33話 待機中の様子ともう一つの開戦
今回は待機中の様子と里川の戦闘シーンです。
13時の半ば頃、空には雲が浮かび、日の光が暑い。
そして地には……
「や〜。これはぎょうさんおるなぁ」
大阪の様子が見えるところまで来た里川は、魔物とアンデッドの数に驚きながらも余裕そうな声をあげていた。
「それにしても……」
言葉を最後まで言わずに振り返った里川未来は……
「なんで女ばっかりやねん! 男はどこにいったんや! 乙女かっちゅうねん!」
「いや、いちおういるんだけども……」
「まあまあ里川さん落ち着いて……」
大阪に編成されたメンバーは、割合的に女子が多い。
たまたまなのは里川もわかっているのだが、性格的に、なんとなく言わずにはいられなかったようだ。
「う〜ん。どっから攻めよう……行進ボスはここからやと見えへんな」
「里川さんは、直接行進ボスを叩きにいくんだよね?」
「せや。それで終わったら残党狩りやな。あと未来でええよ、彩香ちゃん」
島田彩香と話しながらも、里川の視線はどこから攻めればいいかと、戦区のようすを見ていた。
「……よし決まりや。あそこから突入して攻めよう。中村はん、突入後は任せてもええ?」
「もちろんだよ」
突入後に、主に魔物を倒すのは、中村樹也が率いる格闘・魔法とバランスのいいスキル構成をしている第一部隊。
主にアンデッドを倒すのは、島田彩香が率いる格闘メインのスキル構成をしている第二部隊。
そして、状況に応じて対処するのが、汐田澪の率いる第三部隊となった。
「それじゃあ十五分後に突入や。各自、作戦や持ち物の確認しておいてや」
その掛け声で、討伐隊のメンバーたちは準備を始めた。
○○○
「玲奈さん。その大剣新しくしたんですね」
そのグループの一つ――島田彩香と朝倉玲奈が武器の話をしていた。
「うん。ほら、色々なモノを【眷属化】するのが少しだけ流行したじゃん。その時に、この大剣もやってみてね」
それは、モグラのパレードボスを討伐したあと、蓮たちの拠点で実験も含めてやっていたことである。
まぁ、蓮たちの所だけでなく、他の所でも【眷属化】の検証は行われていたのだが……。
「私の【武器庫】の中には、うちの鍛治師たちに作らせた大剣でいっぱいだよ。この大剣は特にお気に入りでね。あのモグラの素材を使って、あの人が直接強化してくれたんだよ」
朝倉玲奈の言うあの人とは、しにがみになった蓮のことである。
朝倉玲奈も、探見鈴ほどではないが、助けられた恩もあり、かなりの信頼を寄せている。
「へぇ〜いいなぁ……」
私も強力な武器が欲しい――と、島田彩香はそんな感じで思ったが……
ぶんぶんぶんぶんぶん、とすぐに首を振る。
「……彩香ちゃん。大丈夫?」
突然首を横に振り出した彩香に、朝倉玲奈が驚き調子をきいた。
「大丈夫です。なんでもありません」
そう答えた彩香だが、自分の考えていたことに、若干の心配を覚えた。
(なんで強力な武器=光属性の武器になるのよ。それじゃあまるで……うわー!)
まるで、進んでアンデッドを倒したい人みたいである。
武器が欲しいといった思考になること自体、本来なら危ないのだが、その常識はもうとっくに捨てている。
この世界では、そんなことは言っていられないのだ。
「まぁ今回は、武器勝ちっていったところだね。大剣とモグラの素材が、相性が良さそうだからって選ばれた。実際にボロボロ砕けるしね」
「へぇ〜ボロボロ……ん? ボロボロ?」
「そう。ボロボロ」
大剣は、刀と違い『断つ』というより『叩き割る』といった感じである。
巨大土モグラの牙で強化されたその大剣は、魔力を込めながら攻撃すると、触れた所からボロボロと崩れていき、その後重さによって粉砕されるという仕組みで、結果的に、ガード不可能の大剣になったのである。
「今度彩香ちゃんも作ってもらうといいよ。頼めばやってくれるだろうから」
「そうですね。この作戦が終わったらきいてみます」
蓮がどんな武器を作ろうとするのか、非常に楽しみな所である。
○○○
「……確認をする。私たち第三部隊は、第一・第二部隊の突入後、少し時間を開けて突入する。怪我をしている人がいたら、【回復魔法】かアイテムを使うこと。魔法を使ったあとは魔力量を、アイテムを使ったあとは在庫をこまめにチェックすること」
リーダーである汐田澪の言葉に、黙って首を縦に振り、頷く第三部隊の隊員たち。
すごく静かな部隊である。
いや、真面目な人たちが集まった部隊なのだろう。
「魔石の回収も私たちの仕事だから、その時は敵がいないことを確認して作業をして」
滅多に喋らない汐田澪は、連絡ごとはしっかりと喋るようだ。
黙って頷く隊員たち。
「○○に『謎の鉱石店』があるから、そこで換金と砥石の購入をすること」
汐田澪が『謎の鉱石店』の場所を知っているのは、蓮から教えてもらったからである。
そして黙って頷く隊員たち。
「それから、あとで送迎車が通りやすいように、大きな瓦礫は隅にどかしておくこと」
仕事の多い部隊であるが、隊員たちは黙って頷く。
「あとは各自の判断に任せる。持ち物と武器の確認はしっかりやっておいて。メンバー内での連絡もこまめにすること……それじゃあ、解散」
解散の言葉を聞いて、頷いたあとそれぞれの確認に入る第三部隊の隊員たち。
終始静かな会議であった。
第三部隊――そこに選ばれた人たちの共通点は、性格がいつも一歩引いた所から状況を見ている者である。
別に人と接するのが嫌いというわけではないが、一人で黙々と作業をするのが好きな、仕事人気質な人たち。
そこには、名倉武の部下で、半田良弥の同僚である女性もいる。
*『16話 理解者』で一言だけでてきました。
この部隊は、『裏で基盤を整える重要な部隊である』
決して戦闘がいつもより疲れて面倒だとか、戦闘中に口を頻繁に動かすのが嫌だとか、そういった理由ではない。
周りをよく見て空気を読む、気を使える人たちが集まった部隊である。
「私も頼まれたことをやらないと……」
汐田澪はそう言って、里川未来が視界に入る所まで向かった。
○○○
「里川さん」
中村樹也は、確認が終わったあと、残りの時間を里川と話すことにした。
「おぉ、中村はん。もう終わったんか?……サク、もぐもぐ。チョコバー食べる?」
里川未来も準備が終わり、残りの時間はお気に入りのチョコバーを食べながら過ごすことにしていた。
「それじゃあ、一つもらおうかな」
「ふむ。はいどうぞ〜」
「ありがとう」
【異空間倉庫】から布に包まれたチョコバーを取り出し中村樹也に渡す。
包みを開けながらその場に座る中村樹也。
「これも眷属化されているのかい?」
「せやで。『も』ってことは、中村はんも何か食べもん眷属化してはんの?」
「いや、僕はやってないけどうちのリーダーがね」
「しにがみはんが? なんの?」
「キャラメルだったよ。普通においしかったね。これもおいしいけど」
「キャラメルかぁ……今度交換してみよう。それで本題は?」
実は作戦の確認かと思った里川だったが、意外なことに、食べ物の話となったので少しだけびっくりしたのだ。
「本題? あぁ、いや、特にないよ」
「えっ? じゃあただの世間話にきたんか?」
「まぁそうだね」
迷いなくそう答えた中村樹也。
ナンパをするような人でも、こんな状況でそんなことをするような人とも思えないので、里川は意図がわからなかった。
しかし、それはすぐに明らかとなった。
「なんというか、これは僕らのやらなければいけないことだと思っているんだよね。しにがみや君みたいな、まだ若い子たちが頑張っている。でも子供……話をちゃんと聞いてあげることが、僕たちのできることなのかなって……」
(中村はん……この人、めっちゃいい人やん。もう少し若かったらトキメイてたなぁ)
今のところ悩みなどは竹中文雄に聞いてもらい、対処しているが、全く関係のない世間話をしてもいいのかもしれないと、里川は改めて思った。
「中村はんありがとう。何かあったら頼らしてもらうわ」
「そうか。それじゃあ、今回のリーダーさん。頼んだよ」
「任せとき!」
やらなければならないことがある。
それを支えてくれる人たちがいる。
里川は、それを改めて認識した瞬間だった。
○○○
――十五分後――
携帯電話を取り出した里川は、今回の作戦の総指揮官である竹中文雄に連絡する。
「竹中はん、未来や。今から突入するで」
『了解や。気いつけてな』
里川は、隊列を組んでいる者たちを見渡し、全員の顔色をみたあと一呼吸する。
慣れない土地での、慣れない人との戦闘。
緊張感の漂う空気でも、気持ちが萎縮していないことに少しの安心と頼もしさを感じていた。
「各隊、突入や!」
里川の掛け声で、中村樹也の魔物討伐隊と島田彩香のアンデッド討伐隊がグループに分かれ、戦区に一斉に突入する。
その後方からは、一定の距離を置いて汐田澪の部隊が三人の集団を作りながら後を追う。
「さてと、ウチもやるか」
そして、里川未来も動き出す。
名前:里川未来 年齢:16 レベル:84
第一職業:融合者LV8(固定)
第二職業:空賊LV6
第三職業:賢者LV5
第四職業:生物学者
第五職業:武器使いLV5
スキル:【使役者スキル】【融合者スキル】【冒険者スキル】【空賊スキル】【魔法使いスキル】【賢者スキル】【働き者スキル】【生物学者スキル】【武器使いスキル】【肉体強化LV8】【精神強化LV8】【魔力増量LV10】【魔力回復速度LV10】【魔力回復増量LV10】【並列思考LV7】【高速思考LV7】【水魔法LV5】【風魔法LV5】【土魔法LV5】【回復魔法LV3】【光魔法LV5】【闇魔法LV5】【異空間倉庫LV5】
ユニークスキル:【超天才】【神眼】【転移】
里川未来の戦闘スタイルは青空香澄とは全く違う。
それは、ユニークスキルのあるなしではない。
もし青空香澄が【超天才】を持っていたとしても、道具・演技を巧みに使いこなす戦闘スタイルは変わらないだろう。
では、何が違うのか……。
それは――身体能力である。
「ほないこか、ポッカ……眷属融合」
ホットスライムのポッカと融合した里川未来。
膝を曲げ腰を下ろしタメを作り……
「ふっ!」
勢いよくジャンプし空中に……。
空賊のスキルには、【超跳躍】や【空中蹴り】など、空で戦うためのスキルがある。
そのまま空を蹴って空を進む。
「さて、どこにおるかな?」
空から行進ボスを探す。
幼少期より、体を動かすことが好きだった里川の運動神経はかなり良かった。
*
「香澄ちゃん! みてみてー! 昨日テレビでやってたやつー!」
「……ぁっ!!! 危ないからやめーや!」
*
小学生低学年のときに、休み時間、校庭の鉄棒で、大車輪を香澄の前でやるほどである。
まぁその後、香澄や先生にこっぴどく叱られたのだが……。
生身では行えない無茶苦茶な戦法。
だから――無茶でおバカな里川未来にとって、スライムの特性とはかなり相性が良いのである。
「……お? ……みっけ!」
ピュンッ!
とパレードボスを見つけた里川は、弾丸のようなスピードでパレードボスに突っ込んだ。
ドーン!
「ギュアァァァァ……!」
地面に激突する音が響き、ダチョウのようなパレードボスは、胴体に溶けたような穴があき悲鳴をあげる。
「やっぱ、スライムの体は便利やなぁ〜」
土煙が晴れると、無傷の里川が現れる。
「いつもは素材も残せぇ言われるけど、今回は諦めてもらおう」
融合者――眷属のスキルやステータスだけじゃなく、特性も受け継ぐ。ただし、眷属の意識はなく、主人に全て支配される。
「クワアァァァ!」
「ふっ!」
足の先についている爪で串刺しにしようと、攻撃してきたダチョウのボス。
里川はその攻撃を躱しダチョウの横――宙に逃げた。
「ガアァァァ!」
ダチョウは里川の動きに気づいていたのか、首を横に向けて口から炎を吐いた。
だが……
「あぁ、ウチに炎、効かへんわぁ」
ホットスライムであるポッカが、普通のスライムならば燃えてなくなっていただろうが、すでにキングとなったポッカには、この程度の熱はぬるいのである。
「そんでしまいや。ウチらの炎は、燃やすだけやない」
空を蹴り、そのまま炎の中を進む里川。
そして口にたどり着き――
「溶けるで」
「ガァッ! ギャアッ! グァガァギャァァア……」
燃やし溶かす炎――それはマグマのようにゆっくりとダチョウの喉を焼き溶かす。
しかし、マグマと違い冷えて固まることはない。
口の中に入った溶炎は食道を溶かし肉を溶かし――内側からくる激痛に悶えるパレードボス。
そして……
《この地区の行進ボスが撃破されました。これより魔物行進を終了します。なお、制限時間外クリアのため、報酬はでません》
「楽勝や。ポッカ、いつもありがとうな」
眷属融合を解いた里川は、相棒のポッカに礼を言い、ポッカは嬉しそうにぴょんぴょん跳ねている。
「さてと、魔石回収と連絡、連絡」
ポッカにパレードボスのダチョウに穴を開けてもらい魔石を取り出す。
【異空間倉庫】にしまったあと携帯を取り出した。
「竹中はん、未来や。一つ目終わったわ」
『さすがやな』
「あとで、しにがみはんと連絡繋いでや」
『わかった』
通信を切り……
「さてと、あとは残党狩りやな。……おっ、あれはしにがみはんの……」
自分のところに、一人の女性が向かってきているのに気づいた。
○○○
時は少し遡り、突入直後……
(やっぱり空に行ったか……)
地上にいた汐田澪は、周りを警戒しながらも、里川未来を追っていた。
実は、汐田澪……蓮から里川をみるように頼まれていた。
理由は明白。
里川未来が大雑把すぎるからである。
その予想通りなのか……
(スピードを上げた。……ん?)
ドーン!
「ギュアァァァァ……!」
「なっ……」
何かがぶつかった音と、苦痛の悲鳴に足を止めてしまう。
(もしかして、そのまま突っ込んだ? ちゃんと計画してからやったのよね?)
里川がスライムと融合しているということを知らないためかなり動揺する汐田澪。
(とりあえず向かおう)
この後、パレード終了のアナウンスが聞こえ、無傷の里川と会うことができたのだが、汐田澪の中で厳重に見守る対象となった。
そして、そのことが功を奏したのか、のちに里川の命を助けることに繋がるのであった。
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