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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は美尾である
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響くサックス、描くジャズピアノ




それから私達はショッピングを楽しみ、私は二着、美鈴さんは五着、坂井さんは七着の服を買いました。


私の買い物袋はそう重くはありませんが、二人の袋は抱え切れないほど重そうです。


ショッピングは何事もなく楽しめたのですが、やはり私は二人に付いていけませんでした。

服を選ぶ二人をただじっと見るだけで、会話にすらあまり入れなかったのです。


ですから私は、自分がファッションに対して疎かったのかと少々気にしていました。

あまり気にする事ではないのかもしれませんが、二人を見習うべきなのかもしれないと気落ちしていたのです。


それならこの際、もっと二人に服飾について教えてもらうべきでしょう。

この後もう少し私の服を選んでもらって、ファッションを学ぶのです。


私は二人の買い物袋を見ながらそう思い、二人の後を歩いていました。


「さて、ここらで夕食を挟もうかね」

「そうだな。腹ごしらえも必要だ」


夕食を"挟む"という言い方をしたという事は、後でまたショッピングをするという事です。

そろそろ疲れてきた頃だと思っていたのですが、まだショッピングを続けるつもりでいる事に私は驚きました。


やはり二人には付いていけません。


「美尾さん、この付近でどこか美味しい店を知らない?」


二人に驚いていると、坂井さんが尋ねてきました。


「そうですね……。商店街なら美味しいパスタ屋さんを一件知ってますよ」

「パスタ! いいねえ、ちょうど気分だったんだよ」


坂井さんだけでなく、美鈴さんもその店で食べたいと言ってくれました。


今日は休業日ではないという情報も抑えていますし、パスタを食べにいきましょう。


「それじゃあ食べにいきましょうか。案内します」


私は二人を連れて店に向かいました。


私自身もその店に行くのは久しぶりだったので、またあの美味しいパスタに舌鼓を打てると胸が弾みます。



店は大通りを少し外れて裏に回った場所にありました。

緑色のオーニングと古めかしい木製が落ち着いた雰囲気を醸し出していて、現代風のお洒落なレストランです。


入店して席に座り、この店の人気メニューであるミートソースパスタを注文しました。

三人共同じメニューです。


「一人ぐらい別のメニューを頼めば色々な味を知れたんだがな」

「店を調べるなら美鈴さんの言う通りね。でも同じものを食べて意見聞きたいでしょ」


私は二人の話を聞いて驚きました。

私は深く考えずに、ただ好きだからという理由でミートソースを注文していたからです。

そんな事を二人に話す事もできず、私は色んな考え方があるんだなと、苦笑していました。


店内に流れるジャズを聞きながら待っていると、見るからに美味しそうなミートソースパスタが運ばれてきました。

出来立ての証である湯気が立ち上り、上に乗っている半熟卵の黄身が蕩けています。


フォークとスプーンでパスタを巻き取って食べてみると、挽き肉やホールトマトなどの具の味が口に広がりました。

半熟卵の味も絡まって、頬が落ちてしまいそうです。


パスタの茹で加減も丁度良く、柔らかさの奥に歯ごたえがあります。

咀嚼している内も具と卵の味が舌に染みて、飲み込んでしまうのが勿体無く思ってしまうほどに美味しく感じました。


「確かに美尾さんの言う通り、ここのパスタは美味しいわね」

「そうだな。店の雰囲気も好みだし、良い店を教えてもらった」


二人にそう言ってもらえて、私も嬉しくなれました。

私が作った訳ではありませんが、自分が褒められたみたいに思えます。


「それにしても、美尾はどうしてこの店を知ってるんだ? 店は裏路地にあるし、見つけにくかったと思うんだが」

「それは調べたからですよ。雑誌のランキングに載っていたので、気になって行ってみたら美味しかったんです」


その雑誌は想太朗くんがよく買っているもので、私のものではありませんけども。


「へえ、でもそれなら美尾さんって、結構グルメなんじゃない?」

「そうでしょうか?」

「この間連れていってもらった『日だまり』っていう喫茶店も穴場だったし、きっとそうだよ」


自覚はありませんでしたが、坂井さんに褒められて、私は嬉しく思いました。


ファッションの面では二人に付いていけなかったので、やっと自分の良い面を発揮できて良かったです。

足を引っ張っているみたいで、沈んでいましたから。


なので私は、ようやく落ち込んでいた気分も晴らす事ができ、美味しい料理にありつく事ができました。

心置きなくミートソースパスタに舌鼓を打てます。


しかし料理を食べている内に、私は想太朗くんにもこのパスタを食べさせてあげたいと思うようになってしまいました。

別れなければならない私達に、そんな事は許されないというのに。


この際私は、二人に悩みを相談してはどうだろうかと思うようになりました。


今まで心配を掛けまいと自然を装っていましたが、一人で悩みを抱え込んでいては、もう押し潰されてしまいそうなのです。

こうして二人と過ごしていると辛さも少しだけは忘れる事ができましたが、現実は全く変わっていないのです。


「美尾さん、どうしたの?」

「表情が浮かないな。何かあったのか?」


二人も料理を食べていましたが、私の様子に気付いて気に掛けてくれました。

私は二人に相談する事を決め、顔を上げます。


「想太朗くんとの事で悩んでいたんです……。二人共、聞いてくれますか?」


そう告げると、二人は表情を強ばらせました。

私の悩みを重大だと思ってくれているのでしょう。


それでも二人はゆっくりと頷いて了承してくれました。

断らないで受け入れてくれて、有り難いです。


「現状から順番ずつ説明していくのですが、まず言う事は……そうですね……」


先の事を言いづらく、私は言葉を濁しました。

しかし相談する以上、私は告白しなければなりません。


私は覚悟を決めて、息を飲みました。

改めて二人に向き合うと、こう告げます。


「想太朗くんと離れる為に、この地を去る事にしました」


二人は顔を強張らせましたが、何も言いませんでした。

私は話を続けます。


「やっぱり私は、想太朗くんへの気持ちに堪えられなかったんです。このまま想太朗くんを想ったまま側で見ているなんて、できなかったんです」


私は話している内に、段々と悲しみが大きくなっていきました。

風船が膨らむように、ゆっくりゆっくりと。


「他に楽になる方法も考えました。美鈴さんと坂井さん達に会えなくなるのは悲しいですし、必死になって考えていました。でも、他に方法はなかったんです」


目に涙を溜めながら言うと、二人は悲しみを浮かべつつも納得してくれました。


「そこまでは良かったんです。悲しいですが、解決だけはしていたんです。それでも話はまだ続きがあって……」


店内のBGMであるジャズが、沈黙の中で響きます。

その中で私は話を続けます。


「ある方から『想いを告白するとすっきりする』というアドバイスを頂いて、告白してから去る事にしたんです。それで、想太朗くんをデートに誘ったんですが……」


私の心情を表すように沈黙を彩るサックス。

対して二人の心を表すように響くジャズピアノ。


「その後に想太朗くんが私の事を好いてくれている事を知ったんです。好いてくれても、私は想太朗くんと別れなければならないというのに」


サックスがやけに大きく響きました。

強めに演奏するようで、ジャズピアノも少々響きます。


「私は告白した後、答えも聞かずに別れるつもりでした。ですが、想太朗くんが私を好いてくれているなら、告白する事もできません。それで私は、そのデートでどうすればいいのか、悩んでいるのです」


話はようやく終わりました。

これが私の現状で、悩みでした。


二人はこの話をどう捉えたか、それが今、私が気になる事でした。


重く考えてくれるのでしょうか、それとも笑うのでしょうか、叱ってくれるのでしょうか、わからないと放棄するのでしょうか。


色々な可能性を考えて、緊張してしまいます。


「前から思ってたけど――」


坂井さんが言いました。


「どうしても想太朗という人と別れなくちゃいけないの?」

「……どうしても、です」


猫又の私が、人間である想太朗くんに正体を現して、仲間を危険に晒す訳にはいきません。


「そう。でもね、どうして別れなきゃいけないのか知らないけどね、私ならまずその問題を変えようとするな」


私は頑なに口を閉じ、項垂れました。

サックスの音が響きます。


「それほど想太朗の事を想うなら、その問題も変えられるんじゃないの? どうなの?」


涙が頬に一粒流れました。


洟をすすり、指で目を擦ります。


「難しい事はなんとなくわかる。美尾さんが頑張ってきたのもわかる。でも私は、その点で美尾さんが諦め切っているように思えるんだよ」


諦め切っている。

それは私にとって少々厳しい言葉でした。


それでも私は坂井さんの言う通りだったのではないかと思いました。

まだ努力する余地があったのです。


「できるでしょうか、私に変えられるでしょうか」


私は顔を隠しながら震える声で尋ねました。


「できるよ。今までもそうやって頑張ってきたんでしょ。辛いかもしれないけど、美尾さんならやれるよ」


坂井さんは穏やかな口調でゆっくりと答えてくれました。


それは私にとって優しい事で、厳しい事でした。

前へと歩む厳しさと優しさを与えてくれる、坂井さんらしいアドバイスだったのです。


「わかりました。頑張ってみます」


私は流れる涙を拭いて言いました。

確かに猫又の掟に背く事は難しく、目の前にいる美鈴さんにも迷惑を掛ける事でもあります。


慎重に考え、小向さんと話し合い、努力する事が必要です。


ですが、こうして坂井さんに励まされた今、私は努力を実らせる事ができるような気がしていました。

想太朗くんとの恋が実るような気がしていました。





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