新しい時代へ・過去から今、そして未来へ
あの私を守ろうとしてくれた時代から、ずいぶんと時が過ぎた。
無骨なコンクリート作りの駅は、つい最近、ガラス張りのこじゃれたビルへと建て替えられた。
私はロータリーの真ん中に「ぽつん」と立っていたのだが、「駅前に憩いを」と言う事で、私の周りのアスファルトは剥がされ、芝生広場へと変わっていった。
芝生広場の真ん中で、私は大きく枝を広げる。明治の苗木は、戦争の惨禍にも耐え、街で一番大きくて立派な巨木になっていた。私の大きな木陰で小さな子供を連れた家族が遊んでいる。それはまさに平和な光景だった。
そんなゆったりとした時間の流れる、ある秋の昼下がり。
私の足元に、何人かの人々が集まってきた。
最初にやってきたのは、凛とした佇まいの若い鉄道マンだった。彼が私の幹へ手を触れた瞬間、私はそのぬくもりに震えた。百年前、泥だらけになって私を植えてくれた、あの初代駅長のごつごつした手のひらと同じ温かさ。
「ひいおじいちゃんが植えた木が、こんなに立派になるなんてな。これからも駅を見守ってくれよ」
彼は駅長のひ孫だったのか。私の事を駅長は忘れずにいてくれていたのだな。彼はそう呟き、駅舎へと歩いていく。私は梢を大きく揺らして、最高の敬礼を送った。
次にやってきたのは、駅前の新しいビルの所有者である親子だった。子供が私の落とした落ち葉を拾って笑っている。
「昔、ひいじいちゃんがこのイチョウの近くで店をやってたんだ。その時、このイチョウの落ち葉で焼き芋を焼いて、みんなに配っていたんだぞ」
父親が、私の葉を拾った子供に優しく語り掛ける。親から子へと語り継がれる思い出話。大正のあの日、ハサミを握っていた店主の笑顔が、確かに父親には受け継がれていた。
『あの店主、ずいぶんと立派になったんだなぁ。駅前の一等地にビルが持てるまでに頑張ったんだ』
そして、車椅子に揺られ家族に付き添われて、静かに一人の老婆がやってきた。あの昭和の彼女だった。もう復員列車は走ってこない。けれど彼女は、シワの刻まれた手を私の幹にそっと当てて、涙を浮かべながら微笑んだ。
「お前さんだけは、あの人のことを、私たちの約束を、ずっと覚えていてくれたんだね。ありがとう。私はもうすぐ、あの人のところへ行くわ」
結局、あの兵隊さんとは二度と逢えなかったのか。でも、私が居ることで彼女はあの時の甘酸っぱい思い出を忘れずに居られたんだろうな。
彼女の手のひらから伝わってくる鼓動は、あの頃のように激しくはなく、とても穏やかで、満ち足りたものだった。私は優しい木陰を作って、彼女をすっぽりと包み込んだ。せめて、これから始まる彼女の旅路が、穏やかな光に満ちたものであるようにと祈りを込めて。
人々がそれぞれの思い出を胸に去っていったあと、駅前にはいつもの夕暮れが訪れる。
そして夜がやってきて、また日が昇る。
駅に走ってくる列車は、煙も音も立てないハイテクな車両へと変わった。街の姿も、さらに変わっていくだろう。けれど、私の中に刻まれた百年の記憶と、私を愛してくれた人たちのぬくもりは、決して消えることはない。
「お前さんはいつまでもここでお客さんを出迎えてやってはくれんか?」
駅長との別れの日に交わしたあの約束を胸に、私は新世紀の爽やかな風を受けながら、ザワザワと葉を鳴らす。
今日も、明日も、その先の百年も。
私はここに立ち続け、新しくこの街に生まれる無数の出会いと別れを、優しい木陰で出迎え続けるのだ。
いかがでしたでしょうか。
結局、5話で終わってしまいましたが、それくらいがサッと読んでいただける分量なのかな。
これが樹齢千年を超える屋久杉で書け!言われたら、間が持ちませんw
あれこれ凝った文章も書き始めてますが、始めた勢いのまま完結まで持っていけるくらいの文章量が、書いていて気持ちがいいです。
あ、始まった長編は末永く書き続けます。
作者がサジ投げるか、「なろう」がサービス終了するのと、どっちが先になるのかは知りませんが、鋭意努力しますので、そちらも生ぬるい目で見てやってくんなまし。




