった。
中等部からはレーゼという学園都市に魔力の特待生として編入させてもらった。
そこで知り合った友人と、いまパーティを組んでいる。
メンバーは全員アカデミーを卒業していて、アカデミーに籍を置いたまま副業程度に教育や研究に携わりながら、冒険者をしている。
今日は、レーゼとシシンという町を結ぶ街道付近の魔物討伐の依頼を請け負っているところだ。
簡単に言うと、2つの町を往復して途中見つけた魔物を討伐(手に負えなければ報告)するだけ。今はその復路。
パーティフルメンバーのうち2名が欠席している。
この依頼は魔物に全く出くわさなければ報酬は低い。フルで参加しても頭数で報酬を分ける事になるので人数調整をしているのだ。全員が副業を持ってるわけだから副業を優先しても何の問題もない。
魔王が放つと言われる魔瘴の影響で、ここ数年はこの辺の魔物の増殖と凶暴化が顕著で、何かしらの魔物には大抵遭遇はする。しかし、今日はここまで遭遇率が悪かった。
サラが「ロイクス、この先で1人の人間と魔物の群れを探知。Dランククラスの魔物かな、6匹ほど」
サラはミモラ族と言って、身長は低い[約120cm]が長寿な種族。
10歳くらいの女の子にしか見えないが、パーティ最年長の24歳。ジョブは召喚士と名乗っている。
無属性魔法のスペシャリストと言っても良く、探知魔法、空間魔法、召喚魔法など高い水準で使いこなす。
もちろん属性魔法もそれなりにこなすが、無属性魔法は高レベルなものほど持って生まれた才能(適正)に左右される。
今も召喚した従魔であるホワイトタイガーの背中にちょこんと座っている。どんな経緯でこんなレアな魔物と契約したのか不思議だが本人は教えてくれない。
「どっち?」と聞いたのはエリン。
獣人族の祖先がいるという女性戦士。耳も尻尾もないが身のこなしは獣人族に劣らない。エリンは風魔法の応用で自分自身を吹っ飛ばす荒技で飛んでいく。
それに無言でついていくのがゴウヤ。巨漢[約210cm]ムッキムキ[約110kg]の男性格闘家。
格闘家といっても武器はしっかり持っている。
さらにサラは、ベブドラゴンを召喚し援軍を送る。
ベブと言ってもドラゴンの子供ではない。立派な成体。
身長はサラの半分くらい[約60cm]ながら、とにかく強い。飛ぶ速さならドラゴン種随一と言われる。
これまたドラゴンの中でも希少種だ。
この3人がいたら、Cランク級が10匹いても怖くない。
「ロイクス、行くよ」
サラはホワイトタイガーに乗ったまま走っていく。
僕は反重力で宙に浮き、あとは風魔法で現地に自分の身体を運んで行く。風だけで自分を吹っ飛ばすなんて嫌だ。
魔法学科で知り合った僕たちは、戦闘型であろうとかなりの魔法を使える。
僕が現地に到着した時には案の定、討伐完了していた。
魔物は、Dランクのオークだった。
ある程度の組織行動をするので、纏まるとランク以上に厄介な相手だった。
それが10匹ほど転がっている。サラが探知したときには4匹は倒されていた事になる。
こんなのに1人で囲まれたらCランク冒険者でも死ねる。
驚いたことに、そこにたった1人いた人間は15歳くらいの少年だった。
「初めまして。えっと、君は1人きりなのかい?」
「……はい」
「これ、半分は君が倒したの?」
「……はい」
「僕はロイクス。『ブラン・オブリージュ』のリーダーをしている。もしかして我々の加勢はお節介だったかな」
「いえ…、助かりました」
「それなら良かった」
どうやら、冒険者を目指し村から出てきたところで、オークの群れに襲われたらしい。
村に戻るかいと聞いたら、冒険者になるためにレーゼの街に行きたいという。
「我々もこれからレーゼの冒険者ギルドに行くけど一緒に行くかい」
「いいんですか?、お願いします」
「それで、このオークの死体はどうする?」
「どうする、とは?」
「このままここには放置してはおけないよ。かと言って1人で運べる量じゃない」
それにこれだけの量なら、買い取りに出せば結構な金額になる。それを話すと、
「わかりました。では自分が倒したのは貰います」
少年はとことこ歩いていくと、オークの死体の前で空間倉庫を出した。しかもかなりの容量がありそうだ。
あの歳で空間倉庫だと、、、信じられん、。
4匹を収納すると、森の奥に入っていく。まだあるのか?
俺たちパーティメンバーは呆気に取られた。
「サラ、どう思う?」
「うちのパーティに欲しいわね。ロイクス、勧誘しなさい」
「ああ、そうだな」
ギルド登録上のリーダーは僕だが、パーティ(闇の)番長はサラだ。
エリンとゴウヤを見ると、黙ってうなづいた。
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