スピネルと氷の世界へ
敵の襲撃をなんとかやりすごし、近隣の町にたどり着いた。今はカフェで作戦会議中だが、その空気は少し重い。
「まさかここまで手段を選ばんとは……」
「あいつら騒ぎを起こして平気なのか?」
「大昔に死んだ人間ですから、顔を知るものはほぼいません。少数精鋭の超人ゆえに発見しても太刀打ちできる存在も少なく、身を隠す術にも通じています」
「厄介な要素しかねえのかあいつら」
やつらは被害がどれだけ多くなろうが関係ない。この時代の人間ではなく、破壊と殺戮に躊躇がないため、列車の乗客を改造人間に変えるなどという非道も行う。なりふり構わない相手ほど厄介なものはない。
「戦闘を避けて目的地に行くしかありませんね。ここからどうするのですか?」
「すぐ近くの氷河地帯を進みます。その奥の神殿に閻魔帳のページを使う装置があるはずです」
「氷河?」
この町はどちらかといえば暖かい気候だ。春の気候と言われれば納得する。敵にルートを読まれまいと、別の町に来たためか情報が少ないのが気がかりだ。
「この先にはオーロラの壁があります。オーロラがまるでそのエリアを守るように冷気を閉じ込め、決して溶けることのない氷の世界を保存しているのです。そのため氷を使った食べ物が多いのですよ」
「なんでもありだなこの世界」
「納得した。では防寒対策をして現地へ行こう」
「スピネルさんはお疲れではありませんか? 僕らのペースに合わせていては厳しいかもしれません。遠慮なくおっしゃってくださいね」
「ありがとうございますカムイさん。ですがこれでも閻魔帳を守る一族。最低限の鍛錬はできております」
「そいつはありがたいね。ならオレらの準備ができ次第出発だ」
こうして現地へと赴いた。驚いたことにまるで世界を区切るかのようなオーロラが存在し、手を入れてみると冷凍室のようだ。
「おー……できれば休暇で来たかったわこういうの」
「アジュの言う通りだが、愚痴っていても始まらん。案内を頼む」
「はい、私から離れないでくださいね」
どうやら内部は複雑らしく、地元民も深入りはしないそうだ。さらにスピネルの一族がいなければ奥までたどり着けない仕組みらしい。
「なるほど、それで狙われてんのか。一族の不幸ってのはどこも嫌だねえ」
ヴァンも血の宿命に苦労したタイプだ。よく考えれば俺以外は何かしらの特殊な血族だな。妙な縁もあったもんだ。
「気をつけろ。ここまで追手が来なかったってことは、待ち伏せの可能性もある」
「センサーに異常なしである。しかし油断は禁物である」
「わかっている」
スピネルを囲むようにして進む。防寒対策がなければ厳しい寒さだ。寒暖の差に慣れるかどうかが重要だな。じゃあ俺無理じゃないかね。
「一般人か来れるのはここまでです。ここからはオーロラをどこで何回くぐるか、どの穴に入るかなど、様々に分岐します。魔法で出口まで送られることもありますのでご注意を」
「ああ、静かにそーっと行こう」
「おおっとお! 来たな来たなー! オレに殺されになーあ!」
ビキニタイプの海パンを履いた大男が仁王立ちしている。
スキンヘッドでヴァンよりも身長が高く、とてつもない筋肉量だ。
「おいやべえやつがいるぞ」
「バカだ、バカがいる」
「この寒さで海パンのみだと……何かの修行か?」
全員思わず動きを止めてしまう。体に油か何か塗っているのか、てかてかと光っているのが気持ち悪い。
「ホワイトベリル。美しくないと判断したら、物でも人でも破壊し続ける究極のナルシスト。遺跡や王族でもお構いなしに破壊を続け、結果国を傾かせる男です」
「おいおいおいおい! オレ様の美しさがこの時代にまで残っちゃってるじゃなーい! 有名人は何百年経とうが有名人ってことだなああぁ!!」
声が無駄にでかい。寒さをごまかしているのだろうか。素でやっている気もするが、あまり出会ったことのないタイプの敵だ。
「おやおやあ? その女が例の一族だな? おとなしくこっちに渡せば、殺さないであげてもいいんだよ?」
「断る。女性をさらおうとする悪人を野放しにはできん」
この人数差でも余裕の態度を崩さないか。身に纏っている魔力量からして超人だな。戦闘スタイルによっては即座にスピネルを庇う必要が出る。
「いーよいしょっとお!!」
敵の立っていた場所が破裂し、猛烈なスピードでヴァンに迫る。
「ぬおおぉ!? いきなり来やがった!?」
「ほっほう、オレの突撃を受けるたぁやるね!!」
ホワイトベリルの膝蹴りを両腕で受け止めたヴァンが、数十メートルほど後退していた。それほどの威力か。
「ヴァン、そいつ任せる!」
スピネルを抱えると走って先へ進む。真面目に相手するつもりはないぞ。
「おーっとっとっとお! それはないんじゃなーい!!」
敵は急旋回して俺に掴みかかろうとする。ヴァンの追撃を回避するために光の弾丸で目眩ましをかけることも忘れない。やはり戦い慣れているか。
「サンダースマッシャー!」
「ガタイで受ける!!」
ホワイトベリルの体は傷一つない。見た目通りに頑丈らしい。
「寒さだろうが電撃だろうが、ハエが止まったほどにも感じないねえ!!」
「五の太刀、炎獄!!」
「爆炎ぶった切り!」
「ふはははは! もっと工夫しなさーい!」
ヴァンとルシードが同時に火炎攻撃を当てるが、敵はそのままスピネルへ突っ込んでいく。戦闘のできない彼女では避けられない。
「アーク、シールドモード!」
「承知である!」
鞘が分離してビームシールドになる。激突する音が響くが、アークは破壊されていない。不利を悟ったのか、ホワイトベリルは大きく跳躍して高い氷の上に降り立った。その際にポーズを決めていたのは少しイラっとしたぞ。
「やるじゃないやるじゃない! ちょっと本気出したくなってきたぜえ!」
変なポーズのくせに膨大な魔力が渦巻いている。地面が揺れ、周囲の氷にヒビが入る。調子に乗らせると危険そうだな。
「いーよいしょお!!」
「させっかよ!」
空中でヴァンとホワイトベリルの壮絶な殴り合いが開始される。
本来ヴァンに勝てる人間など少ないが、そこは過去の超人。しかも何かトリックがあるらしく、攻撃の効きが極端に悪い。
「チーム分けどうする?」
みんな首を傾げている。俺の発言はギルドメンバーにしか正確な察知ができないのが難点だな。
「どういう意味ですか?」
「スピネルを奥まで送れば勝ちだろ? ルシードはセンサーで追ってこれるよな? あとはスピネルが同行しないと進めない場所まで行こう」
ホワイトベリル討伐と先へ進むチームで分けたいのだ。これが一番効率いいと思うが、果たして敵が許すかどうか。
「俺が目くらましをかけるから全員で走れ。途中の一本道で攻撃役が通行止めな」
「僕がアジュさんと行きます」
「理由は?」
「アジュさんとヴァンさんを一緒にするとふざけて暴れ倒すでしょう?」
「はい」
「はい!?」
こうして作戦開始。雷光でホワイトベリルの目を眩ませて、各自攻撃魔法を連射したら走る。やがて一本道の先まで逃げると、道が二本に分かれていた。
「どっちだ?」
「どちらも試練の道です。私がいれば多少は簡単になるはずですが」
「ぬははははは! もう少しで追いつくぜえええぇ!」
『ミラージュ』
スピネルの分身を作り出すと、ヴァンたちに近づけた。
「みいいぃつけたああああ! おお? んんんん?」
それから間もなくホワイトベリルが氷を突き抜けて現れる。だがこちらを見て動きが止まった。してやったり顔で出迎えよう。この瞬間が楽しい。
「さーて、本物はどっちでしょう?」
カムイとスピネルを連れて奥へ進んでいった。ルシードとヴァンも偽物を担いで別の道へ飛び込んだ。
「おおぉ? おおおぉぉ? まずはこっちから殺してあげちゃうよー!!」
「どうやらオレらを追ってくるみたいだぜ」
「構わん。ならば斬り伏せるのみ」
「そりゃそうだ。だったら派手にいこうぜ!」
こうして厄介な敵を引き受けてもらえることになった。




