74 子供だからって許されない事もある。
乾いた大地に、冷たい風が吹きすさび、死臭や鉄の匂いを運んでくる。
辺りは禿げた土地が広がっており、馬車の向かう先には、大小様々なテントが張られていた。
恐らくあそこが、ディッセル騎士団の仮拠点なのだろう。
そう思うも束の間、馬車は少し道からずれ……。
少し離れた所の天幕に辿り着いた。
天幕と言っても形状は四角錐でなく、サーカスで使われるような、円柱に三角が乗っているような形だ。
「さぁ、着いたぞ。早速タクマの事を皆に紹介せねばな」
「言っとくっスけど、オレはまだ君のこと認めてないっスからね!」
共に馬車に揺れていたユージンさんに、人差し指を向けられつつそんな事を言われる。
「えぇ……、引き分けだったのにですか?」
「オレに勝つかユズリちゃんを連れ戻せたら認めるかもっス!」
それでも“かも”なのかよ。とは言わずに、歩き出すアルティさんに付いていこうと一歩踏み出すと……。
「くらえ曲者ぉおーっ!!」
少年めいた声が響き渡り、その瞬間、俺の肛門に電撃が走る。
それは腸を裂き、胃を穿ち、食道を焼き尽くして喉を通り越した……ような痛みを齎した。
小学生の時、よくやられてたなぁ、これ……。と懐古に浸ると同時に出てきたのは。
「……ぃいいぎぃいいいあぁあぁあぁああああああああぁあッ!!」
自分でもびっくりする位の大絶叫だった。
千年殺しを喰らい泡を吹いて倒れた俺は、医務室に運ばれた。
そして治療の為に、あくまで治療の為に、俺は少女にケツを向けている。
いや、誤解を産まぬよう順序を守って話そう。
謎の少年、仮称としてXと名付けよう。
Xは仮拠点に着いた直後の俺の尻を重ね合わせた人差し指で強襲。先述したように痛みにより倒れる。
その後医療室らしきとこに搬送され、直ぐにこの部隊の医療担当の者が現れた。
しかし、彼女の姿はどう見ても少女なのだ。止まない街レアルで出会った少女、フーロちゃんよりは大きく、現魔王ヴァーナなんとかさんよりは小さい。
巻癖のある黒髪をだらっと垂らし、白衣を来つつも最小限の防具とダガーを装備している事から、戦闘も心得ていると推察出来る。
「何じろじろ見てるの……? もしかしてロリコン? ……キモ」
「違う! というかこの世界にもロリコンという単語がある事に驚きだよ!」
「うるさい……叫ばないで……黙って患部出して」
会話の通り何処と無く気だるげな少女に、俺は痛いけなお尻を差し出した。
「……初対面でそんな格好、恥ずかしくないの?」
そんな格好、とは、うつ伏せで腰だけ上げている状態の事だろう。
しかし未だに痛みがあるため椅子に座れないのだ。仕方ない。
「恥ずかしいけど、痛いんだよ……治療よろしくお願いします」
「しょーがないな……たいちょの命令でもあるから仕方なくやったげる」
敬語を使ったのが効いたのか、素直に応じてくれる少女。
「あの、ズボンは脱いだ方が……?」
「脱ぐな汚い。それとも、そーゆーシュミでもあるの……? うわ、たいちょ達に報告しとこ……」
「風評被害広まるからやめて!?」
薄幸そうな少女とそんなやり取りをしつつ、なんだかんだ回復魔法はかけさせてもらった。
ゆっくりと簡易ベッドに腰掛け、鋭い痛みが来ない事に安堵する。
「ふぅ……ありがとう。だいぶ楽になったよ」
まだ少し痛むが、治療前よりはマシだ。
「服越しじゃなくて、直にやればもっと良くなるけどね。……今回は絶対やらないけど」
「わ、分かってるよ。そりゃ、初対面の男のケツなんて見たくないよな」
俺の世界では魔法が無かった為、患部を直接出さなければならないという常識が染み付いていた。そのせいで彼女に不快感を与えてしまったのは素直に反省しなくてはならない。
そんな風に思考を巡らせていると、頭に破裂音と共に水が弾けた。
「冷たっ!?」
「ちょっ……こっちにまで掛かったんだけど……サイアク」
流れ弾に顔を顰める少女のことは一旦度外視し、水爆弾を放った犯人を探す。
すると、恐れ知らずなのか強襲して来た張本人……少年Xが出入口から顔を覗かせた。……右手の中で水風船をバウンドさせながら。
「へへー! びっしゃびしゃでダセぇー!」
「こんのガキぃいいいい!!」
俺は逃げる少年Xを全速力で追いかけた。
その後隊長達に捕まり、双方叱られたのは言うまでもない。
……俺、この部隊でやってけんのかなぁ?




