フォーカードジョーカーを本編でやる
手記を読んでからヒメノに渡して数日後。俺だけに学園長からの呼び出しがあった。ジョーカーのカードもあったので、間違いなく裏の仕事だろう。学園長室の扉の前に行ってみると以外なメンバーがいた。
「おっ、やっぱアジュも来たか」
「ヴァン? ルシードとカムイも」
おなじみ赤毛の黄金剣ヴァン・マイウェイ。
管理機関の技術を使う武士道ルシード・A・ラティクス。
ダイナノイエの王子で風水士のカムイ。
前にBODという闘技大会でチーム組んだメンバーだ。
「久しいな。息災のようで何よりだ」
「もしかして僕たち一緒の依頼なんでしょうか?」
「そういうことさ。よく来てくれたね、勇者科男子勢揃いだ」
学園長が扉を開けて出迎えてくれる。俺たちは四人でソファーに座って話を聞くことにした。
「さて、サカガミ君とラティクス君にはおなじみかな? 裏の依頼だ。おおっぴらにできない神が絡んだ事件を解決してもらいたい」
やはりそう来たか。鎧で神を狩る俺と、学園直属の特殊な依頼を解決するためのギルド、プロトネームレスのマスターであるルシードにとってはまあ日常だ。
「依頼とあらばウケるのはやぶさかではありません。ですが、なぜ超人でなく僕たちなのですか?」
「超人は顔が割れすぎていて、隠密行動に向かない。万が一、中級以上の神が出た場合に対処もできない。さらに今回の依頼にはいくつか条件がある」
にやりとしながら指を立ていく学園長。そういうの好きですねえあなた。
「まず目立ちすぎない学生であること。次に裏の事情に触れているもの。そして神を殺せるものだ。あと護衛対象以外は男しか入れないんだそうだ。よって君たちが適任だ。無論護衛依頼として単位と報酬は出す。たまには男だけで戦っておいで」
「なるほど、ソニアとクラリスが呼ばれてねえのはそういうことか」
「そういうことさ。BODで一緒だったんだろう? お互いの実力も把握しているはずだ。とんでもない敵が出た場合の処理役にサカガミ。サバイバルと裏事情に詳しいマイウェイ。喋る鞘であり機械であるアークによる分析もできるラティクス。風水による探知とサカガミのストッパーができそうなカムイ」
「最後おかしいですよね?」
「なあに神農様や女媧様の無茶な修行を超えているんだ、できないことじゃないさ」
それを俺はどういう気持ちで聞けばいいんだろうね。まあギルメンいないのは少し不安だが、このメンバーで全滅はないだろう。
「詳しくはこのカードに込めておいた。対象は列車の個室でお待ちだ。至急現場に急行してくれたまえ。以上解散」
そして合流した列車の個室でカードに魔力を込める。
『ごきげんよう諸君。学園の守護者、ダークネスファントムだ』
個室に響くいつもの声。主は遥か遠くの学園におり、カードからはいつもの調子で浮かれている学園長の声がする。
『とある国で閻魔帳のページが盗まれた。閻魔帳はその国の英雄や極悪人の名前、経歴、死因が書かれた神器だ。つまり悪意ある神が使えば、書き換えることで生き返らせて下僕にできるのさ』
目的地へと走る列車の中で、俺たちはその声に耳を傾ける。
『存在自体が極秘のアイテムだ。秘密裏に解決して欲しい。過去の英雄に打ち勝つためには、特殊な人材である君達がベストだと判断した。健闘を祈る』
客室内には微妙な空気が漂っていた。えらい難易度の依頼だなおい。
『護衛対象のスピネルさんは、この作戦の鍵だ。彼女がいなければ作戦は成り立たない。きっちり守ってあげてくれ。以上だ』
スピネルと呼ばれた女性は、まだ二十代も前半というところだ。美しい赤い瞳と長い髪を風に靡かせ、不安そうに景色を眺めていた。
「はっはっは! とんでもねえ依頼だな!」
ヴァンは場の雰囲気を和ませようと大げさに笑う。意図を察してカムイも続いた。
「ははは、いつものことですよ。スピネルさんも安心してください。僕達が守りますから」
「罪なき者の救済と罪人の成敗、これもまた修行であり剣の道だ」
長い刀の手入れを続けながら、ルシードも同意した。
俺は寝台で横になりながら話だけ聞いている。
「辛いことかもしれませんが、事情を話してください」
「私の生まれた国は隣国との戦が絶えず、百年以上もいがみ合ってきた間柄です。国民にとって戦争とは不意に訪れる日常である、と言っていいでしょう」
彼女には悲壮感がない。その態度からは本当に日常に刻まれているのだと察することが可能だった。
「そんな国ですから、数多くの罪人と戦犯が生まれます。なので閻魔帳というアイテムに詳細を記し、刑期を終えた魂をロンダリングすることで浄化転生します」
「閻魔帳が奪われると、まだ浄化しきっていない魂が復活するってことかい?」
「はい。ですが私のように閻魔帳にかかわる一族か、神でなければ使うことはできません」
「敵はあんたの身内か神ってことか……倒しちまっていいんだな?」
「はい。これもまた管理する一族の宿命です」
ヴァンの質問に淀みなくまっすぐ答えるスピネルを見て、意外と芯が強いのかもと思った。そんな中アークから警告が入った。
「ルシード、この車両に近づく反応多数。人間のようであるが、体温が異常に低いのである」
「この車両は貸し切りのはずです」
「まだ通過するだけの可能性もある。いきなり切るわけにもいくまい」
全員が武器に手をかけ警戒態勢に入る。それでいてひりついた空気は出さない。敵に気取られることはない。場数の多さが可能にする業である。
「首の温度はわかりますか?」
「サーチ完了。首の後ろに熱が集まっているのである」
「改造人間です! 避難を!」
「かいぞうにんげん? どういうことですか?」
質問をしながらも慎重に、音を立てずに退出の準備を終える。
「S級戦犯サンゴ。戦争における兵士不足改善のため、敵味方問わず死体を集めて改造人間を作り続けた狂人です!」
「しょっぱなから敵がクソすぎる」
扉を順番に開けていく音が響き、今にも自分達の部屋が開け放たれそうだ。
ここまできた人間の思考は単純。戦うか逃げるか。
「逃げましょう!」
「アジュとルシードは護衛しながら先頭車両へ行け。オレとカムイでぶちのめす」
「そんな! たった二人で挑むなんて!」
「平気ですよ。そのための僕らです」
通路は三人で横並びに走れる程度には広い。まあなんとかなるだろ。
「おっ、来たぜ。はいせーの!」
「オラア!!」
扉が開け放たれる直前、俺とヴァンの蹴りが扉ごと数人を壁に叩きつける。
「うわきも」
人造人間は全員が普段着だ。そして顔の一部が腐っている。そのギャップが俺たちの嫌悪感を加速させていた。
「んじゃ頼んだぜ」
「走ろう。あなたはオレたちが守る」
「はい……本当にいいんですか……?」
「あいつらは人造人間より死なんぞ」
いくら強化されていようと、ヴァンの黄金剣がまとめて切り飛ばす。剛腕と技術が超高水準で同居しているため、生半可な強化ではバターのように切断されてしまう。
「行かせませんよ!」
カムイが的確にサポートすることで閉所での戦闘を円滑に進めている。打ち漏らした相手がスピネルに近づくことを許さない。打ち合わせるでもなく取られる連携。あいつらのように修羅場をくぐり続けたからこそできる芸当である。
「お客さん。こっちは従業員以外通行止めだあよ」
とても鮮やかな緑色の髪をした男が立ち塞がる。切れ長の目も無精髭も緑色で、黒い服装は一般人よりも暗殺者のように見えた。
「自己紹介は必要かな? 地獄で誰に切られたのか聞かれるぜえい?」
「人斬りペリドット!? 片方の敵軍に化けることを繰り返し、数千人を斬り続けた快楽殺人鬼です! 実態はどちらの軍でもなく、人を斬るために劣勢の軍に化けて戦争を長引かせていました。和平阻止のためなら暗殺もする外道です」
「クソ野郎しかいないんかい」
「おやおやその子が標的かなん? 第二の人生ってやつを謳歌したいんだ。大人しく死んでくれると嬉しいんだけんどよ」
人斬りの剣気に怯み、足が震えるスピネル。だがその前に守るようにルシードが躍り出た。
「強敵はお前に任せるぜ」
「微妙に腹が立つがいいだろう。強敵との死合いも武士道の誉れ。尋常に勝負」
「おいおいそっちが名乗る時間もねえのかあい? せっかちさんかな?」
「俺たちが名乗る必要はない。地獄で誰に斬られたかわからずに恥をかけ」
「なっはっはっは! おれっち君みたいなやつ好き。こいつを斬ったらゆっくりたっぷり斬ってあげるぜい!」
ルシードの刀とペリドットのロングソードが激突する。剣戟の火花が散る。ペリドットの押し引き自由で型のない剣から、おおよその相手の力量を判断した。
「超人か。踏み込みの重さが違う!」
「これでも列車が倒れねえよう抑えてんだぜい?」
間合いの取り方、独特の歩法、蛇のように絡みつく剣がルシードを苦しめる。
常人では視認できない速度の鍔迫り合いにより、車内に切り傷が刻まれていく。
「迷いのないまっすぐな剣だねえ。そのながーい刀みてえだ。しのぎやすくて助かるぜい」
「ならばしのげないほどの剣を送ろう」
「やっている場合か。追っ手が来るぞ。窓に叩きつけろ」
二人の世界に入ろうとしているところを急いで止める。
「こうか?」
ルシードは言われるがままに鞘つきの刀を横薙ぎに振り、ペリドットを追い込むと、横一面の壁が抜け落ちた。
「んなにぃ!?」
「サンダードライブで外側から切っておいた。縁があったらまた会おう」
「勝負に水差しやがってえええぇぇ!!」
列車から放り出され、ペリドットは遥か後方へと飛んでいく。
「はっはっは、こういう水差しって気分いいよなあ」
「助けられた以上ノーコメントだ。行きましょうスピネルさん」
「はっ、はい。よろしくお願いします」
先頭車両まで敵の姿は見えず、無事車掌のもとまでたどり着く。
「車掌さん、悪いがトラブルだ。この車両以外を切り離して……うおっ!?」
改造された車掌が襲いかかり、俺は反射的に首をはねた。
「ちっ、アーク! 止め方わかるか?」
「わかるが無理である。完全に破壊されていて止まらんであるな」
無慈悲な回答に前を見る。あらゆるレバーが折られ、無惨に破壊された機器が見えた。これでは止めようがない。
「うーわ……どうする?」
「止めねばならん。このままでは駅に突っ込むぞ」
「ですがどうやって?」
「この車両だけ切り離して爆破するのである」
「はあ……こっから徒歩かよ……めんどくせえ」
ヴァン、カムイと合流し、車両を切り離して爆破する。
やがて遠方で黒煙があがり、これが開戦の狼煙となった。




