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両親との再会


 それから時は過ぎ、季節は秋へ移りゆく。


 しばらくはモモと一緒に父さんと母さんにどのタイミングで紹介するか話し合った。僕としては事前連絡なしにしたのは彼女のことを考えず失礼だったと思う。


 ただ、言われた本人は俄然やる気になっていて、できるだけ好印象に登場できるよう熟慮してくれたようだ。一応、僕なりの見解をモモに伝えておく。


「前も言ったけど、きっと母さんは喜ぶと思うよ」

「シルドくん、女というものを理解できていないわね」

「……そ、そうなの?」

「一般的に『父親は娘に過保護となり、母親は息子に過保護』となる。そして同性の子供に対しては厳しくなる傾向があるの」

「……ふむ」


 そう言われて、ふとウチのことを考えてみる。

 たしかに、母さんはユミ姉とイヴに厳しく、父さんは僕に厳しい。そして父さんは娘二人に甘いのだ。


 母さんはというと、僕に対して甘かっただろうか。あまり変わらなかったと思うんだけど……。


「それは当事者の意見なので参考にはならないわ」

「仮に参考にならないとしても、母さんの性格上はモモを気に入ると思うよ」

「どうかしらね。母親にとって息子は特別な存在なの。小さな恋人と揶揄する人もいるぐらい。だから、大事な息子におじゃま虫がいたとしたら、あまり良い気はしないでしょう」

「……」


 そういうものだろうか。

 うーん、まぁ、父さんも娘二人に縁談があった際は明らかに嫌な顔をしていた。さらにはまだ早い! と断っていたものだ。母さんはそういうのはなかったと思う。モモの見当違いと思うけど……。


「私のやるべきことは『シルドくんのお母様に認めてもらう』こと。それが肝心」


 うん、と力強く頷く彼女に、それ以上は何も言えなかった。

 

 話を変えようか。

 以前も述べた通り、王都はカイゼン王国から訪問されるプアロ王子で非常に盛り上がっている。


 日に日に準備は進められていて、街の景色も徐々に変わっていく。カイゼンに関係する本や雑誌は本屋で頻繁に見かけるようになり、街行く人たちもカイゼンの話をしていることがグッと増えたと思う。


 アズールとカイゼンは友好的な関係であり、それもあるだろう。魔具に関する輸入品やカイゼン名物の食べ物は以前からあったが、明らかに見かける頻度が増えたように思う。


 お祭り好きなアズール人ということも合わさって、歓迎ムードを肌で感じながら毎日を過ごしていった。



     ◇



 そうして王子の訪問をいよいよ明日に迎えたその日、僕はとある港で立っていた。


「なんだかんだで一年半ぶりだから、緊張するなぁ」


 見上げれば空を自由に行き来する空船の数々。綺麗な空と相まって非常に絵になり、王都では見慣れた風景でもある。


 現在、僕はアズール二十一番港の到着ロビーにいる。つい先ほど、クランクホッペからの空船が到着し、ガヤガヤと旅行者が出てきた。皆、期待に胸を膨らませているような、朗らかな表情をしている。


 きっと僕も、初めて王都へ来た時にあのような顔をしていたのだろう。上手くは言えないけれど、あの何とも言えぬ高揚感は人生において中々ないものなのだ。失礼ながら、ちょっと先輩になった気分である。


 ようこそ王都へ、きっと想像の何倍も素敵なことが待っていますよ。特に図書館なんかいかがでしょう。是非ご覧あれ。


「おぉ? もしかして、青年か」


 そんなことを考えていたら、見覚えのある方に声をかけられて。視線を向けると、二度目の再会となった懐かしい方が手を振ってくれた。たしか、名前は……。


「ドナールさん!」

「ははっ、俺の名前を覚えてくれていたのかよ! すげぇ記憶力だな、嬉しいぜ」

「王都へ来る際、空船ではお世話になりました」

「いやいや、何もしてないさ」


 ドナールさん。王都へ初めて来た際に空船でお世話になった方だ。本部屋を紹介してくれて、読みすぎて寝落ちしてしまった僕を起こしてくれた方でもある。


 なお、ご兄弟も王都にいて、古本屋をしている。名は水晶の菜といって、珍しい名前でありながら扱っている本は実に個性的で、非常に僕の好みにも合致するのだ。


「少し背ぇ伸びたか? 顔つきも変わったようだぞ。かっこよくなったじゃねぇか」

「お世辞は止めてください」

「本当のことさ」


 白と黄色の線が入り、アズール王章が胸に刻まれている作業着に、これ以上似合う人はそういない。

 鍛え抜かれた体は逞しく、両腕は山のように盛り上がっていて圧倒されるのだ。筋トレを心から愛しているとも言っていた。そして何より、彼のことで一番面白いのは……。


「でだ、その、あれなんだけどよ、変なこと聞くようで悪いが」

「ステラさんのことですよね」

「そうっ! 悪いなぁ『ウチの娘』が面倒をかけているみたいで」

「とんでもない。彼女のおかげで今があります。本当に感謝していますし、ドナールさんが僕を空船でお世話してくれたのも、ステラさんからのお願いだったんでしょう?」

「……ははっ、やっぱりバレていたか」


 ドナールさんはアズール図書館の司書ことステラ・マーカーソンの父親だ。

 当時、ルカの君は古代魔法の使い手である僕のことを念入りにマークしていた。絶対に古代魔法をその目で見たかったのだ。ゆえに、ステラさんに命令して彼女の父親に王都まで届けるよう応援を頼んだのだろう。


 髪を触りながらドナールさんは破顔する。


「ステラから青年の合格を聞いて嬉しかったよ。また会いたいと思っていたんだ」

「僕もです。今日はこの後、どこかご予定でも?」

「久しぶりに、あいつに会いに行こうと思ってる。青年の話をしたくてたまらないだろうからな。親父も一緒に三人で会う予定だ」


 親父とは、貴族科の領内にある喫茶店「ロギリア」のマスターことゴードさんだ。

 実のところ、僕はステラさん関係の人物たちと最初の段階から交流をしていたことになる。どうりでゴードさんは名字を名乗りたがらなかったはずだ。

 ドナールさんは荷物を片手にもっていて、このまま娘や父親と合流するそうだ。久しぶりの家族団欒に、顔がほころんでいる。


「またな、今度は空の大海原で会いたいもんさ」

「はい、必ず」


 筋肉隆々の船員は、その体を軽く左右に揺らしながら歩いていった。


 ……うん、やはり僕は様々な方に支えられてここにいるようだ。実際に司書にはなったものの、彼らのおかげだったことは何一つ変わらない。その感謝を忘れずに、次へ繋げたいものだ。


「そして、あの二人にもね」


 ジョングラス発、アズール行の空船は既に停泊している。僕の時と同じだ。故郷チェンネルから出発し、八船都市のジョングラスから空船に乗船して王都へ。既に母さんからこの便で行くことは教えてもらっている。


 そして、父さんが船内で迷子になっているだろうから母さんに探されてここへ来るのに少々の時間を要するだろう。僕の迷子癖は父さん譲りだ。


「変わらないな……」


 茶髪の女性と、僕と同じ蒼髪の男性がこちらへ向かって歩を進めてくる。


 一人は花が咲いたように笑顔となって、一人は無表情でそのままやって来る。

 いつもの二人だ。

 チェンネルを出発する時と同じように、何ら変わっていない。変わったのはきっと、僕の方だろう。


「久しぶりね、大きくなってる……!」

「少し身長伸びたからね」

 

 シャーリィ・アシュラン。

 姉妹と同じ茶髪をした女性。身長は僕よりも低い。見た目は大変温和で優しそうな雰囲気を身に纏っている。暖色のサーキュラースカートに、紺色のリボンがついたブラウス。レモン色の帽子は少し傾けながら、ニコニコしながら登場した。後ろからゆったりと歩いていく男性もいて。


「佇まいが平民のそれだ。貴族として、チェンネルの次期領主として情けないものだ」

「また迷子になったの?」

「……違う。船内を散歩していたのだ」

「嘘よー。私が見つけたもの」

「……」


 むすぅとして、プイッと視線を外へ向けた。母さんから手でチョンチョンと触られて、少しだけ考えた後……こちらへ向く父さん。


「よくやった」

「……え、何が?」

「……」


 再びむすぅとして、眉間に皺を寄せて固まる。うん、いつもの父さんだ。

 バロン・ディッド・アシュラン。僕と同じ蒼髪で、常に不機嫌そうな表情をしている。身長は僕より少し高い。鋼の背骨が通ったかのように直立している彼の姿は、遠くから見ても目立つ。地に突き立てられた剣のような印象だ。

 これから秋のシーズンだけど、まだ夏も感じるそんな季節。そんな時期であろうとも、父さんは黒と緑のロングコートを着ていて、暑さをものともしていない。実は寒がりだったりする。


 二人とも一年半前と変わっていない。少しだけ父さんの皺が増えた気もするけれど、いつものことなので問題ないだろう。

 母さんはずっとニコニコしていて、少しだけピョンピョンしている。


「会えるのをとっても楽しみにしていたのよ。あぁ、嬉しいわー!」

「大げさだよ」

「そうかしら?」


 体を軽く左右に揺らしながら微笑む母さん。横では父さんが目を瞑って「ぬーん」としている。

 いつもの両親の姿ながら、どこかホッとするのは何故だろう。久しぶりに会えた喜びもあろうか。正直、僕もワクワクしている。


 それに、二人にはサプライズも用意しているのだ。

 既に準備は済んでいる。あとはビックリさせるだけである。喜んでくれるといいな。しかし、それ以上にビックリさせたい。頑張らねば。


 とりあえずは、やや興奮気味な母さんを落ち着かせようか。

 

「あぁそうよ! シルド、ちょっと聞きたいことがあるの」

「ん、どうかした」

「貴方の恋人はどこ?」




【第1巻 カバー解説その1】

下の方に第1巻のカバー画像がありまして

シルドが深緑の服を着ていますが、これは制服です。インバネスをモチーフにしています。

アズール学校では全ての学科に制服が支給されており、各学科によってまったくデザインの違う制服となっています。貴族科の男性は深緑で、モモのような女性は橙色となっています。

chibi様によって素敵な服をデザインしてもらっています。他のキャラもカラーで登場します。

随所にこだわりや遊び心もあって、服のデザインだけでも発見や楽しみがある形です!

第1巻の予約受付中です。お申し込みいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いいたします……!

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