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ふたり

あ、鳥が飛んだ。

手に持っていた缶コーヒーをベンチに置く。

つか、鳩か。

バサバサと小さな羽を散らして大空へと駆けるように飛んだ鳩。

「あたしもつれってってよ」


呟かれた言葉は、澄み切った青空の遠くへ。

周りを見渡せば、いつの間にかかけっこをしていた子供たちがいなくなっていた。

ポケットから携帯を取り出し、時刻を確認する。

「もう昼か」

携帯を仕舞い込むと、ベンチのひじ掛けに置いた缶コーヒーをまた手に取る。


約束の時間から、二十分の経過。

んー、とコーヒーをこぼさないように伸びをすると、また私は空を見た。

腹立つくらい綺麗な空だ。

「なんか、あたし、みじめじゃね?」

なーにやってんだろ、こんなとこで真昼間からさ。

『ごめん』


ああ、また嫌なの思い出した。

何でだろうね、大好きな人の声なのにね。

「ごめんってさ、おい…」

ひとりぼっちの公園は本当憂鬱。

こんな時は空でも曇ってくれりゃいいんだがな。

あいにく快晴のカンカン照り。

イラつくんだよね、私はこんなに落ち込んでいるのに、空、お前って奴は。

なぜそんなに晴れ晴れとしているのだ。

また馬鹿なのは、そんな暖かい日に謎のホットコーヒー。

「普通冷えたやつ出すだろ…」

そんなことを呟いても、もちろんアイツには届かんが。

『ほら、コーヒー好きだよね?』

必死に慰めようとするアイツの顔と、わたわたと、

あったか~いと書かれた自販機のボタンを押したあの憎たらしい指。

それに何故かあのときは、あの自販機のあったか~いに殺意が沸いた。

なんでか知らんが。

そんな光景を思い出して、私はひとりで苦笑した。

「つか、何しに行ったんだか…」

その時、聞き覚えのある声に、私は後ろを振り返った。


「おーい、おーい!!」

「おま、遅いってーの!何しに行ってたのさ…」

とたとたと小走りで駆け寄るソイツは公園のフェンスを跨いだ。

「失恋したあんたを慰めるんならこれしかないでしょうよ」

そう言ったそいつの手に握られていたのは白い取っ手。

なんだと視線を下にして思わず表情が緩んでしまう。

「あ、笑った。可愛いやつだなあ、本当に好きなんだね」

いや、あんたにそれ言われたくない。

はい、と言われてその白い箱を手に取った。

「やっぱりケーキはあそこのショートケーキが一番だよね」

「よく分かってんじゃん」


たった一つのショートケーキで傷ついた心がほぐされたのは、我ながら情けないというか、単純というか。

でも息を切らして走ったコイツを見れば、まあ食ってやらなくもないと思える。

「さて、愚痴を沢山聞くとしますかね」

「んー、まずは遡って…」

「じゃあ、ちゅーしたときの感触とか」

「うげっ、おまそれ、別れたばっかの人に訊くことか?

てか生々しいわ、感触とか」

今、ケーキ食べんだからさー、なんて言った私の台詞にかぶさるようにして、

呟かれたそいつの言葉。

「また、大事な人、できるよ」


ね、と言って笑ってベンチに座る。

続いて私も座り込み、渡された白い箱のフタを開けた。


「…思ってたこと、言ってもいい?」

「ふぇ?」

「何でモンブランまであるの?」

「あ、それはー…」

箱の中のケーキはショートケーキ二つと、モンブランが一つ。

「モンブランも、捨てがたくて…」

傷ついた私の心よりモンブランかよ。

「まあ、一口あげるよ」

そう言って、イッヒヒヒヒと犯罪者の如く奇声を発してショートケーキを手に取る。

これからこのケーキがセクハラでもされるんじゃないかという勢いだ。

「でもま…ありがとう」

「ん?」

呟いた一言は、そいつの耳には届かなかったようで。

既に彼女の手に捕まったモンブランは、じっと私を見つめているようだった。

「なんでもない」

そう?と言われてついに食われるモンブラン。

一つのショートケーキが私のだから、コイツは二個も食べる気か。

ぽつりと取り残されたショートケーキを見て私は思った。

「ふぉーいえば、さっきね、虹が…」

「食いながらしゃべんな」




そしてその日の夜に、私の携帯に一通のメールが届いた。

アイツからだ。

『元気出せ!( ^)o(^ )』

「ふはっ」

よく分からない顔文字と共に添付された一枚の画像に、私は思わず声を上げて笑ってしまう。


『また、ケーキ食べようぜ( *´艸`)』

送信ボタンを押して私はごろんとベッドに寝っ転がった。

携帯を握りしめたまま呟いた照れくさくて言えない一言。

『ありがとう』

打って少し考え私はまた消した。

明日、直接言ってやろう。その方がいい。

うん、と一人で頷き携帯をテーブルに置く。

「さて、寝るかあ」

恋人を失ってなおも、私にはまだ失いたくない人がいる。

ソイツは、訳の分からんことで笑うし、我が儘で我が道を突っ走り、

そして時々涙もろい、なんともうっとおしい奴である。


だけど、送られたその画像には、あのイラつくくらいの快晴な青空と、

それを大きくまたぐような虹が映っていた。

「明日も、いい天気だといいな…」





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