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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は観光客である
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ロビンソン

次の日。

私は一昨日と同じ方法で想太朗くんの元を離れ、ジャスティンさんに会いに行きました。


想太朗くんの元を勝手に離れる事は、昨日も含めてこれで三度目ですが、今日が最後になります。

例のジャスティンさんによる告白は、今日の深夜に計画しているからです。


勿論抜け出す事に罪悪感はありますが、夜の計画の為に今は考えないようにしていました。

失敗だけは避けなければなりませんし、気を引き締めないといけません。


前もってジャスティンさんに会いに行く事にしたのは、やはり告白する事について話しておきたいと思ったからでした。

本当にジャスティンさんがローラさんに告白するのか、その気持ちを確かめておきたかったのです。


想太朗くんの部屋を抜け出して、港にやってくると、ジャスティンさんはいつも通りに船着き場にいました。


「おはようございます。ジャスティンさん」

「おお美尾、よく来たな」


イルカのジャスティンさんは、今日も勇ましく挨拶してくれました。

今日告白するというのに、相変わらず外見とのギャップは圧倒的です。


「おはようございます、いい天気ですね。日が強くて焼けちゃいそうです」

「おう焼け焼け、そうしたら美尾ももっといい女になるぞ」


「そうなんですか? 確かにローラさんの日焼けした肌は綺麗ですけど、でもそれってジャスティンさんがローラさんを好きだからじゃないですか?」

「そうかもしれない。いや、きっとそうだろう」


私は苦笑しました。

本当にジャスティンさんは普段通りで、清々しいほどに変わっていないと思ったのです。


しかしこの揺るがない精神なら、きっと告白も上手くいく事でしょう。

いざローラさんを目の前にして言葉が滞ってしまうのではないかと思いましたが、心配する必要はなかったみたいです。


それでも私はジャスティンさんに告白する意志を問うべきでしょう。


「……ローラさんに告白するんですね?」


話題を省みずに突飛な質問をしましたが、ジャスティンさんは冷静でした。


「何を今更。それに美尾が言い出した事だろう」


その返答で私はジャスティンさんの意気十分だと思いました。

計画を実行する意義がありそうです。


「それより、本当に美尾は奇跡を起こせるんだな」

「心配無用です。準備万端ですよ」


私は目を閉じて強気に発言しました。

笑みさえも表情に浮かべて、自信満々に答えます。


その表情を見て、ジャスティンさんは安心して言います。


「それは頼もしいな」

「はい、安心して待っていてください」


私にはしては珍しいなと自分でも思う発言をした後、私はローラさんに話をしたいと思っていた事を思い出しました。


「ジャスティンさん、私ちょっとローラさんと会ってきます。先にローラさんとお話しておきたいと思うので」

「そうか。でもローラならもうすぐここに来るぞ」

「えっ?」


私はどうしてローラさんが来るとわかるのか気になりました。


時間帯で来るとわかったのかもしれませんが、もしかしたらイルカの能力で知ったのかもしれません。

イルカ同士は超音波で離れた相手とも会話できると、想太朗くんのテレビが紹介していたのです。


なのでその力を使って、ローラさんの足音を聞いたのかと思っていると、本当に背後からローラさんが現れました。

ジャスティンさんが言った通りにやってきたのです。


「あら、あなたは確か……」


ローラさんは私を見付けて、私が誰かを考え始めます。


「眼鏡を掛けている人が好みの人!」

「確かに、あの時そう言いましたね……」


ローラさんに名前を思い出してもらえなかったので苦笑しましたが、よく考えると私達は名前を名乗りあってませんでしたね。

今更自己紹介をするのは違和感を覚えますが、この機会に自己紹介をしておきましょう。


「私は森田美尾という名前です」

「モリタミオ? 日本生まれなのね。私はローラよ、ローラ・ロビンソン」


ローラさんの本名は初耳です。

やはり今更になって本名を知るのは違和感がありますが、ローラさんからするときっとそんな違和感はないのでしょう。


「ローラさんはよくこのイルカさんに会いに来るのですか?」

「そうよ。この場所に住み着いちゃって動かないから、心配して毎朝お魚を買ってあげてるのよ」

「毎朝ですか! すごいんですね」


私はローラさんの事を優しい人だと思いました。

普通ならイルカが住み着いたって、ここまでお世話はしません。


お魚は高いですし、毎朝買ってあげていたら大金がなくなってしまいます。


「お金が掛かってちょっと大変だけど、私に懐いてくれてて結構可愛いのよ」

「確かに可愛いですよね」

「ジャスティンって名前を付けたんだけど、呼ぶとちゃんと振り向いてくれるのよ」

「へえ。それじゃあちゃんとジャスティンが自分の名前だってわかってくれてるんですね」


なるほど、ジャスティンという名前はローラさんが名付けたのですね。

道理で人のような名前な訳です。イルカさんのような名前は想像も付きませんけど。


「でもね……」


ローラさんは表情を曇らせながら言いました。


「このまま私が世話していたらいけないんじゃないかと思うの」

「どうしてですか?」

「野生に帰れなくなるからよ。現にジャスティンはイルカの群れから離れてここに住み着いている訳だし、一人では生きていけなくなってしまわないか心配なのよ」


私は納得しました。

ジャスティンさんはいつ来てもこの場所に居て、居なかった事はありませんでした。


いつ食事を摂っているのか疑問に思ったほどです。


「だからジャスティンには群れに戻って野生のイルカとして生きてほしいのよ」

「きっと大丈夫です。ジャスティンさんはちゃんと群れに戻ってくれますよ」


慰めるように言うと、ローラさんははっと気付きました。


「あっ、ごめんなさいね。こんな話をしてもつまらなかったわよね」

「いえ、いい話が聞けました」

「それならいいんだけどね。じゃあ私は仕事があるからもう行くわね」

「はい、お仕事頑張ってください」


ローラさんは手を振って船着ぎ場から去っていきました。

答えるように私も手を振ります。


私は去っていくローラさんの背中を見ながら、彼女とお話できてよかったと思いました。


直接私に関係ある話ではありませんが、私は今夜の計画前にローラさんの気持ちを聞いておきたかったのです。

ジャスティンさんの為にも。


「どう思いましたか、ジャスティンさん」


私は妖術で話し掛けました。


「やっぱり俺はこの場所を離れるべきだったな。ローラの悩みになるだけだった。しかし――」


ジャスティンさんは俯き、改めて気付きます。


「思った通り、ローラは俺の好きな人だったよ。告白したいと思う気持ちは変わらない」


私はしみじみとジャスティンさんの話を聞き、頷きます。


やはり私は彼の為に妖術を使うべきのようです。

わかっていましたが、改めてジャスティンさんに告白を遂げさせてあげたいと思いました。


「それなら今夜、奇跡を起こしましょう。ローラさんにジャスティンさんの想いを伝えるのです」


私が微笑んで告げると、ジャスティンさんは意気込んで頷きました。





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