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エスクリプト 〜空想と欲望の果てにみる夜明け〜  作者: 音沙汰無し
孤軍の灰と白黒の双星

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13/15

不測と新手

 大人達はよく言う。不測の事態への備えを、とか偉そうに講釈垂れる。然しながら、予測の範疇にないものへ備えるなぞ、そもそも無理筋である。逆に想定出来るモノに対して、原因療法でなく対症療法を選ぶ時点でそれは怠慢である。

 つまるところ、不測の事態に備えようなど無いし、仮に備えれたとてどうしようもならないのが常なのである。


 それは、夏休み明けのホームルーム開始までを駄弁りながら、ゲームをしながら過ごしていた三人にも言える。異音の連続そして、それに対して何も行動を起こせないまま三人は虚構空間に拉致されていた。景色はまるで変わらないのに、先程までの喧騒はなくなっている。ぞっとする程の静寂である。声の元であった、クラスメイトや教師彼ら彼女らも声と同じく影かたちもなく消えている。

 そればかりか、朝日の差し込む明るい教室に慣れた眼という事を差し引いても教室は暗く、より不気味さを加速させている。

 教室の壁掛け時計は、3時過ぎを指し示している。窓の外は、巨大な満月が顔を覗かせている。


 三人は、焦ったように辺りを見渡し自分たち以外に動く存在が近くに無い事を確認し一息つく。そして、ヒソヒソと肩を寄せ話し出す。


「虚構空間だよね」


「あぁ、違いない。だが学校に虚構空間なぞなかったはずだぞ?」


 この半月で、数多くの黒い靄や黒い影を倒してきた三人である。コタロウ程ではないにしろ虚構空間の有無や黒い怪物を察知出来るように成長していた。


「この距離で三人が三人とも気付かないなんて考えにくいよね」


「あぁこの状況はまずい」


 三人は知らずのうちに、あるはずのない虚構空間へ迷い込んでしまっているのである。今のところ危険はないように思えるが、いつもと違うは明確に脅威である。それを三人は夏のモールで思い知っている。加えて、自分達より虚構空間に詳しいであろうコタロウも別の異変を見に行っている為近くに居ない。


「僕らが気づかないなら兎も角、コタが気付かないなんてもっと考えにくいよね?」


「……コタが黙っていた線?」


「その方が幾分かマシだな。あえて隠してたってなら、有り得そうな理由は二つだ。あえて明言する程の場所じゃない。俺らを害する謀の一環このどっちかだ」


「……前者は無理。巻き込まれるまで認識出来てないもの?」


「後者も考えにくいよ、害するつもりならもっと早くやってるでしょ。僕らのレベルアップに付き合うわけないし、異変の調査なんか買って出ないよ」


 二人は口々に琉希の考えれる二つの理由を否定する。その発言を聞きながら琉希は相槌をうつ。


「あぁ、俺も同意見だ。つまり不味い状況だったのが、かなり不味い状況になったって訳だ」


 三人の共通認識として、コタロウがこの空間を気付いたうえでスルーしていた線が消えた訳である。


「つまりここはコタすら認識出来ない様な空間であったという事だ」


「……それに出口何処って話?」


 琉希の言葉を先回りして和真が聞く。それに琉希は肯定する様に頷く。


「こればっかりは探索するしか無いとも思う。ただ待つのよりは可能性あるだろうからな」

 

「あとは、現実世界の私達がどういう扱いになってるかだよね」


 これまでの虚構空間は全て入っている間に時間は経過していた。だからこそ、出入り時に人に見られぬ様に気を配りながら行き来していたのだ。しかし、今回は白昼堂々。複数の目がある教室の中での拉致に近い形での虚構空間への突入である。


「当然の疑問だが、考えた所で分からん。しかも身の安全上一旦無視していい疑問だ」


「まぁそれはそうだね」


「……ひとまず探索する?」


 和真は薄明かりの教室をへ視線を送り、胸元に入っていたスマホ取り出し振ってみせる。


「……スマホのライトで明かりは補える」


「そうするか、ただライト代わりに使用するのは一つにするぞ。任せたちゃー」


 そう言われたちゃーは自身のスマホのライトを点灯さて、一度辺りを素早く照らして何事も無いことを確認し、最終的にスマホを琉希に手渡す。


「……先頭は琉希」


 そう言われ、スマホを差し出された琉希は一瞬考えた後、あぁ合点がいったとスマホを受け取り先頭を歩く。続いて、顎で先にいけという仕草をされた明が続く。

 三人はゆっくりと、警戒しながら歩いていく。十メートル、二十メートルと進む。何も異変はない。動くものも音もしない。

 段々ここ、さては何も無い空間なのか?とういう思考が頭の中に芽生え始めた三十メートル。


 進行方向先、廊下に教室からふらっと影が躍り出る。それを見つけた琉希がスマホの明かりを高く掲げる。急に現れた動いた影はその光に照らされ、鮮明な姿を三人の目に晒す。


「人?」


 それは見る限り完全な人であるように見えた。モールで見た人の様な影ではない。その人、女は三人の高校の制服を来ている。


「だね。制服の色的に2年生だね。僕達と同類かな?」


 明は、自身と同じような経緯でこの空間に巻き込まれた仲間の可能性を提示する。


「だったら後でコタを締めなきゃなんねぇが」


 目の前の女の先輩はくるりと90度回転し、三人と正面で向かい合う形になる。三人は息を飲む。確かに振り向いた女は、確かに化け物の様な容姿、風貌ではなかった。むしろ、可憐という言葉が似合うような部類である。

 しかし、そんな女性に似つかわしくない装備品が幾つか付属していた。黒い目隠しと口枷、それに加えて無骨な、分厚い金属製の首輪を身につけていた。

 現れた時は気が付かなかったが、ゆっくりと徘徊するように移動する際に小さく鎖が音を立てている。


「なんだあの変態チックな衣装は」


「間違いなく変態だよ。因みに色んな理由でアレと対峙する勇気はないよ?僕には」


「……同じく」


 その間もゆっくりと女は三人の方へ歩いている。琉希はそっと廊下の壁際に寝そべる。目隠しによって視界は封じられている公算が高いと踏んだのであろう。


 二人はそれに習うように、壁と床の角そこに埋まり込むかの様に体を寄せじっと女が通り過ぎるのを待つ。女の歩みは緩慢で不規則であり、ただでさえ過ぎるのが遅く感じる時間を更に引き伸ばす。傍から見れば滑稽な様子であるが、その甲斐あってか女は三人に気付く事なく通り過ぎ去った。


「……見つからなかったか」


「人型に会った時ほどの圧は感じなかったけどね」


 緊張の糸が切れたのか、和真と明が服のホコリを払う動作をしながら話し出す。もちろんホコリなど付く筈などない。


「それは同意見だが……」


「分かってるよ、琉希。ここで不用意に戦闘を仕掛けるほど、頭足りてない訳じゃないよ」


「いや、そこじゃない。それもだが……彼女何処かで」


 琉希は記憶を思い返しているだろうか、こめかみを指でとんとんと叩く。


「……二年四組。安達百合香、所属はテーブルゲーム部。俺の部活の先輩」


「ちゃー……」


 ボソリと和真が、琉希の記憶が掘り起こさられるのを待たず先程の女の正体を告げる。


「……戦う事にならなくて良かった。色んな意味で」


「そうだな。靄より人型の影の方が強かったんだ。人物が特定出来る程の奴が弱いはずないからな」


 顔を俯かせ、和真は心の内を吐露する。それを聞いた琉希は、戦いたくないと言うその意見に同意する。


「琉希に彼女ができない理由がよくわかるよ。太宰とか読んだ方がいいよ」


「よく分からん。話を戻すが彼女は俺らと同じ見えるタイプではない、そう思う」


「まぁ自分の意思で動いてる感じではなかったね。操られてるという方がしっくりくるね」


 明は先程の辿たしい歩き方を思い返し、そう琉希の言葉に賛同をする。付属品が付属品であることも、明のその所感に拍車をかけている。


「思念が形を持つと言うなら、彼女が」


 そこまで口に出した瞬間、明が肘で琉希打つ。体を仰け反らせ、うぐっと声を出し、脇腹を抑えた琉希に明は言う。


「それ以上は言わせないよ。それにその考察は外れてるよ、ほら」


 と言って指さした二十メートル程先に男子生徒が、先程の女性とと同じように辿たどしい歩調で、廊下の先から歩いてきていた。

 先程と違うのは拘束の場所であろうか、廊下の窓かさす月明かりに無骨な金属パーツが光浮かび上がる。その男子生徒は、口枷と首輪それに加え、手枷をされている。


「……拘束の種類が違う。目隠しがないね」


「一応しゃがんで見る?」


 明が先程、徘徊する女生徒をやり過ごした方法を提案する。琉希はその提案に賛同しつつも、素直な所感を告げる。


「してみてもいいが、俺の気の所為じゃないなら目が合った気がしたぞ?」


「奇遇だね、琉希。僕もだよ」


 先程までフラフラとした歩調に合わせて揺れていた顔が三人の方を向き静止している。なんなら歩きすらもやめて三人の方をじっと見ているように見える。然しもの明も、この状況で見つかってないとは思わないようである。


「逃げるぞ」


 琉希のその一言を引き金に三人は脱兎のごとく逃げ始める。静止していた男子生徒はそれに追跡する様に、駆け出した。振り絞った矢が放たれた時のような爆発的な加速で3人に迫る。


「ちょ!はやいよ」


「まじか!ちゃー」


「吹っ飛べ 『爆発弾』」


 その爆発的加速を持って削られる距離、それに危機感を覚え和真が攻撃を選択する。刹那の間に練り上げられた光の弾は迫る男子生徒の鼻先に命中、大爆発を起こす。目覚めてから一手にダメージソースを引き受けてきた和真の爆発は凄まじいものであった。爆発は廊下の壁と教室の壁を吹き飛ばし、爆風は三人を十数メートル吹き飛ばす。


「ちょっとやりすぎじゃない?」


「んな訳あるか!足りんぐらいだ。距離がなかったからな、ダメージ出せる程高威力じゃねぇわ」


 その言葉を裏付ける様に、土埃で見てくれが汚れた以上にダメージのない男子生徒が瓦礫の中から這い出ようとしている。そこに和真が間髪入れずに、貫通力の高い弾を三発撃ち込む。初撃と違ってある程度ダメージがあったのか、動きが鈍る。


「琉希。三階はダメだ。二階に降るぞ」


 正面で瓦礫の中で藻掻く敵の目の前をすり抜けるのはリスクが高いし、背後に退こうにも先程やり過ごした女子生徒がいる。下の階に敵が居ないとも限らないが、


「あぁそれで行こう。最悪窓から脱出も出来る」


「三階からでも死ななきゃ治せるよ?」


「余計なリスク負わんでいいわ」


 三人は足早に階段を駆け下りる。三人が降りきった事を確認し、和真は階段を破壊し、追撃に来るかもしれない男子生徒の導線破壊する。


「……はやった?」


「いや、後顧の憂いは絶っておくほうがいい」


 和真は階段を破壊した事で、三階への逃げ道を失った事について、琉希に是非をとった。それとはまた別の事に気を取られていた明は一階に降りる階段を覗き込み、すぐに首を引っ込める。


「やばい、居た。何なら目が合った」


「冗談だろ?」


「それならどれ程良かったでしょう」


「……ウェッ」


「言うてる場合か」


 琉希は小ボケる危機感のない二人にツッコミ大慌てで、二階へ足を踏み入れる。一階まで一気に降りるのは1度諦める。階段は一箇所だけではない。今降りてきた中央階段がダメでも校舎端、東西の階段で降りれる可能性もある。


「左は……ダメだ。右に行くしかねぇ」


 二階のフロアを見渡し、左のそう遠くない位置にまた別の生徒が徘徊するのを見た琉希が言う。


「東階段!全速だ」


 三人は大急ぎで東階段へ走る。西と中央階段に仮想敵が居る状態で東階段が抑えられた場合、逃げ道が無くなる。最悪、和真が窓か壁かを破壊し、屋外に飛び降りる手もあるが能力も打ち止めがある以上乱発はしたくないと言ったところであろう。


 しかし、不測の事態は続くものである。東階段から同じく女生徒がゆらりと姿を見せる。完全に囲まれた三人は辺りを見渡す。緊急脱出をするしかないかと思われたその時、琉希はひとつの部屋の扉が少し開いた状態になっている事に気付いた。

 隙間は消して広くは無いが、スリムな三人であれば身体を滑り込ませれる隙間でもある。


 三人はその隙間に大急ぎでその部屋に潜り込む。急いだ甲斐あり見つかること無くやり過ごした事が出来たのである。

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