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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は美尾である
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ショッピング

次の休日。

私は誘った二人と一緒に商店街にやってきていました。


天気は快晴とまでは言えませんが、青い空が雲の間から除ける程に良い天気です。


「そういえば、こうやって三人一緒に出掛ける事はなかったね」

「意外だが、そうだな。私にとってはショッピングというものも初めてだが」


二人の言う通り、確かに私達は遊びに出掛ける事はありませんでした。

喫茶店の「日だまり」へ食事に行く事は何度かありましたが、三人でどこかに行く事はなかったのです。


ですから私は二人を誘ったあの時、少しばかり躊躇してしまいました。

断られるんじゃないかって心配してしまってましたから。


でもいざ誘ってみると二人共快諾してくれたので良かったです。

今はこうして歩いているだけでも楽しいですし、二人を誘って良かったです。


しかし、一つだけ気になっている事がありました。


「小向さんも誘った方が良かったでしょうか……」


苦笑してそう言うと、坂井さんがぷっと噴き出して笑いました。


「いいんだよ、小向さんは助平だから。きっとここにいたら、あたし達はお尻を追い掛け回されて、ショッピングどころじゃなくなってたよ」

「それは困りますけど」


困りますけど、一人だけ除け者なんて少々可哀想だと思いました。

この場には女性しかいませんけど、彼も誘うべきだったのかもしれないと心配せずにいられませんでした。


「まあ美尾、それならこう考えればいい」


美鈴さんは続けます。


「私は小向さんを除け者にしたんじゃなく、女だけで買い物に行くつもりだったんだとな」


おお、と私は驚きました。

美鈴さんの言う通りに思う事で、私の心配はすっかり晴れたのです。


「とりあえず今日は買い物するのだから、気ままに楽しもう」

「そうですね、そうします」


美鈴さんに言う通りです。

せっかく三人で買い物に来たのですから楽しまなければ損です。

美鈴さんのおかげで心配は晴れましたし、今はこの時を楽しみましょう。


「それで……」


私は話を転じ、苦笑して呟くように言いました。


「ショッピングっていったい何を買うのでしょうか」


がくりと、美鈴さんと坂井さんが転けました。

まるでお笑い芸人のように素晴らしいリアクションです。


「美尾ちゃん……知らずに誘ってたの?」

「よく考えたら知りませんでした。テレビでショッピングをしているシーンはよく目にしていたんですけど……」


根本的な間違いをしてしまい、私は苦笑しました。

よく考えると、無計画に二人を誘ってしまっていたのです。


ご利用は計画的に。

深い意味はありましたが、私の頭の中にそんなフレーズが浮かびました。


友人と楽しい休日を過ごそうと思うならもっと計画するべきだったのです。


「いやでもね、久しぶりに美尾さんらしくて安心したかも」

「私らしい、ですか?」


坂井さんがにやにや笑いながら言います。


「そう。ちょっとドジなところが美尾さんらしいのかなって思ったりして」

「な、なんですかそれ」


心外な事を言われて私が呆気に取られていると、美鈴さんがぷっと噴き出しました。


「確かにそうだな。美尾は本来今のようにドジだったと思うからな」

「そんな、酷いですよ」


二人が冗談を言っているのはわかりますが、私は少々悲しく思いました。

確かに私の考えが浅かったと思いますが、二人とも冗談が酷いです。


「いやね、本当は心配していたんだよ。最近の美尾ちゃんは何というか……らしくないなって思っててさ」

「そうですか?」

「うん。でもそれが今はなくなってるように思えるよ。少しだけど本来の美尾ちゃんが戻ってきたみたいでさ」


そう言われても、自分自身では気付かないものでした。

どう答えたらいいかわからず、ただ疑問に思う事しかできません。


しかし、本来の私に戻れた理由を感じる事はできました。

坂井さんと美鈴さんの力を借りて、日常に触れる事ができたからなのです。


「あっ、美尾さん。あの服可愛いよ!」


突然坂井さんがそう言ったかと思うと、指差して何かを示しました。

店に並んでいる、服を着たマネキンを示しているのでしょうけど、数が多くてどれを示しているかわかりません。


「えっと、どの服ですか?」

「あの服だよ」


近付いて指差してもらって、ようやくどの服を示しているのかわかりました。


白色のワンピースです。

ワンピースとつばの大きい帽子を被っているマネキンは、落ち着いた雰囲気を醸し出していました。

ワンピースの装飾もオシャレで、坂井さんの言う通り可愛いと思いました。


「確かに可愛いですね」

「でしょう? 美尾さんに合う店かもしれないよ。入ってよく見てみようよ」


そう言って坂井さんは店に入っていきました。

その坂井さんが少々強引だったので、私達は呆気に取られつつ後に続きました。


店に入ると、坂井さんは楽しそうに買う服を選び始めました。

服を広げて自身にあてがってみたり、体に合うサイズを探したりしています。


その様子を見ていて、私はこれがショッピングなのかと、感慨深く坂井さんを見ていました。

服を吟味している光景は、先程言っていた、テレビで放送されていたショッピングの映像と同じだったのです。


「あっ、この服は美尾さんにきっとぴったりだよ。美鈴さん、そう思わない?」

「そうだな。美尾、一度試着してみたらどうだろうか」

「わ、わかりました。試着してみます」


坂井さんと美鈴さんに言われて、少々呆気に取られつつ服を受け取りました。

服に問題があった訳ではないのですが、二人のペースに付いていけずに流されているように思えたのです。


試着室で着替える時も、この服を着た私を見て二人は何と言うのかと、私は緊張していました。

慣れない事の連続で、手元がおぼつきません。


着替え終わって、試着室のカーテンを開けると、二人が部屋の前で待っていました。

服を試着している私を見て、楽しそうに言います。


「ほら、やっぱり似合うでしょ」

「おお、新鮮だけど確かに似合うなぁ。可愛いぞ美尾」

「そ、そうですか? 美鈴さん……」


カーディガンとシャツは私も馴染みがあるのですが、ニーソックスとショートパンツは今までに履いた事はありませんでした。

新鮮だと美鈴さんは言ってくれましたが、着ている私も新鮮な気分です。


しかし二人に見られて、私は何だか恥ずかしく思えてきました。

あまり人に注目される事に慣れていない私は、もじもじと頬を紅潮させてしまいます。


「はい、じゃあ次はこれ」

「へっ?」


坂井さんがまた服を渡してきます。


「今度はその服に着替えてね」


そう言って坂井さんは試着室のカーテンを閉め、私は有無も言えずに閉じこめられてしまいました。

状況を理解して驚いた時には、断ろうと思ってもなかなか断り切れなくなっていて、ほぼ強制的に試着をさせられていました。

この状況に私はやはり呆気に取られてしまい、しばし硬直してしまいました。


やはり私は流されるだけで、二人に付いていけなくなってしまったようです。


しかし、私はこうして坂井さんに渡される服を着る事が楽しく感じている事に気が付きました。

綺麗だとか、可愛いとか、私自身の姿について褒められる事は苦手でしたが、服を試着して似合うと言われる事は違って嬉しく感じられます。


もしかすると、これがショッピングの楽しさなのかと、私は気付きました。

こうやってみんなでオシャレをする事が楽しみで目的だったのだと、知っているべき主催者である私はようやく気付いたのでした。




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