大人たちの事情①
視点違い
シルヴィアパパです。
フェリクスくんのを待ってくださる方には申し訳ないですが、暫くお待ちくださいm(._.)m
パタンと閉まった扉に、残された大人たちは様々だった。
王妃は難しい顔で渋々送り出したと見てとれた。実際は、殿下の態度に胸中あれているだろう。
隣に座る愛しい妻を見れば・・・連れ出すときの様子が気になるのかワクワクしているようにも見える。
俺はというと・・・・・・複雑だった。
“妖精の愛し子”であることが分かった以上は、厳重に守らないといけない。
今までも家族として守ってきたが、それよりもさらに重きを置かなければならない。
どの国も喉から手が出るほど欲しい“妖精の愛し子”の存在
魔力は妖精から出る魔素によって作られる。
妖精の多い国ほど魔素は濃くなる。
“妖精の愛し子”がいるということはその周りに妖精が多く存在するということ。
良質な魔素が多く。
魔素は、実際に生活魔法には必要でそれによって農作物の出来にも大きく左右される。
上質な魔素は、魔法の効きも良い。
それはそのまま、国軍につながる。
今は平和な世だが、いつどの国が仕掛けてくるのかわからない。
今は強大な力を誇るフォルトゥーナ国が睨みを利かせているおかげでおとなしい近隣諸国だが、中には無理に押さえつけられているが故という国もある・・・
そんな国にシルヴィアを奪われでもすれば一大事だ。
一部のものしか知らないが、強力な護りの秘術が王族にはあると言われている。
そのおかげであのおばあ様は、呑気で自由気ままに侯爵夫人でいられたと言われていた。
周りがどれほど苦労したかなど本人は知る由もないが・・・
そんなわけで、シルヴィアも王族の一員に入れることが国の為にもなるとにらんだ。
本来ならば、あのような婚約の結び方には不満がとっても、大変、非常に、はなはだ、大いに、すこぶる、極めてあるのだが、大切な愛しい娘の為に心を殺して我慢して、耐えて耐え忍び、忍耐を重ね婚約を承知した。
今思えば、あの時に承諾をしておいてよかったと今は思う・・・・・・・・・ほんのちょっぴりだが。
ふぅ・・・
思いにふけっていると、気持ちを落ち着かせたらしい王妃様の息を吐く音が聞こえた。
王妃の昔からの癖のようなものだろう、本人は気が付いていないがご婚約のころから気持ちの高ぶりを押さえるときに吐く息はとても大きい。
それさえも近年見なくなっていたが、流石に今回は、腹に据えかねたものがあるのだろう。珍しい。
「さて、本当に困った子だわ・・・あれで王太子ですもの。まだまだ子供なのね。」
その証拠に先程の硬い顔つきから柔和な微笑を顔に作り、朗らかに聞こえる優しい声で話し出す。
この方は、本当に心を隠すのがうまくていらっしゃる。
しかし海千山千の魑魅魍魎、伏魔殿な王宮で一癖も二癖も多い貴族相手に国政を補佐してきた俺から見れば明らかに隠しているとわかる。
恐らくは幼いころからの仲のリーリエも然りだろう。
「王妃様・・・」
「この度のことは、本当に申し訳思っているわ。
大切なお嬢さんの醜聞になり得ないことで、・・・こんな形で婚約を結ばせたことを親として謝罪しm」
「やめてください、王妃様!!!」
「待ってください!」
見ている前でさらに一転、柔和な顔を引き締めてソファーに腰掛けたままではあったが頭を下げて謝罪を口にしようとして夫婦ともに同じように腰を浮かせて止めに入った。
いくら昔なじみの中とはいえ、城の中で王妃に頭を下げさせるわけにはいかない。
やった本人である王太子殿下は、けじめとして謝罪の場を作りそれを口にされること仕方ない。自分がやったことだ、男ならば責任を取るべきだ。
だが、王妃様は違う。
いくら親とは言え王妃様はいけない。
この人は 、気高い心と高貴で慈愛に溢れる存在として王族の中でも女神的な存在と周りから尊敬されている。それでなくとも、この方の細い体にはどれだけの苦労を背負ってきたか。
仕事だけは優秀な陛下は、人心に疎い傾向がある。それを補いフォローしてきたのは王妃だ。
孤児院、修道院などか弱き子供や女性たちの環境が劣悪だった数十年前、婚約すぐに取り組み環境改善だけでなく女性の地位の底上げもされた。劣悪な環境は誰もが知っていながら、誰もそこに手を出そうともしなかった中、簡素な服装で孤児院で畑を耕し、修道院でお針子の仕事を自ら教えて己の力で環境を改善する力をつけさせたのだ。
修道院は、孤児院の子供の養育を。
孤児院を出た子供たちは、大きくなって母親に恩がえしをするかのように修道院の力仕事を買って出た。
可憐な幼女が、簡素なワンピースを着て泥にまみれながら子供たちや母ほどの女性たちと楽しそうに一緒に作業する姿は多くの民に好意をもたせた。
大きなお金を動かさずにやって見せた環境改善はまだ途中ながら、町の彼方此方で同じような教育がなされてた。
民からの人気は絶大。
陛下よりも人気といっていい。
ただし、一部貴族には煙たがっているのが現状。
万が一、この状態を見られでもすれば謝罪を受けたレーヌ家でない、王妃様が悪しき様に話が独り歩きする。
学生のころからずっとそうなのだ・・・
「王妃様、王太子殿下のことは本人の責任という話をしましたでしょ。
貴女が謝罪をするのならば、陛下にもしていただかなければいけなくなりますよ。
・・・まあ、私としては陛下のほうこそ謝ってもらいたいのですがね。」
「誰が誰に謝るだって。」
音もなく扉が開き入ってきたのは、華美な飾りの多くついた衣装をきた国の王。
俺が忠誠を、レーヌ侯爵家が誓う忠誠と同じくらい、否、もっと親愛を込めて傍に侍ると誓った主君。
玲瓏な眼差しと精悍な顔立ちに甘い要素が付随された面差しは、問題の王太子殿下とよく似ている。本当に、よく似た親子だと思う。
「陛下。」
目に映すとすぐに立ち上がり礼をとろうとしたのだが、足を進めながらそれを手で制して、扉を外で守る騎士に目配せ、開いた時と同じように音もなくしまった。
「でっ、彼奴はどこへ行った?」
先程、王太子殿下が座ることがなかった王妃の隣へ滑るような自然な動きで腰を下ろした。
隣に重みが加わったことで沈み込み傾きそうな体を、自然な動きで居住まいを直して拳1つ分移動して落ち着いた王妃が口を開いた。
「申し訳ございません。シルヴィア嬢を連れて何処かへ行ってしまいました。」
先程と同じく座ったままだが、頭を下げた。
「なに?
ではシルヴィアへの謝罪はどうなったのだ?」
凛々しい眉が寄って目元が厳しくなる王。
若い文官はこのかを見ると恐れて逃げようとするが、俺から言わせるとよく見る表情のひとつで恐ろしくもない。
綺麗な顔で険しい顔をすると恐ろしとはよく言ったもだがな。
「謝罪というか、それらしいことは口にしたのですが・・・」
下げていた頭を上げ、自然な流れで居住まいを正して申し訳なさそうな声で歯切れ悪くいう。その際にさらに陛下から距離を取っている。
「あれが謝罪と言えるのかどうかですがね。」
思わず出たことばだが、俺の本心だ。
此処が公式な場所ならばこんなことは言わない、殿下の謝罪があることを考慮して室内には他者は入れていない。
メイドも護衛も外にいる。
さらには遮音魔法を施して声が外に漏れないように徹底している。
「・・・どういうことだ?」
俺の方を向きうながす声には驚きがあるだけで、王妃の行動に気が付いた節はない。
まあ、あればいまだにこうはなっていないな。
俺は殿下の行動を掻い摘んでい伝えながらさりげなくそれがいかに不満であるか、それに対して許してしまう我が天使かいかに素晴らしいかをじっくりと伝えた。
「・・・それは、すまない・・・」
「全くですよ。
いくら衆目の前であったからといっても、こちらの許可もなくプロポーズさせるなど陛下といえども俺として許しがたい。」
「・・・そうはいってもだな、突然のことで慌ててしまって・・・」
「俺は執務室にいたのだから、呼んでくれさえすればすぐに飛んでいく。
それでなくともシルヴィアのことならば、会議中でも外交交渉中でもかまわないくらいだ。なににおいてもリーリエをはじめとして家族のことならば俺は飛んでいく、そういう人間だ。知っているだろ?それで、これだからな・・・。
はあ、しまいには『王命』だあ?
陛下は、レーヌ侯爵家をどうしたいんでしょうね。」
話すうちに、いままで被ったコイツ被害に怒りがわいて素が押さえられない。まぁ、構うものか!たまに執務室でも怒鳴り合っている仲、今さらだな。
学園で起こった事件あの後、フォルトゥーナへ留学となったが、何故かお目付け役として俺まで同行させられた。
1年だけの約束だったから我慢をしたが、あの時リーリエと離れ離れになったことは恨みに思っている。
さらにその後の外遊にも付き合えと言われたときは、本気で叛意を起こしたほどだ。
その話は、俺の顔を見て察した宮廷侍従の判断によって撤回されたが、この鈍感すぎる陛下には幼いころから迷惑ばかりを掛けられている。
俺としては、宰相の地位などいらない。領地に引っ込んで家族仲良くのんびり暮らしたいと言うのに・・・
リーリエが王妃様が一人でかわいそうだからというから今の役職にいるんだ。
俺に似て優秀なアレックスが王太子の側近になってしまったのは我慢しよう。
だがしかし、避け続けていた王太子の婚約者だけは納得がいかない!
本人の意思があるならば、尊重しようもある。
しかし久しぶりの社交で、しかも王城での失敗を引きずって王族と距離を取りたがったシルヴィアにその選択はなくなったと確信していた。
我がレーヌ家は昔から愛情を最優先とした婚姻を結ぶ。
愛した人と築く家族だから、大切にできると先祖の言。
だから、シルヴィアが好きになった男がいるのなら身分はどうであれ、人間性に問題がなければ結ばれることが可能だ。
愛しい娘には、俺の様な愛情深い男と結ばれてほしい。
・・・・・・・・・できるだけ先で
「・・・本当にすまない。」
俺の本気の怒りをやっと理解したのか、力なく素直に謝罪の言葉を口にする。
今度はさっきよりは、心から悪いと思っているようだ。
「まあ、今更言ってもしかたのないことだ。それよりも、先のことを話し合わなければならない。」
「そうだな、それで本当にシルヴィア嬢が“妖精の愛し子”と確定されたのか?」
陛下を真っ直ぐ見つめ、ゆっくり頷く。
先の話、つまりはシルヴィアのこれからについて、ひいてはこの国の未来にもつながる。
陛下の確定という言葉は、生まれたときのシルヴィアの瞳を知っているものはおばあ様と同一とわかる。即ち、それは“妖精の愛し子”ということ。だが、あまりにも幼いことや本人に妖精が見えている兆しがないことから、確定するまでは注視することで押さえていた。
こちらが、おさえておかなければ、この陛下は、勝手に婚約を結ぼうとした。
生まれて間もないシルヴィアは、天使になることは将来約束されてるが、フェリクス殿下についてはわからない。
王妃様に似たのならば、安心だが、この陛下に似たらと思うと・・・
本当は、いまでも反対したい気持ちは強いが仕方がないと思っている。
その代わりに、絶対にシルヴィアを守ると誓う。
王家の護りとは違う形で守って見せる!!!
そう誓う。
俺はそう心に誓って頷くと、この陛下はまたもや勝手な思考で動こうとした。
良かれと思ってのことかもしれない、即断即決できるくらい頭の回転もいい、だが陛下は、言葉を惜しみ行動が先んじて人から誤解をうんでいる。今まで何度、その尻拭いをしたことか!
「そうか、ならば早い時期に婚約締結儀を行う。
神殿にも確認をして日時を出してもらおう。」
婚約締結儀
読んで字のごとく、婚約を結び確定する儀式。
確約より強固な、締結。
しっかり結ばれる婚約の儀式は、神の前で誓い縛られる。
他者による破棄はできない。
この婚約ならば、シルヴィアを奪おうとするものから婚約期間も守れる。
しかし・・・
目の前の一組の夫婦を見る。
二人の間にあるのは、物理的な距離以上の溝を感じる。とくに片方から犇々と
儀式をして結ばれた例が目の前にある。
確かに無事に婚姻に至った。
しかし、これがハッピーエンドというには、偏りすぎている。
言葉を惜しむ原因にもなったと言っても過言ではない儀式をしてもいいものかどうか・・・
確かに儀式さえすれば、婚姻としたのと同じように王族と同じように扱われる。
それは対外的な扱いだでなく、護符的にもだ。
王族特有の護符。
それで守ってもらえたならば、シルヴィアが自分の意思以外で連れ去られることはないだろう・・・
毒や精神魔法の攻撃もある程度は、はじくだろうし・・・
だがしかし・・・
先程のフェリクス殿下の言動を思いだすに、どうしても目の前の男に似すぎていて心配がよぎる。
さて、どうしたものか・・・
「その必要はないですわ。」
思案している俺の耳に静かな声が入る。
視線を陛下からずらせば、変わらぬ微笑を浮かべている。
「王妃?」
「王妃様?」
陛下と同じタイミングで王妃様に問い返せば、王妃は微笑を深くした。
おっとりと笑みを深めているが、その目の奥にあるのは、おっとりではない。はっきりと怒りが見て取れる。
フェリクス殿下の所業への怒りとは違い、更に嫌悪まで見て取れる。
ああこれは・・・ダメなヤツだ・・・
「いかに守りが必要なこととはいえどもあの儀式は反対です。
あの儀式があれば絶対的な、神の前への誓いで婚姻への契約をするようなものですが、わたくしは、二人には自らの意思で婚姻をしてほしいです。
時期が来れば自動的にではなく、二人が信頼し手を取り合う仲で夫婦になってほしいと思っています。
そのためにも、この儀式はやめておいたほうがいいでしょう。守りが必要ならば影をつけるなり方法はありますわ。
それに・・・、大人になるまで二人に思う誰かが現れるかもしれないですしね。この儀式のせいで二人につらい思いをさせたくはないですわ。」
隣に座る陛下は、驚きで声が出せずにいる。
王妃に純粋な意見など、ここ最近聞いたことがなかっただろうこの男は王妃の本音を初めて垣間見ただろう。
たぶん、その片鱗にすぎないだろうが。
「だが」
「そんなことよりも、リーリエ様!シルヴィアちゃんの教育のプログラムのことで相談がしたいと思っていますの。わたくしの部屋に資料を用意していますのよ、お茶を戴きながら一緒に見てくださいな。」
陛下の弱弱しい声を遮るように、わざとらしいまでの明るい声でリーリエを呼びまるで10代の娘の様にお願いとかわいらしい顔をしている。
言葉を遮られた陛下は口を開閉しながら瞬きを繰り返している。
情けない。
本当にこれで国王なんて仕事を熟しているのだから不思議でならない。
その間にも女性陣は、ニコニコと話をまとめて部屋を出て行こうと立ち上がっている。
俺は、視線でリーリエに許可を出しているから、問題ない。
王妃に至っては、それでは、と陛下に笑顔で一言言っただけで返事を聞く気がない様子でスタスタとリーリエを伴って部屋から出て行った。
陛下は、あっとかおっとか単語が保続声に出すだけで言葉としてはなっておらず、閉まる扉に伸ばそうとして挙げた手は、伸びる前にパタンっと閉まってしまった。
ここが、いま二人だけの空間でよかったと本気で俺は思ったよ。
こんな情けない顔をした男がこの国の国王だなんて誰にも見られなくてよかった。
普段はキリリッとした凛々しい美丈夫と名高い陛下の顔は、ずぶぬれで捨てられた猫のような情けない様相をしていた。
読んでくださりありがとうございます
まだ続きますので註釈は、もう少し後になります。
誤字脱字報告ありがとうございます
ブクマ、☆評価ありがとうございます
特に優しい感想が本当に嬉しいです。
暫く大人の事情ってのが続きます。前の回収に勤しみますので宜しくv(・ε・v)