強敵と絶望
あの夏の日の夕方。能力に目覚めた3人が揃った日以降、夏休みで時間がたっぷりあった事もあり少年たちは、虚構世界での活動に没頭した。
少年らにとって黒い靄との戦闘は、周回になり、遊びになって行った。
少しのスリルとアクション。そして使えば使うだけやれる事が増えていく能力、有り体に言えば自分の力に酔っていた。
多少の被弾も治せる明の能力が皮肉にも、それを加速させていた。
日に日に狩る靄の数は増え、二桁後半になる頃には数えなくなっていた。
最初の頃は、危ないタイミングで手を貸したり、監督役として着いてきていたコタロウも、日に日に監督しない日が増えて来ていた。
「……手応えない」
先程、子うさぎ程度のサイズの靄の群れに数十発もの光の弾をぶち当て壊滅させていたちゃーが言う。
それも一体に一発ずつ1発も外さずに当てるという芸当をしながらだ。
「近くのやつはだいたい狩りきったもんな」
最近では、能力の鎧も発動させず素手で怪物を殴り倒すバーサーカーになっている琉希が言う。
「しかも、小型のやつしか見なくなったもんね。最近」
それ程に弱くとも能力的に、靄の怪物を倒せない明が賛同する。
怪物狩りの合間の小休止中、木陰の下で3人は喋っていた。喋る間端から溶けてゆくアイスが、座り込んだ少年らの足の間の地面に黒いシミを作る。
最近にしては珍しく参戦していたコタロウが答える。
「それこそ何処かに遠征行くかだにゃん」
「まぁそこまではしないな」
「……リアルゲームは長時間するもんじゃない」
「そういう訳なんで」
各々が芝生に寝転びながら、コタロウの提案にやる気のない返事を返す。もちろんそれを聞くコタロウも芝の上で寝転がっている。
「にしても芝が厳ついトラップになるなんて思わなかったよ」
「この間のね……痛かった」
「ちゃー脚ズタズタにしてたもんな」
虚構空間は切り取られた時の状態、それをそのままを維持する。そのため現実では柔らかい芝も虚構空間では、鋭利で尖った肉を削ぐヤスリのようになるのであった。
それを知らず、怪物の攻撃を避けつつ華麗な芝にスライディング着地を決めた脚は、おろし金にかけたような状態になってしまったのだ。
「仕方なく無い?頭から消える時あるんだって、独特の仕様みたいなの」
あれを仕様と言うゲーマーらしさ前回の発言に苦笑しつつも、琉希は賛同しつつ言う。
「確かに偶にやるわ。半開きの扉開けようとしたりな。まぁけど芝よりアレがダンチだろ」
「蜘蛛の巣?あれはヤバかったね。あんなん早々超えてくるやつないだろ」
「それはそうにゃん」
琉希の言葉に、皆は雑木林に囲まれた神社内にいた黒い大型の靄との戦闘を思い出す。
靄は全くといっていいほど動いていないのに、不可解な事が起こり続けた戦闘であった。
着弾前に誘爆するちゃーの攻撃。受け動作の途中で動作を強制停止させられる琉希。手を振るった瞬間指先が飛んだ明。なかなかの惨状であった。
「……ただまぁネタが割ればね」
無作為に貼られていた、鋼鉄おも凌駕すると言われる強度の蜘蛛糸。それが虚構空間仕様で不可視の、破壊不可オブジェクトと化していたのであった。
その不可視の糸に当たった弾は誘爆し、腕は弾かれ、指は切り飛ばされた。
「ガチで怪物本体となにも関係ねぇのが本当にヤバい」
「本気で泣きそうだった。再生出来るようになってよかった」
「できなかったら、就職先は反社だったな」
「勘弁してくれよ、南の方とかから就職口あってもおかしくないんだからさ」
冗談じゃないよとでも言わんばかりに、オーバーなリアクションをする明。そんな明に琉希は笑いながらバシバシと背中を叩く。
「今ならなんも問題ないけどね」
多少の欠損程度なら完全に再生出来る程に能力を鍛えた明。それに対しちゃーは一言。
「でしょうけど、正直キモイかな。腕とか脚とか生えてくんの」
「はい、怒ったかんなー。調子乗って暴発させてぶっ飛ばした手治したの忘れたとは言わせないよ?」
そんなやり取りを呆れたような顔で見ていたコタロウが口を挟む。
「いくらはえて来ると言っても、あんまし危ない戦い方はしないようにするにゃん。いつか痛み目にあう……にゃん?」
コタロウが言葉を途中で切り上げ、もはや通い慣れたモールの方へ怪訝そうな視線を向ける。それに続いて少年達も気づく。
「湧いたの?」
「多分にゃん。初めて見たにゃん」
「でどうすんだ?行くだろ?」
十分な休息の後でかつ、手応えのない戦闘が多く消化不良。そんな4人は足取り軽くモールの虚構空間に入ってゆく。
何度も訪れて、現実のモールより見慣れてきたまであるショッピングモール。その一角、一体の黒い靄が予想通りに佇んでいた。
ただ、その靄は今までとは違っている。様子がおかしい。
その靄は今までのような、毛玉のような黒い不定形な姿等ではない。小さな子供のような形。
言うならば、ひとりでに歩き出した影。それが最もしっくりとくる表現であった。
うっすらと後ろが透けている、透過率の低い色つきガラス。黒い影が立体になったようなそんな風貌の化け物がぽつんと音のない空間に存在していた。
「……子供?」
「風貌は少なくともそう見えるな」
「コタロウ?人型ってどうなの?」
「分からないにゃん」
そんなやり取りの最中、人型の子供のような塊が少年たちの方に振り向いた。どちらが正面か判別は出来ないので、あくまでその様な気がしたと言うだけだが。
「ままぁ〜ままぁ〜」
声が響く。か弱い音ながら無音の空間に響き渡る。不自然な程に響く。ぐずった子供が今にも泣き出しそうだと感じる声が耳に届く。右から左から耳に届く。
建物全体が揺れた。正確には、現実とは比べ物にならない程の剛性を持つ虚構空間のモールが揺れるはずなど無い。
しかしながら、揺れたと勘違いさせるには十分すぎる音圧。そして、三人の心臓の鼓動は早鐘を打っている様である。
4人の背中に嫌なものがつたう。
「喋った?!」
少年達が今まで戦ってきた黒い靄達が音を発する事は多々あった。
だが、それは反射のような悲鳴や絶叫の様で、明確な意味を成す言葉等では消してなかった。。
「ままぁ〜どこ〜ままぁ」
黒い子供型の靄がこちらを一瞥する。そんな様な気がした。
危険と判断したのだろう。この場の人間の中で1番耐久性に優れた琉希が一歩前に飛び出す。
その瞬間、子供の足元から細長い黒い影が琉希に向かって伸びる。コタロウが言葉を発するのと、驚きで目を見開いた琉希が反射的に緋いオーラを纏うのは同時だった。
バギィン!!
琉希の足元付近まで伸びてきていた影から黒い槍の穂先のような鋭利な何かが、琉希の胸元に向かって伸びて緋いオーラに触れる。
金属が破断、破壊された時の様な音が響く。そして、琉希の身体が吹っ飛ばされる。そして、背後の十数メートル離れた壁に激突して止まる。
「明!治療にゃん!!」
悲鳴のようにコタロウが叫ぶ。
「もうやってる」
明は身を翻し、吹っ飛んだ琉希の元へ駆ける。走りながらも、右手の緑の光で遠隔で回復を入れる。
ヒビの入った壁に、もたれかかった状態で気を失っている琉希。
明は一瞥して気付く。壁に強か打ち付け、全ての肋骨が折れている。そして、それより数段危険な前部。おそらく、影の槍が命中した部分である。
あれだけ重厚だった胸筋は見る影もなく、骨までが露出している。大穴を覆うように両の手を翳し、緑の光を全力で流し込む明。
赤い肉に緑の光が重なり、黄色見える琉希の胸部。コタロウは、僅かな首振りで視界の端にそれを見とめると唱える。
『 終焉と終端無き迷宮』
半透明の四角い立方体が出現し、その内部に黒い影を覆う形になる。その瞬間、空間が歪み黒い影の姿が消え去る。
「琉希!大丈夫にゃん?」
コタロウは背後を振り返り、琉希の胸部に両手を掲げて治療をする明に問う。じわじわと傷口が再生し、傷口が小さくなってゆく。が、骨まで達した傷は完治に時間がかかりそうに見える。
「骨にダメージはもうないから、そのうち目が覚めるよ」
額に脂汗を浮かべながら、明は言う。あまりの衝撃に平生を保てていないメンタル下で行う初めての重要部位の再生である。
「明が居なきゃ詰んでたにゃん」
「それは僕だけじゃない。にしても……」
明は治療を続けながらも、先程黒い影が居たところへ視線を送る。視界の中には、打ち所を失った光弾を構えたままのちゃーがうつる。
「あのサイズが出す火力じゃないにゃん。ルールから逸脱してるにゃん」
「怪物退治に慣れた僕たち、それもタンク役をこなしてきた琉希がワンパン。琉希が目覚め次第撤退するよ」
明は言う。光弾を適当に打ち、手の空いたちゃーが近づいて来る。
「二人で肩車なりで、撤退出来ないのにゃん?」
「何があるか分からないから、あんまし動かしたくない。医者でもなんでもないから尚更ね。それに、僕らの事ちゃんと見て言ってる?コタロウ」
「そうだぞ、俺らもやしコンビで筋肉ダルマを担いで移動させれる訳ないだろ」
「それは……そうにゃんね……。けど、なるべく早くして欲しいにゃん。中で暴れてるアイツの所為で脳力の限界がすごい速度で近づいてるにゃん」
コタロウは苦しい表情で言う。琉希の胸部を覆う緑の光が一段と強くなる。
そんな会話の最中、呻き声と共に琉希が目覚める。無惨な様子になっていた胸部も肉が見える程度まで塞がってきていた。
目覚めた琉希は自分の胸部を見つめ、しかめっ面になる。
「冷静たれ……常態たれ 恒常たれ 精神麻薬」
琉希は精神の動揺や怯えを抑制し、痛みをも軽減する最近では使わなくなった能力を使う。
それと共に、琉希の額に浮かぶ脂汗が若干引き、表情も僅かに穏やかになる。
「一応聞くけど、俺死んでたか?」
「死人を生き返らせるのは回復の範疇じゃないよ」
「よく間に合ったね。琉希」
あの瞬間、琉希は咄嗟に緋いオーラが一瞬展開していた。が、痛撃を受けて一瞬で破壊された。
「あの僅かなタイミングで差し込めただけで十分過ぎるにゃん」
「そうだよ。間に合わなかった時の話は考えたくないね」
「違いねぇ。よし、もう十分だ。温存しとけよ明」
胸部は完治とは行かないが、先程まで露出していた骨は見えなくなっている。血も止まり、傷の痕が残りはしているものの、見ていられる程度まで回復してる。
「……治った?」
壁から体を起こし、立ち上がった琉希に対して和真が問う。
「あぁ、警戒ご苦労さん。けどコタロウが能力で隔離してんだから問題ないと思うぞ」
「……まぁ、けど同じのが出てこないとも限らない」
そう言って視線を琉希の治りきっていない胸に向けられる。
「……派手にいったね」
「男前になっただろ?」
「お前は元から男前だけどね。そんな事より、早く離脱するぞ。こんな状態で再エンカなんて冗談じゃない」
「そうそう、ちゃーの言う通り。歩ける?肩貸そうか?」
「要らん……と言いたい所だが、頼む」
琉希を両脇からちゃーと明が支える。そして一歩一歩出口へと歩き出す。
そんな様子をコタロウがじっと見つめている。
そのやり取りに何かを重ねているような、2人を見ているようで見ていないようなそんな目線。それに気付いた明が訝しんで声をかける。
「コタロウ?」
「もう無理、限界にゃん」
「え?」
その瞬間、再び空間が歪む。あの嫌な、背中をなぞる様な不快な感覚、そして子供の声。向こう側の透けた子供の影。
琉希をガードの上から一撃で瀕死にしたあの怪物が再び少年たちの目の前に現れたのだ。
「どこに〜行ったの?ままぁ〜ここ〜?」
「クッソが!鉄壁要塞、精神麻薬、戦士咆哮」
その姿を見るや否や、自力で歩く事も難しい状態なのにも関わらず琉希が矢継ぎ早に呪文を唱える。
身体を護る能力、精神を護る能力、そして見方を鼓舞し相手の注意を引きつける能力を重ねがけする。
琉希は緋いオーラを纏い、不敵な笑みで正面から敵に相対する。
刹那再び子供の足元から影伸びる。先程と同じ技。技かどうかも分からいが同じ攻撃。
ギィィン!!
しかし、琉希とて先程と同じ轍は踏まない。伸びてくる黒い触手のような影を腕で下からすくい上げ、逸らしてみせる。
「はっはー!俺っ、天才!」
額に脂汗を浮かべながら、膝も震えているけれどもそれでも大声で笑ってみせる琉希。
「セット『 炸裂弾』 『 貫通弾』 『徹甲榴弾 』 『 焼夷弾』」
その声に応じる様に、ちゃーの手のひらに形と色がそれぞれ違う四つの光の弾が出現する。そして、その手のひらを影に向け、放つ。
「どれでもいいから効きやがれ!」
轟音、そして砂煙が舞う。ちゃーは焦ったようにもう1発。『 破裂弾』を炸裂させる。命中ともに砂煙が、フロアの端の方まで押し流されていく。その砂煙が晴れた先、子供の影は無傷のままたっている。
その裏で、コタロウを回復していた明は、焦っているように見えた。それは、回復をかけているコタロウに回復の手応えすらもないからにほかならない。
「どうして?」
「回復はとめるにゃん。やっぱり私にそれは効果がないにゃん。それよりごめんにゃん。留めておけなかったにゃん」
コタロウに外傷はないものの、立ち上がろうとする素振りすらない。明はコタロウを抱えあげてコタロウに言う。
「内側から壊されたの?」
「有り体に言うならそうにゃん。暴れる敵を閉じ込めるとあーも消費するなんて思わなかったにゃん」
「大事は?なさそうなら一旦置いとくよ。まずは二人を支えないと」
その二人の片割れ、琉希は影の攻撃を捌き続けている。
まともに受ければその時点で戦線離脱でゲームエンド。彼の他に一撃でも攻撃を耐えれる人間はこの場に存在しない。
読んで字のごとく彼の双肩に全てがかかっている。
絶えず襲い掛かる攻撃を、避け、弾き、受け流す。受けれないが故に、攻撃の一部はちゃーと戦線復帰した明へと向く。
影との距離がある為、直撃はないものの避け損じがダメージを刻む。
こちらも手を替え品を替えちゃーが攻撃を加えているがイマイチ有効打が見つかっていないのか険しいい表情のままである。
「ほんとにこれ削れてるんだよね?」
手のひらから光の弾を出しては打ち、出しては打ちしながら口に出す。
「削ってもらわなきゃ困るぜ。ちゃーさんよ、こっちは確実に削られてんだからな」
「琉希に余裕があって心強いよ。回復強度あげるから、背後になるべく飛ばさせないで」
誰よりも近くで、誰よりも多く攻撃を受ける琉希の体力減少に回復が追いつかなくなりつつある。明は戦線崩壊を早めるリスクもあるが、ジリ貧回避のための賭けに出る。
「まじか……いや、それしかないっけどよっ!無茶言いやがる」
「じゃあ俺も一瞬戦線離脱。強化弾の合成。いい?」
「ダメとは言えねぇだろうが馬鹿!火力職お前だけなんだからよ。戦士咆哮」
琉希が吠え、呪文を重ねがけする。ちゃーは頼むと小さくいい、大きく距離を取り両手のひらから特大の光の弾を産み出す。そしてそれを粘土を捏ねるように形をグニグニと変形させていく。
「長くは持たねぇからな!」
「持たせてみせるよ。僕か琉希のどっちかが即死しなきゃだけど」
と言い、明はより強く緑の光で琉希を包む。
しかし、ものすごい勢いで体力が削られていく。
「半端ねぇなぁ。こちとら理論値だぞ?」
何せ今のこのタイミング、攻撃の殆どを一人で捌かざるを得ない状況なのだ。それでも尚、
「戦士咆哮、戦士咆哮」
琉希は叫ぶ。後ろで自身を回復する明を守るため、離れたとは言え敵の目の前で無防備を晒し、武器を研ぐちゃーを守るため。
そんな様子をコタロウは明の腕の中から見ていた。コタロウは発動した能力が強制中断された反動で、満足に能力は行使できない。
そもそも、コタロウの能力は戦闘に向いたものではない。だから、腕の中でただ見ていた。
だからこそ戦場の中で唯一冷静で、余裕のあったコタロウだけは見逃さなかった。
ちゃーの強化弾の合成が終わり戦線に復帰、耐えきったという安堵と勝てるかもという一縷の光明を見たその瞬間。一瞬、ほんの一瞬気が緩んだその一瞬に差し込まれた鋭い影の攻撃。攻撃はまっすぐ琉希のみぞおち辺りへ飛んできている。
琉希が僅かに遅れて気付く、けれどきっと避けれない。そして彼は、避けれても避けない。コタロウは分かっていた。
「くっそ」
だから、
「終焉と終端無き迷宮」
コタロウは能力行使を強引に敢行する。自らを起点にし、琉希と明の三人を包む最低限の空間を切り取り迷宮に隔離する。
広すぎれば能力の発動は出来ず、狭すぎればコタロウ自身が彼らにトドメを指すこととなるだろう。
けれど能力切れの反動で正常に能力が機能しない状態での一か八かの能力行使。僅かコンマ数秒。
能力の維持に限界が来たコタロウは叫ぶように再び叫ぶ。
「迷宮を解放する赤い糸」
そしては空間から吐き出された瞬間、攻撃が現れた場所の僅か後ろを通過する。無理やりの反動か、コタロウの右前脚が消失する。それでも、
「助かった」
致命に至る攻撃を回避する事に成功する。そして、間髪入れずに響くちゃーの声。
「セット 『 強化徹甲榴弾』 。いい加減ぶっ飛べーーー!!」
その掛け声とともに、子供の影の頭の数倍もあろうかという光の弾が容赦なく命中する。当たった瞬間に、今日一番の轟音と目を潰さんばかりの閃光そして爆風。とてつもない爆風に、四人は吹き飛ばされ各々壁際まで後退させられた。
「ままぁ〜」
黒い子供の影が相も変わらず、母を呼ぶ声が聞こえる。砂埃が晴れていく。そして見える黒い影。
「あれだけやってまだ……」
誰かがボソリと言う。
「どこぉ〜」
その瞬間、子供の影で出来た黒い身体に白いヒビが一線走る。そのヒビは、ピシピシとゆっくり全身に広がってゆく。
そして、ガラガラと音を立てて崩れて地面に転がった。
「勝った……?」
「終わったの?」
その間にも崩れた身体が更に細かく崩れ、砂のようになりそのまま跡形もなく消えていった。激しい破壊痕がなければ、あんな化け物が居たなんて微塵も思えないと思う程に綺麗さっぱり消えていった。
「死ぬかと思った。いや三回は死にかけたし、一回は確実に死んでた」
一番の功労者であろう琉希が、地面にへたりこんだまま言う。三人は、そのへたりこんで立てなくなった琉希の元へ集まりながら喋る。
「本当に琉希はかっこいいや。ほんとに頼もしかったよ」
明は、四人が集まった場所。モールのタイル二枚分の面積に緑の光る
エリアに持続回復の能力を使いながら言う。
「……結局力押ししか出来なかった。すまない琉希、明」
「力押しでも倒せたんだから無問題だ」
「そうそう。あとさコタロウ。無茶するなは誰の言葉だったっけ?」
無くなった腕を隠すように、体の前に足を置きながらコタロウ答える。
「うるさいにゃん。巻き込んだ側がのうのう観戦してるだけなんて許されないにゃん」
「コタロウそんなこと思ってたの?」
意外そうな顔で聞き返した明に、しまったと言う顔をして口を噤むコタロウ。
そんな最中。カタカタと音を立てて、瓦礫やらコンクリート片やらがゆっくりと動き始めた。
動いてくっつく瓦礫や地面を這う瓦礫、宙に浮いていくコンクリート塊。止まった空間である虚構空間が、止まった時間であり続ける為の自己修復が始じまった。
「知識としては知ってても、理解を拒むなコレ」
「確かに。ここまで大規模だと、だいぶ話違うよねって思うわ」
四人は、大規模な破壊痕の自己修復をなにか話す訳でもなく、ボーと見ていた。ただ、これで戦闘痕も消え何も無かった事になる。
「……屋上に行かない」
ちゃーが提案した。四人はそのまま無言で屋上に出て沈まない夕日をじっと眺める。満身創痍の四人は、誰からともなくぽつりぽつりと喋り始める。
「一先ずここから出たら一週間くらいぐだっとしよう」
「それいいにゃん。せっかくならこの町の観光とかもしてみたいにゃん」
明の腕の中でコタロウはそう言う。流浪の旅をしていたようだから、一箇所に長く留まっては来なかったのかもしれない。
「観光かー。神社がぐらいなもんだぞ?」
「……それ以前に足。痛くない?」
「痛みはそもそも感じないし、足は寝たら治るにゃん」
コタロウは真面目な顔して言う。それには誰も突っ込まないが、もう終わった。誰もがそう思った瞬間、三度背中を伝う嫌な感覚。
「下だ!」
琉希が屋上のコンクリート壁から身を乗り出し、眼下の駐車場を覗き込む。そこには、先程見た黒い人型の影。遠くからははっきりと確認できないが、成人男性くらいの背丈に見える。
そして、もう一体。もう一体と駐車場にそこに元から居たかの様に姿を表す。人型の影はどんどんと姿を増やし、更に敷地の外にも現れ始めた。
「嘘だろ嘘だろ」
傷付き疲労しきった少年たちと足を一本失った白猫は、増え続ける影を上から見ることしか出来ず、ただ立ち尽くすのであった。




