変わったモモ
「フフッ……! フフフ」
「ご機嫌だね」
「えぇ、今ならどこにでも飛んでいけそう」
一週間後、モモと一緒にお出かけをすることに。
目的はカイゼン王国・プアロ王子を招いての晩餐会に着る正装だ。前世と同様、アズールにも燕尾服やタキシードと似たような服はあり、それを着ることになる。ただ、僕は昔からこういう服を苦手としていて、かっこよく着れた経験がないのだ。
そのため援軍を呼んだ。素直に「僕の選んで欲しい。いいかな?」と伝えたところ、食い気味で「喜んで」と返ってきた。
自分の服ぐらい自分で選べよと恥ずかしくもあるけれど、お願いした相手のモモはかつてないほどのテンションだ。そこまで喜ぶことかなと、少し不思議な気持ちになる。
「いろいろと候補を考えたけど、シルドくんの性格を考慮して王道にしようと思うの」
「うん、助かるよ。派手な服は着るだけで精神をヤられる」
「じゃあ、店を回ってみましょうか」
「そうだね。……ところで、何店舗ほど回るの?」
「フフ、少ないから安心して」
「それは良かった」
「たったの二十だから」
◇
それから約四時間後……彼女と一緒にショッピングを楽しんだ。
現在、近くの喫茶店で紅茶を飲みながら休憩している。うん、これは中々に濃い四時間だった。……。はい、正直に言います。大変でした。
足が棒になっている。
大丈夫だ、これは事前に覚悟していたこと。秘密裏にリュネさん経由で「明日はまともに歩けないと思いますので頑張ってください」と連絡を受けている。
途中から着た回数をカウントするのは止めた。ひたすら着せ替え人形のように服を着て、「どう!?」と感想を聞かれるので答える。
それの繰り返しだ。さすがに疲れて休もうと言いたかったけど、モモはずっと笑顔で「フフ、これもいいの!」と張り切っていた。
彼女は結構な心配性で、同時に嬉しいことには僕以上にどハマリするタイプだ。
だから、今のモモは楽しいことに夢中でそれ以外は頭にないと思う。朝からフフフ笑いを抑えられていないのがその証拠だ。普段はフフフ笑いをしないよう己を律しているけれど、嬉しすぎて口から漏れている。
このまま日にちを置いて落ち着いていき、次第に元の彼女に戻る感じだ。なので、今日はテンション爆上げ画麗姫さんとの時間を堪能しよう。
これはこれで滅多に見れないことでもある。それに、彼女の助力で目的を達成できたのだから。
「おかげで買いたかったものを手に入れることができたよ。ありがとう」
「どういたしまして。フフ、シルドくん。大変だったでしょ?」
「そんなことはないさ。……まぁ、そうだね。……ちょっとだけゆっくりしたいかな」
正直に白状したら、モモは指で頬をかきながら「張り切り過ぎちゃってごめんなさい」としてくる。
どうにも、普段の彼女に戻りつつあるようだ。このまま元気ハツラツ画麗姫さんを見ても良かったけれど、個人的な話として言わないといけないことも言おうか。
「もうすぐプアロ王子のアズール訪問だけど、僕からモモに言わないといけないことがあってさ」
「あら、良いこと? 悪いこと?」
「うーん、僕にとっては両方かな」
「……」
顎に手を置き、思考を巡らすシャルロッティアの令嬢。
「両方、ね」
左耳にある金魚のアクセサリーがキラキラと輝いていて、ゆったりと揺れている。彼女は好んでこのアクセサリーをつけているのだ。
他にも花や猫などをつける日もあって、いつ見てもとても似合っている。以前それを褒めたところ、家族からの贈り物らしい。
そんなことを考えていたら、思考を終えた彼女はコクンと頷いてこちらを見た。薄紫色の瞳は光を吸い込んでいて、水面のような美しさを放っている。
「ユミさんとイヴが遊びに来るの?」
「……ッ!」
「うーん、その顔はちょっと違うわね。少し当たってもいる感じ?」
まいったな、半分正解で半分不正解だ。
正解は家族であったこと、不正解は来る人に対してだ。たったあれだけのヒントでそこまで言い当てるとは、さすがはモモだ。
僕よりも遥かに頭脳明晰だから、頭の回転は段違いである。彼女にとって相応しい男になるには、まだまだ乗り越えるべき問題は山積しているようだ。
「凄いね、ほとんど正解だよ」
「あら、にしては違うみたいだけど……」
「半分は正解。家族が来るんだ。不正解は来る人かな」
「……ぇ。それって」
「うん。父さんと母さんがプアロ王子の訪問前日に、王都へ来ることになっているよ」
僕の言葉を受けて、落ち着きを取り戻しつつあった彼女の表情は一変した。
口をあんぐり開けて固まる。
目はこれでもかと大きくなり、髪はふわりと宙に浮いた。
金魚のアクセサリーはクルクルと回っていて、彼女の思考停止中を表現しているかのようだった。
紅茶をもった手も微動だにしない。さすがにここまで驚くとは思っていなかった。こんなモモは初めて見る。
「モモ?」
「……」
「モモさん?」
「…………」
完全に一時停止している。それからしばらく名前を読んでみるも、効果はなかった。
このままだと大変なので、モモの顎にそっと手を添えて、軽く上げる。
開いていた口は優しく閉じられた。それを合図に、画麗姫さんの思考も復活したようだ。
「ほ、ほほ、本当に……!?」
「うん。合格したよって報告したら『王都でお祝いしましょう』だって。だからさ、是非モモを紹介したいんだけど」
「しぃょっ……! ……ッ!?」
「モモ、大丈夫?」
「……ッ! へ……ぁ……っ! けっ……! こ……ん!」
どうしよう、また固まってしまった。
無事に恋人になれたことだし、こういうのはちゃんとしておきたいんだけど。ただ、恋人になったからといって何か新しいことをしたかといえば、そうでもない。正直、未だに自然と手を握れていないのだ。中々いけっ、とはならない。
さすがに手ぐらいは握らないと話にならないので、先ほどもそっと握った。最初はピクンと動くも、彼女も握り返してくれて互いにえへへと笑い合う。
子供の恋愛といえばそうだけど、ちょっとずつ深めていきたいと願っている。そして僕の両親にも、素敵な女性と出会えたことを伝えたいのだ。特に母さんは喜んでくれると思う。
「駄目かな?」
「ぜ、全然! 全然……駄目じゃない!!」
アワアワとするキミ。
落ち着かせるためにモモの手に僕のを添えた。
「ひぃやぁぁぁあぁっ!」
「お、落ち着いて……」
「え、えぇ、ごめんなさい。ちょっとだけ動揺してるの」
ちょっとだけじゃないと思うけど。
カタカタ紅茶を震わせながらズズズと飲むキミは中々に面白かった。普段のモモなら音を立てて飲むなどありえない。
目線は斜め上に向けられているものの、どうにも、その景色は映っていないだろう。今日の買い物については完全に彼女の頭から飛んでいっているようだ。
今頃、雲の上でお天道様にご挨拶しているのかもしれない。
そう、大事なのは挨拶だ。
僕もまた、シャルロッティア家に行く必要があるだろう。
「だから、できたらモモのご両親にも」
「まだ早いわ!」
スパンと叩き切るようにモモは言う。周囲にいた人たちから奇異な目で見られているので、声を抑えるようジェスチャーする。顔を下に向けたキミはブツブツと何かを言っていて、何かを考えているようである。
そして一つの結論に至ったのだろう。まだ目は虚ろだけど、ハッキリとした口調で答えてくれた。
「シルドくん、私の両親は普段からとても忙しいのです。だから会う約束を取り付けるのは難しいと思います」
何で敬語なんだろう。
「そっか。なら、今度の機会にする?」
「えぇ、そうね。ごめんなさい。でも私は、ぜ……是非とも、シルドくんのご両親に、ご……ご挨拶したいと思ってる」
「うわぁ、嬉しいよ。それで相談なんだけど、父さんと母さんを驚かせたいから二人に事前連絡なしで、当日に紹介するのはどうかな」
「え………………ぇ」
また固まった。
どうにも、先ほどから僕の言葉は配慮が足りないようである。何度も彼女をフリーズさせるのは相手の想定外の言葉を連発しているからにほかならない。
これ以上、モモの心理的負担を増やしたくないので、先ほどの言葉を修正しよう。えっと、サプライズのために事前連絡なしにしたのがよくなかったのか。
「ごめんね、なら事前連絡は」
「――なしでいきましょう」
「……。ん? でも」
「大丈夫よ、命を賭けてご挨拶をするわ」
「いや、命を賭ける必要はないんだよ。純粋にモモを」
「えぇ、大丈夫。私はダいジョぶ」
全然大丈夫そうじゃない。最後あたりは噛んでいる。
ただし、僕も配慮が足りなかった。モモから「事前に言ってないけど、私の両親に今から会ってね」と言われたらかなり緊張する。自分のやりたいことを優先した結果がこれだ。反省しないと。モモの気持ちに寄り添える人になりたい。
「やっぱり事前連絡は」
「絶対になしでいきましょう」
「あ、あのね。僕が悪かったよ。だから」
「ずぅぅぅえぇったいに、なしでいきましょう!」
「……はい」
ということで、半ば強引にではあるけれど、サプライズでモモを紹介することになりました。
恋愛って難しいな。相手の気持を考えることは当然大事だけど、それを優先してばかりだと前には進まないことだってある。
どこかで、どちらかが、勇気を出したり引っ張らないといけない時がくるのだろう。今回はモモが勇気を出してくれた。ならば、その勇気に応えないと。
「なら、それでいこっか。母さんと父さんを驚かせよう」
「もちろん! フフッ、まさかこんなに早く……」
それにしても今さらながら。
一年前に出会った時と比べたら、随分と――
「このモモ・シャルロッティア。必ずや期待に応えましょう……! 任せてちょうだい」
表情豊かになった思う。
キミと出会えて、本当に良かった。
今後もモモの成長も描いていく形になりますー!
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