34話 モモの香り
前回までは……
シャーロットが日本に来る。
里川・青空と出会う。
そして京都・大阪の同時奪還作戦を決行。
里川は自らの眷属ホットスライムのポッカと融合し大阪のパレードボスを撃破。
大きな音を立てて特攻したため汐田澪に要監視の認定をされる。
一方、蓮チームは一つ目の奪還区域はシャーロットの蒼龍でパレードボスを撃破。
そして二人は空を飛び次の奪還区域へ突入。
しかしそこには……
「なぁフォン」
現実逃避だ。
「ハイ、ナンデショウカマスター」
「唐突だが、一番被害の多い自然災害って何だと思う?」
自然とは、いつも弱肉強食である。
「……ドウシマシタ急ニ?」
現実逃避だ。気にするな。
「アァ、ソラサズニ見テクダサイヨ。ソノ為ノ神眼デハ?」
「そうだな。『現実を見ろ』と言葉のない圧力をかけるために、神眼はあると思う」
推測だけど……。
神の眼なんて、いやなモノばかり見るじゃないか……くそっ、精神強化があるのにあれはキツイ……。
「うえぇぇぇ〜……」
シャーロットなんて、バッチリ見て嘔吐してるじゃないか……。
「神眼にも、注意勧告のような予告機能をつけるべきだと思うんだ」
「トリアエズ撮影シテオキマスネ」
映らないと思うんだ。
もう日が暮れたから。
「はぁ〜」
「ム? マスター、青空香澄ヨリ連絡ガキマシタ」
「……でる。繋いでくれ」
青空との連絡を繋ぐ。
『こっちは終わったで。そっちはどや? もう一つ終わらせたんか?』
パレード終了のアナウンスは、その地区にいる人だけに聞こえることになっている。
隣の地区にいる青空たちには討伐していても聞こえないのである。
「……まだだ。というか、俺もシャーロットも、突入を忌避した。今日はもうやめて、明日にする」
『……わかったわ。いちおう乾杯の準備して待ってるから、拠点は○○や。はよ戻ってきぃ』
「……あぁ、助かる」
(なんや、なんか変だったな)
蓮との通話を切った青空香澄は、蓮が少しどころか、かなり精神を削られていると感じた。
シャーロットも突入を忌避したと言っていたことから、次の地区は何かあるのだろうと考えたが、帰ってきた蓮から事情を聞けばいいと納得した。
「シャーロット、大丈夫か? 向こうは残党狩り、終わったようだ」
「……ぅぅ」
おー、蒼龍だけあって見事な青。
って、関心してる場合じゃないな。
そうだ。
フォンの答えを聞いていない。
「それでフォン。さっきの俺の質問だが、答えは?」
「自然災害デスカ……難シイデスネ。……ヤハリ地震デショウカ? デモ竜巻ヤ洪水モ……ウ〜ン」
悩むフォンが出した答えは……
「電気ガ使エナクナルコトデショウカ。コノ情報社会ノ時代。電気ガ使エナクナル災害ガ、一番被害ガ大キイト思イマス」
「……なら今がそうだな」
まさに今が被災中だな、人類……。
「マスターハ違ウノデスカ?」
「そうだな〜。予想できない、もしくは予想を遥かに超える、不自然なく必然的に自然に起こる出来事が、その人にとっての一番の災害だと思うんだ」
「……意味ガワカリマセン」
「つまり、回避できない嫌なことだ」
それも理由や目的があるわけでもない、本当にただ不運な出来事。
「……しにがみぃ」
シャーロットが死にそうな声で、ヨロヨロと歩きながら近づいてくる。
「もういいか?」
コクコク。
「じゃあ戻るぞ。転移」
この地区はどうやって攻略しようか。
○○○
「えっ!? シャーロットちゃん! 顔真っ青だけど大丈夫!?」
教えてもらった拠点に転移したあと、月野さんがまだ青い顔のシャーロットに駆け寄った。
「具合が悪いなら寝てようか? いちおう布団も敷いたし、お風呂にも入れるけど……」
「……お風呂がいい」
「わかった。行こう」
シャーロットは月野さんに肩を支えられて風呂場に向かっていった。
「そんで何があったん? あの子があんなになるっておかしいやろ。あんたも通話のとき変やったし」
いちおう気遣ってくれてるんだなぁ。
「ちょっと精神的にキツイものを見ただけだ。全員待ってたんだろう? 先に乾杯の音頭を取ろう」
これ以上待たせるのも悪いしな。
話ならこのあとすらばいい。
「では! 一つ目の奪還を記念して、かんぱーい!」
夕食は費用のことも考えて、安くてうまいお好み焼きやたこ焼きなどの炭水化物だ。
あとは個人で好きなものを謎の店で買っている。
俺も食べよう。
正直、あまり進む気はしないがお腹が空いて力が入らないほうが問題だ。
決めたんだ……俺がやると。
……少し気を張り詰めすぎたかな?
「それで、何があったん?」
青空香澄が俺に聞いてきた。
もぐもぐ……ゴクンッ。
「食事中でも大丈夫か?」
むぐ……もぐ、ゴクン。
「そんなヤバいことなん?」
「まぁな。どうせ後で話すが、食事中だからな」
「……話してええよ。あんま気にせんわ」
珍しいな。
青空って礼儀とか雰囲気とか大切にしていると思ったんだが……。
青空香澄は自覚していなかった。
少し変な様子の蓮、いつもと違う彼のことを気にかけているということに……。
「そうか……。俺とシャーロットはこの地区のパレードボス討伐後、空を飛んで次の地区に向かったんだが……」
回想に入る。
「よし、ここが次の地区だな。パレードボスを見つけたら言ってくれ」
「……うん」
適当に高い建物の屋上に着地し、どんな魔物がいるか見渡す。
「おかしいな……」
「……気持ち悪い魔物しかいない」
たしかに、ヌメヌメだな。
「どういうことだ?」
ここで神眼を発動し、その魔物を見続ける。
名前や情報を記憶し、魔石を探そうと透視も発動した。
――! これは!
「シャーロット見るな!」
「ぅ……○*1♪→¥$€」
回想終了。
「そこにいたのはナメクジとカタツムリの魔物のみでな」
「ナメクジとカタツムリのみ?」
俺とシャーロットが気分が悪くなったのは、別にナメクジとカタツムリだからじゃない。
不思議だったのだ。
「のみだ。見事なヌメヌメ地獄だったぞ」
最初はここまでくると、逆に爽快だなと思っていたんだ。
「アンデッドになった人や、他の魔物は?」
「生きてないがいたぞ」
俺とシャーロットの気分が悪くなった原因でもある。
不思議に思った俺たちは神眼で見てしまったのだ。
「いやもういい、予想ついたわ。なんか、ご苦労様や」
「まぁ、これは俺たちしか見えないからそこまで重要じゃないんだがな。明日の討伐。シャーロットには厳しいかもしれない」
今日はただ、予想外の出来事に俺とシャーロットの気分が悪くなっただけなのだ。
「それじゃあ、重要なことって何?」
「あぁそれな。ナメクジが冒険者殺し、カタツムリが魔法使い殺しなんだ」
「詳しく」
「ナメクジはヌルヌルで物理攻撃を無効化。カタツムリは背中の貝に変な模様が描かれていて、幻術効果があるらしい。やっかいなのは、そのカタツムリの周りにナメクジがいることだな」
冒険者の職業を持っていない人は要注意だ。
まぁ冒険者の職業を持ってる人でも【直感】は個人差があるからしばらくかかる人もいるだろうけど、全くないヤツよりは安心だ。
「なら、明日は私も無理やね」
「見なければいいんだ。あっ、ほら、地面を見ながら戦闘するとか」
「達人か……」
忍者で有名なあの作品に登場する熱血先生はそれをやってたぞ。
「それで、明日の編成どうするん?」
「そうだな。冒険者が中心になるだろうけど、カタツムリとパレードボスを俺が引き受けて、ナメクジは任せる感じになるかな?」
「……まぁ妥当やな」
「だろ? ……ん?」
たこ焼きを食べながら話をしていたが、俺はあることに気づいてしまった。
「どないしたん? まさか魔物が残ってたんか?」
……やべ。こんな反応されると思わなかった。
「いや、このたこ焼き、タコが入ってない」
「…………ごちそうさまや〜、おやすみ〜」
冷たい……口と空気はあったかいのに、冷たい……。
○○○
夜八時、里川や竹中さんとの定時連絡の時間。
『いやー! 先生の班がええ仕事してくれるから、こっちは楽やなぁ。気がついたら頼んでた物がそこにあるって、すごいなぁ』
「そうか」
里川は汐田班がいかに優秀かを語っていた。
今回は大阪の方が激戦区になりそうだったのでこっちの補給部隊を少し向こうに回したのだが、こっちにも補給部隊が欲しい。
心の補給部隊が……主にネコミミな美少女とか。
「……先生の動物耳とか、絶対に可愛いと思うんだけどなぁ」
『しにがみはん。心の声漏れてんで……どないしたん?』
『青空はんから連絡もろたけど、大変やったみたいやなぁ』
竹中さんも話に混ざる。
というか青空から連絡?
あいつそんなことしてたのか。
『何があったん?』
「謎を調べていたら禁止目録に触れただけだ」
『なんやそれ』
『まぁ、嬢ちゃんもしにがみはんも気いつけてな』
そこで竹中さんは通信を切った。
里川はまだ話したいことがあるようだ。
『なぁしにがみはん。シャーロットはんは、なんでそうまでして日本に来たかったんや?』
「そういえば、詳しいことは話してなかったな。聞く?」
『うむ』
「里川たちと会った後……」
○○○
「ホープ、あの子、シャーロットはどんな感じだ?」
転移で屋上に戻った俺は、ホープにシャーロットの様子を聞いた。
「う〜ん。明梨ちゃんが面倒みてるから大丈夫だよ〜」
そうか。
それは安心だな。
面倒見いいからなぁ月野さん。
中に入り月野さんとシャーロットの所に行く。
海外から来た来客ということもあり、シャーロットは人気だった。
おどおどしてて何も話していないが……。
そして向こうも俺を見つけたのか目が合う。
しかし……
ささっ……
月野さんの後ろに隠れてしまった。
「あっ、しにがみさん。どこに行ってたんですか?」
「ちょっとした視察だ。そろそろ昼食だからその時に話そう」
そして昼食の時間になり、ダンジョンに潜って稼いでいた人たちも戻ってきた。
今日の昼食は……オムライスと付け合わせにワカメの味噌汁か。
もちろん作っているのは料理班の人たちである。
とりあえず、俺はシャーロットに話さなければいけないことがあるので、彼女と同じテーブルに座る。
他に座っているのは月野さんと島田彩香、探見鈴さんと朝倉玲奈さんだった。
「それでシャーロット」
ビクッ!
「……さんは、どうして日本に? 写真を見たからなんとなくはわかるけど」
シャーロットは、オムライスをおいしそうに食べていたが、俺が話しかけたことにより体を震わせて食べ始めた。
「しにがみさん……」
「いきなり話しかけるのはダメだよ」
「大丈夫ですよ。この人は怖くありません」
……え? 俺が悪いの?
「シャーロットちゃんは、なんで日本に来たの?」
俺の代わりに月野さんが聞く。
「…………ボソボソ」
「「「「……?」」」」
声が小さすぎて、聴覚強化を持っていない俺以外には聞こえてないな。
「昔、小さい頃にカナダに日本のテレビ局が来たらしい。その内の仲良くなった一人から、日本の観光名所の写真を貰ったそうだ。気になったからここに来たらしいぞ」
話がわからないと進まないので通訳する。
「そうなんだぁ〜!」
「テレビ映ったの?」
月野さんと島田彩香が盛り上げる。
それに対して……
「へぇ〜」
「結構ありきたりな理由ですね」
探見さんと玲奈さん、ちょっとドライ過ぎないか?
いや……まぁこんなものか。
「それでシャーロッ……」
ぶるぶるぶるぶる……
そんなに怯えないでくれ。
いったい何がそんなに怖いんだ……。
「シャーロットちゃん、大丈夫?」
「…………ボソボソ」
月野さんに耳打ちで会話するシャーロット。
なるほど……仮面が怖いと……。
「月野さん。シャーロットさんに……」
さんづけしなくていいかな……違和感がすごい。
「シャーロットに京都に行くと伝えてくれ」
「わかりました。……え?」
もう本人の耳に入っているが、俺からの言伝よりも月野さんからの言伝のほうが良いだろう。
それよりも月野さんが混乱したな。
「詳しいことはこのあと言う。とりあえず、兵庫県にいるユニークスキル持ち、里川未来のグループと京都の合同奪還がついさっき決まった。明日からさっそく決行する。メンバーも考える、以上」
○○○
「こんな感じだな。ちなみに、京都に行きたい人は希望を取ったんだが凄かったぞ」
『ほぅ、やっぱり京都は人気なんやなぁ』
人数が殺到したが、それよりも……
「人がいない魔物だらけの修学旅行と言った瞬間、上がっていた手がいっきに下がった」
『凄いてそっちかい!』
凄いだろ? 集団行動。
「タイミングから速さまでぴったりだった。団結力の再確認はできたよ」
『ポジティブやなぁ〜』
結構喋ったな、明日の準備もあるし、そろそろ切ろう。
「そろそろ切ってもいいか? 明日の準備もある。そっちもあるだろ?」
『せやな。そろそろ寝るわ』
もう終わってるのかよ。
「まぁ気をつけろよ。おやすみ〜」
『しにがみはんもな〜』
里川との通信を切り、仮面状態のモモをカーバンクルに戻す。
「きゅっ!」
「あ〜癒しだぁ〜」
今日はモモを抱いて寝よう。
これで悪夢は見ないだろう。
…………………………。
シャーロットに貸してやるか……あいつの方が重症っぽいしな。
あいつ起きてるかな?
たしか月野さんや青空と同じ部屋だったよな?
忍び込むことになるが、今日だけ許してもらおう。
俺も変わったな。
前なら絶対気になんてかけなかっただろうな。
まぁシャーロットだからかもしれないが……。
部屋のドアを静かに開けて中に入る。
早く出よう。犯罪者になった気分だ。
……全員寝てるな。
「ぅぅ……」
シャーロットはうなされてるし……。
「モモ」
「きゅっ」
モモは敬礼をしながら返事をした。
枕元にモモを置いてやる。
モモは布団の中に潜り込んだ。
「仕方ないから貸してやる。早く復活しろよ」
せっかく、来たかった京都にこれたんだ。
そんな時くらい、悪夢なんて見なくてもいいだろう。
「おやすみ……」
「すぅー……ふぅー……」
たくさんの想いを伝えたい気弱な少女は、静かな寝息を立て始めた。
読んでくださりありがとうございます。
新作を始めました。
『異世界観測記〜雲の上の天空都市』
というタイトルです。
スローライフのほのぼの日常系です。たぶん……。
興味を持った方は読んでみてください。




