日頃の感謝をこめて(1)
すっかり外も暗くなり、今日はもう客はこなさそうだと判断したエリスは、エルメナと共に店内奥の作業場へと来ていた。
喫茶店の方はまだお客が来る事もあるので、ゾルは一人カウンターで仕事をしている。
「さて、それじゃあさっき言っていた魔道具制作ををお見せしましょう。まずは問題です、これは一体何に見えますか」
そう言ってエリスはここ最近せっせと作っていた魔道具を指差す。
「んっと……、木の宝箱?」
「そうですね、木の箱に見えますよね」
困った顔でこたえるエルメナに、エリスはうんうんと頷く。
もちろんただの木の箱ではないのだが、彼女の言う通り一見するとただの木でできた宝箱のようにしかみえない。
なぜ宝箱なのかといえば、きっと蓋の部分が山なりになっているところから連想したのだろう。
「この宝箱を開ける前にもう一つ問題です。魔道具の制作には材料としてよく木が用いられますが、それはなぜでしょう」
「えっと、魔力を込めた刻印を掘り込みやすく、手軽に加工ができるから、ですかね?」
自信なさげにこたえるエルメナを、エリスは大正解といって頭を撫でる。
「そう、硬い金属に比べて魔術を刻みこみやすく、また複雑な魔術を彫り込むのにも向いています。欠点としては耐久性にかける事ですね」
そう言ってエリスはぱかっと木箱を開けた。
「すごい……。なんですかこれ?」
その木箱の内側にはびっしりと模様が刻み込まれ、一種の芸術品のようになっている。
「ここに刻まれているのは、防水効果と耐熱効果、そして触れた物に対し、一定の方向に僅かに力を加える効果です」
触ってみますか?とエリスが尋ねるとエルメナはこくりと頷き、刻印が刻まれた箱の中身に指をおく。
「わっ……!」
するとつるりと指が滑り、箱の外側へと放り出された。
「これだけ手間暇かけて刻み込んでも、大した力はでないんですよね。せいぜいバナナの皮を踏んだのと同じくらいでしょうか」
踏んだらバナナの皮なみに滑る板とかそれはそれで嫌だなぁとエルメナは苦笑する。
「とはいえ今回の目的を達成するくらいなら、これくらいで十分です」
そろそろ何を作ってるのかわかりました? とエリスが問いかけるが、エルメナはふるふると首を振った。
「あの、一つ聞きたいんですけどこの箱なんでこんなに底に穴が空いてるんですか?」
エルメナはこの箱のもう一つの大きな特徴についてエリスに尋ねる。
「よくぞ聞いてくれました! 実はこの箱はまだ完成品の一部で、この下にもう一つくっつける物があるんです」
そう言ってエリスが指差した場所には、同じくらいの幅の高さが低い木箱が置いてあった。
その箱の蓋には宝箱と同じようにいくつも穴が空いていて、そこから金属のパイプが伸びている。
「こっちはまだ完成品じゃないので動きませんけどね。これをこうやって乗っけるんです」
エリスは大きい方の木箱を、底の穴にパイプが通るように乗せ、下の箱と留め具を使ってしっかり固定した。
そして上の箱をあけ、中に針金で網目状に作られた細かい柵のような物を入れる。
「これが完成系です。わかりました?」
そう言われても、相変わらず底が厚くなった宝箱にしか見えない。
「じゃあ最後のヒントをあげましょう。この下の箱には水をいれて使います。そして、この魔道具はゾルさんにあげるために使いました」
そこまで聞いて、エルメナはふと先ほどエリスが言っていたことを思い出す。
「あの、この上の箱には防水と防熱の刻印が刻んであるって言ってましたよね」
そうですね、とエリスは頷く。
「これ、何かを洗うための魔道具ですか……? 防熱ってことは多分熱湯……、柵の形的にお皿とか、ですかね」
与えられた情報を繋げながら、エルメナはゆっくりと呟く。
そして彼女の答えを聞いたエリスは、大正解ですと微笑んだ。




