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22・隣国の王子との茶会

「うん、うまい! やはり、レティーの点ててくれる抹茶は最高だな」

「光栄に存じます、陛下」


 私のお店の開店予定日まで、もう少しとなったある日のこと。

 今日は王城へ、国王陛下のためにお茶を点てにやって来ていた。

 お城の広くて綺麗な食堂で、陛下と、後は見張りの兵士さんしかいない中お茶を点てるのは、最初はかなり緊張した。だけど陛下がかなり豪快でフレンドリーなお人柄なこともあり、最近は徐々にリラックスできるようになってきた。


 週に一度ほど、私はこうして城へ出向いて陛下に抹茶と、新作のお菓子などを献上している。今回は、せっかくうぐいすあん以外のあんこができるようになったこともあり、お饅頭(まんじゅう)を作ってみた。


「うん、菓子もうまい! レティーの抹茶と菓子を味わうと、疲れなど吹き飛ぶな」


 陛下はお饅頭を気に入ってくださったようで、豪快にかぶりついている。見ている方が気持ちよくなるほどの食べっぷりだ。喜んでもらえてよかった。


(お店の開店はもうすぐだし、菓子職人のリーフさんも、抹茶を使ったレシピをどんどん開発してくれているし。最近は何事も順調にいってるなあ)


 少し前まで、浮気性な婚約者や、娘を婚姻のための道具としか見ていない家族に虐げられてきたのが嘘みたいだ。


(このまま、ずっと穏やかな日々が続くといいなあー)


 そんなふうに考えていると、ふと陛下が笑顔で口を開く。


「そうだ、レティー。今度、隣国の王子を招いて茶会を行おうと考えている。その際はよろしく頼むぞ」

「――はい?」

「隣国の、次期国王となるフェリクス王子が、3週間後にこの国に来る予定なのだ。だからその際に、レティーに茶を点ててほしい」

「え、ええ!? なぜですか!?」

「レティーの抹茶と菓子が、すごくうまいからだ」


 そんな笑顔でド直球で言われたら、何も言えなくなってしまうのですが……!


「隣国ルーヴェンシアでは、現在の王はお年のせいもあり体調が芳しくなく、そろそろフェリクス王子に王位を譲ろうかと考えているそうでな。我が国とルーヴェンシアは密接な関係にある。フェリクス王子が即位する前に、あらためて交流の場を設けよう、という話になったんだ」


「あの……それ、ものすごく重要な交流の場なのでは……?」

「ものすごく重要な交流の場だな」


 私は今から既に緊張でだらだらと汗を流しているのだが。陛下は「それがどうした?」と言わんばかりににっこりと笑顔である。元Sランク冒険者かつ、魔王を倒した勇者様でもあるこの国王様には、緊張とか怖気づくとかそういう言葉は無縁なのだ。


「なにせ俺は、4年前に王になったばかりの元平民だ。隣国の王家と、昔からの繋がりがあるわけでもない。今後もルーヴェンシアと友好的な関係を築いてゆくためにも、フェリクス王子と親交を深めたい」


「ええと……陛下も、フェリクス王子のことはよく知らないのでしょうか?」

「うむ。はっきり言って、よく知らん」


 陛下は本当にはっきり言った後、笑顔で大きく頷く。


「知らないから、今回の茶会で、相手のことを知ってゆくのだ。知らなかったことを知るのは、楽しいだろう?」

「まあ……そうですね」

「それと同じように。俺は、レティー、お前がいつも俺のまったく知らない菓子を作ってくれるのが、とても好きなんだ。今まで知らなかったものを知って、世界が広がったように感じる。だからフェリクス王子にも同じように、こんなにうまいものがあるのだと知ってもらえたら嬉しいと思う」


 陛下は、雲一つない空のような瞳でまっすぐに私を見てくれる。


「抹茶もあんこも、まだ他の国にない、とても珍しく貴重なものだ。交流の場でそれを用意したということは、それだけもてなしの心を持っているのだと、フェリクス王子にも伝わるだろう」


(もう……この陛下は。強いだけじゃなく、人の心を掴むのがうまいんだから)


 いつだって心を乱さない堂々とした佇まいも、強い日差しのような澄んだ輝きも。「この人についていきたい」と思わせる魅力を持っている。生まれは平民のはずなのに、王になるため生まれてきたような御方だ。


「レティーはただ、最高にうまい抹茶と、最高にうまい菓子を用意してくれればいい。お前ならそれができると、俺は知っている。だから頼んでいるのだ。引き受けてくれるか?」


 そんなふうに言われたら、引き受けないなんて選択肢、あるはずがない。

 私は陛下の瞳をまっすぐ見つめ返し、笑顔で頷いた。


「わかりました、お任せください!」

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