幕間2
人が多く栄えている町、歩けば人歩かずとも人。至る所に人が居てそれが当たり前。そんな町にも人の目が届かない場所等、数え切れないほど存在しているものである。
ある場所は人に忘れられ、ある場所は不便故敬遠され、ある場所は不気味故避けられる。そういった町の見えない空白地帯を彼と彼女は好んで根城にしていた。
カツンカツンと一定のリズムを刻む足音が、人の居ない雑居ビルのフロアに響く。カツンカツンと一定のリズムで、荒れ果てたビルの中で不釣り合いなほど綺麗にされた一室へ足音が伸びる。
「やぁおかえり、おねぇさま」
髪が左右白黒でツートンカラーになっている子供が部屋に入ってきた子供に声をかける。
「ただいまですわ、おにぃさま」
髪が左右黒白でツートンカラーになっている子供が答える。
「首尾はどうだい? おねぇさま」
髪が胸元ほどのロングヘアーでスカートを履いた子供が、髪がショートヘアーでショートパンツを履いた子供に問いかける。
「順調ですわ、おにぃさま」
二人の髪色や髪型や、服装は反対であるが、ディテールは統一されており、白黒の所謂地雷系に該当する服装である。
そして、最も同一であるのが二人の子供の顔である。並べば髪型等を手がかりにしなければ判別がつかない程に揃った顔つきなのである。
二人はそのまま手を取り合い踊り始める。音楽等はないが、二人にはそんなものはなから必要ないのであろう。無音の雑居ビルに、リズムを刻む足音が再び響く。
「そういえばおにぃさま。先程街で薔薇のお姫様に会いましたの」
優雅に踊りながらショートヘアの子供が言う。履いたローファーの踵がカツンカツンと音を鳴らす。
「そうなんだおねぇさま。薔薇のお姫様はなんて言ってたのかしら」
踊りを続けながらも不思議そうな顔で問い返す。くるくるとターンをする度に白と黒の艶やかな長髪が線を描く。
「そうね、『 あら、るなちゃんじゃない。ちょうど良かったわ。駅の南の暫く繁華街に近寄らない方がいいわよ』って言ってらっしゃったわ」
「言われなくても、近づかないのにね。ねぇ、おねぇさま」
「そうね、おにぃさま。あんな面白くないところ行かないわ」
二人は踊りのフィニッシュとでも言うように、ぽつんと置かれた台の上のトレーの中身をぶちまける。黄金色と言うにはくすんだ、真鍮製のどんぐりが高い音を立てて床に散乱する。
「面白いおもちゃがあるものね。ねぇおにぃさま」
「大事に育ててる面白いおもちゃだものね」
「お披露目が楽しみだね。おねぇさま」
「お披露目が楽しみだわ。おにぃさま」
二人はうっとりとした表情で、見つめあったまま床にぺたんと座り込む。そのまま顔を近づけ合い囁くように言う。
「けれど彼には気づかれないようにしないと」
「そうだねおねぇさま。彼は脅威では無いけど、完成前にかき乱されるのは本意でないからね」
「ちゃんと隠しているのでしょう?おにぃさま」
「もちろんだよ。おねぇさま」
「なら安心ね、おにぃさま」
静寂に包まれた、廃墟の一室。その瞬間を見計らったように軽快な音が鳴る。机替わりにされている倒れた業務用の冷蔵庫、その背にぽつんと置かれたタブレットからの音である。着信音、対して大きくない筈の音は、高いせいか靴音以上に廃墟に響き渡る。硬質な壁に反射して返ってくる音も混ざり合い不協和音となる。
「誰かしら、おねぇさま」
「白々しいよ、おにぃさま。あのタブレットにかかってくる電話の相手なんて決まってるじゃないか」
うふふと朗らかな笑顔で笑う子供とそれとは対象的にやれやれと呆れた顔をする子供。おにぃさまと呼ばれたロングヘアーの子供が通話に出る。
電話の向こうから若い男の声が聞こえる。男の声は二人に向かって
言う。
「双子座、忠告だ」
「せっかちだね。おじさんいきなり本題だなんて」
「おねぇさま!おじさま達は私たちより老い先が短いですもの。急ぐのは当然なのよ」
「煽るのは好きにしたらいいが、貴様ら双子に取って面白い事にはならんぞ」
子供たちの煽りに対して、電話の向こうの男は淡々と返す。
「つまらないの」
「それで何かしら忠告って」
「繁華街には近寄るな。衝突を避ける必要は無いが、三者が潰し合うのは容認でき兼ねる」
その発言に、双子はため息をつき、口を揃えて言う。
「薔薇のお姫様と同じかしら」
「薔薇の……?あぁコンタクト取るとは珍しい。貴様らは彼女を嫌っていると思っていたが」
「取ってないわ。向こうから接触してきたの、それに」
「知っての通り、僕らは彼女が嫌いだよ。何?無駄口叩きに来たの?」
少し怒りが混じった声で言う。
「邪魔しないで欲しいわ。私達は私達で玩具で楽しんでるの」
「そうだよ。彼奴らのやってる事なんて興味無いんだ」
「ならいい。こっちが本題だが、モールのあれは貴様らの差し金か?」
双子は不思議そうな顔で言う。
「知らないわ、ねぇおにぃさま」
「うん知らないよね、おにぃさま」
「そうか、快楽主義者の貴様らの仕業じゃないとすると……彼か?」
「彼じゃないわ。一番私達が彼の動向に詳しいもの」
「一番詳しい僕らが断言するよ。彼は裏に干渉してない」
電話の向こうの声が消え、暫し無言になる。何かを考えている様な声を出す。そんな、様子お構いなしに双子は要求する。今度は自分達の番だと言わんばかりに……
「逆に言うけど、他の人らを学校に近づかせないでよ」
「そうよ。私たちの玩具がいい子にしてるのだから」
「あぁ了承した。幸運を祈る」
そう言い、通話は切られる。双子は散らばった金属のどんぐりを蹴飛ばし言う。それは、周囲に散り、部屋の中に乱雑に置かれた、散らかされた物品の数々に当たり音を鳴らす。
「うっとおしいね、おにぃさま」
「うっとおしいわね、おねぇさま」
鏡写しな双子は自身の片割れ以外とは分かり合えない、電話の相手もそれを見誤っている。双子は快楽主義者では無い。自身にとって面白い事のみを追い求める姿は、そう見えても仕方ないが本質は複雑で一言でいい表せられるものではない。
幼き身に通わない高い知能と、幼き身特有の無邪気な残酷さを持つ彼らは歪な存在である。
勿論、歪なのは存在のみに限らず精神性も含め歪でなのであるが、それを幸か不幸か知るものは数多くないのである。




