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最強の馬鹿の教室

教室へと急ぎ足で向かう。元から遅めに来たことと、最下位という事実から、茫然自失の状態で校庭に5分くらい立ち尽くしていたからだ。

そんな訳で急いでた俺は、E組の教室までの道中にあるA組の前で足を止めた。


「やっぱ、A組は凄いなぁ」


俺は思わず呟く。それ程にA組の教室の内装はすごかった。

例えば、照明。普通の教室は大体蛍光灯だとおもうが、ここはシャンデリア。何のためにそんな某シンデレラ城みたいなことをしているのだ。

さらに他の設備を見てみると、黒板は当然電子黒板だったり、教室の後ろについてるロッカーは全部ダイヤル式の頑丈そうな金庫だったり、教室の隅には印刷機や電子レンジ、自販機、冷蔵庫があったり。どこぞのホテルより設備が良さそうだ。というか金庫は逆に使いにくいだろ。

そして、一番驚くべき設備は、机と椅子だ。

まず机。これはどっかの社長とかが使いそうな、木でできた黒い大きな机。その上には、かなりお洒落なスタンドライトがあり、その横にはなんとipud(opple社が開発した新感覚タブレット端末)が。なんて最先端な授業をするんだ。プリントいらずじゃないか。

さて、次は椅子について。こちらも相当ブルジョワで、なんと座高の高さまでちゃんとあるフカフカしてそうな革張りの背もたれと、一生座っていられそうなくらい低反発に見える座る場所?(名前がわからない)。しかも、移動は下に付いてるキャスターだから音も立たない親切設計。

そんな机と椅子がA組の人数分--41セットあるんだからその光景は中々に凄い。教室の広さも半端じゃないし。

……と、教室の床は絨毯も引いてあるみたいだ。本当にホテルじゃないか。


「なんか、学校じゃないみたいだな。共有できるのはトイレくらい--ってトイレも共有じゃないんだっけ」


確か、AB組専用とCD組専用。最後にE組専用があったはずだ。E組だけ専用トイレがあるんだぜ?凄いだろ。泣きたくなるよ。

--俺がそんな事を考えていると、A組の教壇の上に一人の女生徒が昇った。どうやら自己紹介が始まったらしい。少し聞いていくか。


「……早紀です。よろしくお願いします」


名字は聞こえなかったけど、早紀さんか。背小さいから、同級生とは思えないなぁ。学力で言っても同級生とは思えないんだろうけど。


「綾咲さんは、第1位(ベスト)です。皆さん見習いましょう」


綾咲……?あぁ、あの子の名字か。てことは、あの子は綾咲早紀(あやさきさき)というみたいだ。

というか今、先生、ベストって言わなかったか?あの小さい子が学年1位の秀才なのか。


「って、こんな覗き見してる場合じゃなかった」


ただでさえ遅れてるのに、こんなところで立ち止まってる暇はない。俺はA組から離れ、E組へと向かった。



      ■      



結局、遅れそうだ。まぁ、どうせE組だし、大半は遅刻してるだろう。俺はそんな勝手なイメージを支えに、教室へと入った。


「すいませーん。遅刻しちゃーいましたっ、てへっぶし!?」


E組に入るなり、いきなり殴られる。


「調子に乗るなよゴミ虫」

「ゴミ虫!?……って、実かよ」


入って早々ゴミ虫呼ばわりされる青春は過ごしたくないが、言ってきた相手が実――明智実(あけちみのる)ごときなら別だ。

明智実。目の前に立つ背の高い黒髪の男の名前だ。この男と俺は、昔からの付き合いで、悪友というもの。昔はコイツともう一人、志帆という幼なじみと一緒にほぼ毎日遊んでいた。

「というか、先生も来てないし、まだ遅刻じゃないじゃないか。なんで殴ったんだよ」

「そこに……お前がいたからな」

「なんて、理不尽な理由なんだよ!!ふざけんなよ!!」

「まぁ、落ち着けよ。朝からさけんでも何も降ってこねえぜ?」

「誰のせいだと思ってるんだ……」


俺は殴られた頬をさすりながら、教室に入る。さて、俺がこれから1年過ごす教室はどんなところなのかな?ご対面だ。少しドキドキするね。

――だが、そこに広がっていた景色は、俺のテンションを底辺まで突き落とした。


「うへえ。なんだよ、これ」


今、全国津々浦々を探しても、新学期に教室に入って第一声が「うへえ」なのは多分このE組の人間だけだろう。それほどにE組の教室はひどかった。

まず、照明がない。光といえるのは自然光だけだ。さらに黒板に大きな亀裂が走っている。なにがあったらあんな地割れみたいなことになるんだ。縦揺れ地震とかってああなるの?

そして、驚くべき事に、教室であるというのに机と椅子がない。その代わりに後ろの方に段ボールが、何個も積まれていた。あれを使えって事か!?

窓には穴。隅には蜘蛛の巣。床には畳。多分この教室で、畳が1番高価なものだろう。


「酷いとは聞いていたけど、ここまで酷いのか……」


思わず漏らした言葉に、実が反応する。


「俺も最初に来たときは驚いた。まさか、こんなにひでえとはな」

「いくら実達が馬鹿だからって、これはやり過ぎだよな」


さっきみたA組の10分の1も費用はかかって無いだろう、この教室。


「おい、さらっと自分を馬鹿の部類から外そうとしただろ、ワースト」

「ワーストって呼ぶな!!というかなんで知ってるんだよ!!誰にも話してないはずなのに!」

「掲示板にお前の名前がなかったからな。ベストとワーストは、クラス通知を教師から直接なんだろ?」

「畜生、そういうことか。プライバシーも何もないな」


掲示板の時点で最下位と、第1位が分かってしまうだなんて、嫌な学校だ。


「っと、教師が来た。E組担当なんて、どんな奴なんだろうな」


実はそう言って、教室入り口から離れ、適当な場所に座る。席もへったくれもないからな。俺も適当に座ってしまおう。

そうして席に座った瞬間、教師がE組に入ってきた。女の人だ。

そして、その教師は生徒名簿を教壇に置くと、大きな声で話し始めた。


「今日からてめえらの担任をする、木下(きのした)だ。ちゃんと覚えろよクソ馬鹿共」


え……?聞き間違いかな。最近聞き間違いが多くて困る。

ちょっともう一回言ってもらおうかな。うん。


「先生。すいません。もう一回お願いします」

「ん?お前は……ワーストか。人類、いや霊長類の恥のてめえは、耳まで逝かれちまってんのか?木下だ。覚えろ」


聞き間違いじゃなかった!?逆にもっと貶された!しかも霊長類!!

俺ががっくりとうなだれると、今度は近くにいた男子が声を上げた。


「先生!窓に穴が開いてます!直せないですか?」

「他人に頼っても、根本的なとこは解決しない。自分で直せ」


いや、窓はむしろ業者さんとかに頼った方が解決するだろ!!根本的なところは、大工とかじゃないと直せないよ!!


「先生!蜘蛛の巣がはってます!」


今度は遠くの方に座っている男子が不満を漏らす。それはいいが、なぜ君はそんなに喜々として不満を叫んでいるんだ。悩んでるのなら相談乗るぞ?


「デザインだ」


そう告げられた彼は、どことなく納得したような表情をしていた。なるほど、デザインか。

と、そうこうしてる間に次の不満が出る。彼らが不満を言うので皆便乗し始めたのだ。


「先生!黒板に割れ目があるんですけど!」

「アートだ。次」

「先生!机はないんですか!」

「後ろに積んである。各自勝手に使え。椅子は持ってくるかあきらめろ。次」

「先生!俺の座ってるとこの畳が、異様にケチャップくさいんですけど!」

「お前の汗のにおいだ。明日までにそこを消毒しておけ。次」

「先生!僕の昨日の夕食は肉と野菜でした!」

「私は春雨だ。次」

「المعلم، إنه جميل جدا」

「شكرا。次」


ずばずばと不満の吐露が先生によって切り替えされていく。おい、というか1人、何語喋ってた。先生も何で返せるんだ。

そして、


「ふう。こんなところか。さて、じゃあ次はぱぱっと自己紹介しろ」


全ての不満に対応しおわった先生は、ため息を一つつき、そういった。自己紹介か。去年以来だから少し緊張するけど。ちゃんと失敗しないようにやろう。

俺は緊張して高鳴る胸を手で押さえて、決意した。

さくしゃのあとがき


作中に出てきた

المعلم، إنه جميل جدا

は「先生、今日も美しいですね」で。

شكرا

は「ありがとう」だったはずです。アラビア語とか初めて使いました

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