街へ
街に出ることになった。
お兄様と一緒なのが条件だが、観光もしたいし、この世界の様子を見たいのだ。
服は、持ちろんリアル町娘仕様。パフスリーブの生成りのレース襟付きブラウスに水色チェックのジャンスカ。外せないのは白いエプロン。髪はポニーテールにして赤いリボンをつける。
「おまえ 、めちゃくちゃ似合うな」
「うん。ありがとう。 一度着てみたかったんだぁ。お兄様も、素敵ですよ」
「おまえ、そーゆー褒め言葉をさらっと言えるようになったんだな。あまり無理しなくていいぞ」
「無理してないです。お兄様は、かっこいいです」
馬車は、古い馬車を街から借りて、御者は、ゲリーがしてる。
古い街並みの中に目立って大きな建物がいくつか続く。
「あれは、工場?」
「最近できた紡績工場だよ」
「見て、あそこ! 小さな子が、この寒い中、薄着のまま倒れてるわ。
なぜ放っているの? あの子にご飯をあげて暖かいものを着せるわけにはいかないの?」
「メイ、これは珍しい光景じゃない。一人を助けても問題は解決しない。キリがないんだよ」
「うん。 でも、お兄ちゃんなら、私が路上に倒れていたら助けるでしょ? 私がいなくなったら、探しに行くでしょ?あの子だけでも!」
「メイ、無理だよ」
「病気か、栄養失調が治るまでダメ?」
「メイ!」
「馬車を止めて!」
「様子を見るだけよ」
私は、ひざ掛けに使っていた毛布を掴んだまま馬車を降りる。その子に近づくと
強い異臭がして思わず鼻を塞いだ。
その子を見るとゼイゼイと呼吸音がして 唇も青くなってる。 年は6歳ぐらい、男の子のように見える。
喘息か気管支炎か感染症か
毛布でくるんだ上に私のマントで子供を覆いこの子の全身をすっぽり包む。
マントの上から背中をさする。
「メイ、この子は酷い咳をしている。病気がうつったらどうするんだ?」
「そうね。今はマフラーで鼻と口を覆うわ。お兄様もスーザンもゲリーもそうして。
そして手で鼻や目をこすったりしないようにね。そうすれば、飛沫感染だけでも防げるわ。
血を吐いている様子はないから、結核とかじゃないとおもうけど」
「マスク?」
「ええ、気休め程度だけど、ないよりいいわ」
「ゲリー、この子をくるんだまま馬車に運んでくれる?」
「おい! お前ら、ジェイをどこに連れてくんだよ」
「あら 、貴方達この子のお友達?」
「よかったわ。
ジェイくんっていうのね。この子のお父さんかお母さんは?」
「そんなのいねえよ」
「家は?」
「そんなものないよ」
「では、あなたはどこで暮らしてるの?」
「そこの工場の寮さ。
ジェイも先週までいたんだけど、咳がひどくて働けねえから追い出されたんだ」
「こんな小さな子も働いているの?」
「ジェイは、10歳だよ」
10歳、標準の半分ぐらいの身長しかないわ。 ひどく痩せているし。
「ジェイくんはこのままでは、死んでしまうわ。
清潔にして、温めてあげたいの。
いいかしら?」
「ジェイに変なことしないならいいよ」
「ありがとう」
「 ゲリー、ジェイくんを馬車に運んでね」
「はい。承知しました」
「お姉ちゃん、ジェイにこれ食べさせてあげて?」
「あら
貴方達はジェイにパンを持ってきてくれたの?
でも貴方達もお腹すいているでしょう?
それに寒いわよね」
私はマフラーをその子にかけた。
「わあ、あったかい!」
「優しいあなたに、マフラーをあげるわ。
パンは、お姉ちゃんが用意するから大丈夫よ」
「お前、綺麗な服着て、従者連れて、金持ちの工場の娘とかか?」
「いいえ、通りがかりの町の者よ。
父の所で働いている人が、案内してくれているだけよ」
「ふーん」
「ジェイは、俺の弟ってことになってるんだ。
母ちゃんがここで働いてるから、俺と妹も一緒に来た。 ジェイの父ちゃんは、春の大水害で川に流されていなくなった。 ジェイの母ちゃんは、うちの母ちゃんと一緒に田舎から出てきて働いてたんだけど、肺を悪くして死んじゃったんだ」
「そう」
「ジェイくんは、ずっと咳が続いているの?」
「田舎にいるときは、そうでもなかったけど、こっち来て工場で働きだしてから咳が止まらなくなってさ」
「血を吐いたりすることは?」
「咳しすぎて喉が切れて血が飛ぶときはあるけど」
「血をたくさん吐くことは?」
「それは見たことない。夜になると咳が酷くなるから、寮の奴らがうるさいって言って部屋から追い出すんだよ。
ジェイはいっつも寒い廊下に座って丸くなって寝てた」
「そう」
「 もっと詳しく聞きたいけれど、ジェイくんは、今、起き上がれないようなの。とにかく急いでお医者さんに見せたいのよ」
「俺たち医者にかかる金ないぞ」
「大丈夫よ。私のお父さんのお友達のお医者さんを呼んだから。治療費はいらないわ。
あとで結果を知らせるわ」
「貴方達には、どこに行けば会えるの?」
「そこの大きい赤煉瓦の建物
2番って書いてある棟だよ」
「ありがとう。
仕事は何時に終わるの?」
「午後6時だよ」
「あなたの名前は?」
「ロイだよ」
「ロイ、 ありがとう」
「じゃあな。俺たち工場に戻んなきゃぶん殴られるから。
ジェイのこと、頼む。
あいつ、いいやつなんだ。
食べ物だって、足りないのに、いつもマリーに分けてあげてて。
先週、俺が、失敗した時、俺の代わりに申し出て、工場長に殴られて、腕だって、骨折れたままなんだよ。
なあ、助けてくれよ」
「ええ、できるだけのことをする」
ロイは、縋るような目で頷いて、去っていった。
「お兄様、今の話聞いた?」
「ああ」
「ジェイくんのお友達の名前とか住んでる場所とか覚えた?」
「ん? ああ覚えてるよ」
「よかった」
「私 どうしてもジェイくんを助けたいわ」
「そうだな」
「その工場長、ひどいわね。」
「ああ。僕の仕事ができたな。
工場を調べる」
ロイくんの話を聞いてお兄ちゃんは、すっかり同情的になってきたようね。
それにしても
ひどい話だ。
大水害
工場での過酷労働に虐待
アレルギー体質は遺伝するからジェイのお母さんも喘息だったのかもしれない。
辛かったでしょうに。
でも、喘息なら前世の時に身に覚えがある。
田舎から都会に出てきて大量の煤を吸っているのが原因かもしれない。
原因物質を少なくすることで改善する可能性はあるだろう。
「お兄様、早く家に連れて帰って充分な治療をしたいです」
「そうだな」
お兄ちゃんと私は、ジェイくんを連れて屋敷に戻ることになった。




