21・パワハラ店長の末路
今回からまたレティー視点に戻ります!
リーフさんの働くお店に来てみると、リーフさんは獣耳も尻尾も出ているし、店長は何やら顔を真っ赤にしてわなわな震えているし、お客さん達はそんな店長を白い目で見ているし、何が何やらわからない状況だった。
(わからない……けど、どうせ店長がまた理不尽にリーフさんを責めていたんだろうなってことは想像がつく)
「レティー様、どうしたんですか?」
「その、様子を見に来たんです。……リーフさんが辞めると言っても、店長さんが素直に辞めさせてくれるとは思えなかったので、大丈夫かと思って」
後半は、いくらあの店長とはいえ目の前で言うのは失礼だと思い、他の誰にも聞こえない小声で言った。リーフさんは獣耳によって聴覚が優れているため、今のでも聞き取れたはずだ。
(まあ、たとえ聞こえていたとしても、店長も以前私の悪口を言っていたんだから、お互い様だと思うけど……)
店長は私を見て、何かに気付いたようにはっと目を見開く。
「まさか、リーフの新しい就職先というのは……」
「ああ、はい。リーフさんにはこれから、私の店で働いてもらおうと思っています」
「――っ」
店長は一瞬、言葉を呑み込んだようだった。多分、かっと頭に血が上って私に何か暴言を吐きそうになったが、私は品評会の優勝者であり国王陛下とも顔見知りの人間だから、ぐっと我慢したのだと思う。
「そ、そうですか。レ、レティー様の開店させるお店なら、きっと素晴らしい店になるのでしょうねえ、はは……。そんなお店に、リーフみたいな奴は場違いだと思いますが……」
「……この前私が言ったことを、ちっとも真面目に受け止めてくださらなかったのですね。残念です」
「あっ。い、いえ、その……」
「ともかく。あなたにはリーフさんの価値がわからないようですので、今後はうちがリーフさんを雇いますね。私のお店は抹茶と和菓子がメインですので、このお店とはジャンルは違いますが……お茶とお菓子を提供する店、という点では、一応ライバル店ということになりますね。これからお互い、頑張っていきましょう」
にっこりと笑顔で告げたが、はっきり言って宣戦布告のようなものだ。
一応ライバル店といえども、圧勝できる確信がある。
こんなパワハラ店長の店では、他に腕のいい職人さんが働いてくれるはずない。わざわざこちらが特別なことを仕掛けなくても、普通に店を営業しているだけで、おのずと結果は出るだろう。この店長が、リーフさんをもっといい待遇で雇っておくべきだったと後悔した頃にはもう遅い。私の店とこの店では、圧倒的な差がついているはずだ。
「ま、まあリーフがいなくなっても、別の職人を雇えば大丈夫だろう。なあ、メイリーちゃん。君はずっと俺の傍にいてくれるもんな?」
「あ、ああ、はい。だって店長、ここ以外にも、いくつもお店を経営してるって言ってましたもんね? このお店一軒くらいうまくいってなくても、大丈夫ですよね?」
「え、あ……う、うん。そうだよね、前に、メイリーちゃんには、そう言ったよね……」
(なんだか店長、すごくしどろもどろだな……。もしかして、メイリーさんにずっと嘘をついていたとか?)
毎日お店はガラガラだったにもかかわらず、自分は他にも店を経営しているから大丈夫だと嘘の自慢をして、彼女の気を引こうとしていたのだろう。メイリーさんも、彼にはお金があるのだと信じていたからこそ、今までリーフさんを庇わずずっと店長にいい顔をしていたのだと思う。
(……まあ、そこまでは私達の問題じゃないし、関係ないな)
「ともかく、リーフさんの退職の件は、問題ないんですね?」
「あ、ああ。……今日で辞めてもらって問題ない、です」
「わかりました。じゃあ行きましょうか、リーフさん」
「はい。……店長、今までお世話になりました」
私達はお店から出て行き、お客さん達も、こんなお店にもう用はないとばかりにぞろぞろと席を立つ。
すると、私達とちょうど入れ違いで、強面のお兄さん達が店に入って行く。
彼らはドアを開けっぱなしにしていたので、少しだけ会話が聞こえてきてしまった。
「おい。テメー、借金いつ返すんだよ」
「ひ……っ! い、いえ、それは、そのうち……」
「そのうちじゃ困るんだよ。ずーっと返済が滞ってるじゃねえか!」
「す、すみません~!」
「ちょっと、借金ってどういうことですか、店長! お金はあるって言ってたのに!」
「ご、ごめんねメイリーちゃん、全部嘘だったんだ……」
「信じられない! 奥さんと別れて君と結婚する、お金で苦労はさせないって言ってたじゃないですかぁ!」
……なんだかものすごい修羅場のようだ。まあ、店長の自業自得だろう。
お店を少し離れたところで、リーフさんが私と他のお客さん達に言った。
「あの、レティー様。お客様方。今から場所を変えて、俺の作るお菓子をご馳走させていただけませんか?」
「リーフさん?」
「せっかく店に来ていただいたのに、嫌な気分にさせてしまったので。……俺は、自分の作るお菓子を食べた人には、皆、幸せになってほしいんです」
リーフさんの言葉に、お客さん達がわっと笑顔になる。
「あら、まあ。嬉しいですが、いいんですの?」
「はい。少しだけですが、今まで何かあった時のために貯めていたお金はあるし……今度からレティー様のお店で働くことになるので、お金のことは気にしないでください」
リーフさんがそう言うので、私も提案した。
「それなら、私の家のキッチンを使いますか? 食材もいろいろありますので」
私も皆さんに気分よくお菓子を味わってほしいし。このお客様方がお菓子の評判をご友人達にひろめてくれたら、私のお店の宣伝にもなる。そんな思いで告げると、その場にいた皆さん、いっそうぱっと顔を輝かせて喜んでくれた。
「まあ、いいのですか!?」
「品評会の優勝者であるレティー様は、今や私達の憧れの存在なんですよ。そのレティー様と、お店の職人となるリーフさんにご馳走していただけるなんて、夢のようです」
「お店が開店したら、私達、絶対何度も通いますね!」
それから私の家に移動して、リーフさんがふわっふわのスフレパンケーキを焼いてくれた。そこに生クリームと、私の家にあった抹茶アイスとあんこを添えれば、和風パンケーキの完成だ。
和風パンケーキはご令嬢達にも大人気で、皆さん、とてもおいしいと感動していた様子だった。これなら私の店でも定番メニューになってくれることだろう。
そうして、一度は店長のせいで台無しになった気分も幸せに変わって、その日は結果的に大満足な1日となった。
一方、後日――リーフさんがもともと務めていたお店は潰れることになったそうだ。
店長は借金について、お店の経営を回復させて必ず返すと説得したそうなのだが。やはり店長が理不尽かつ非常識すぎて、職人さん達が皆すぐ辞めてしまい、経営を立て直すどころではなかったらしい。元店長は借金返済のため、今後は召し使い同然の厳しい仕事をする羽目になったのだと、風の噂で聞いた。
(労働環境がブラックなところって、長くはもたないよねえ。私のお店は、ちゃんと従業員さんに優しい、ホワイトなお店にしよう……)
そう、固く誓ったのだった。
いつも読んでくださってありがとうございます!
物語はまだまだ続きますので、これからもよろしくお願いいたします!




