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私は白猫である。  作者: 堀河竜
私は観光客である
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そらをとぶ

今回はファンタジーな話になりました。

妖術を使って何かをする話は久しぶりですね。



陽はみるみる内に沈んでいきました。

足早に向かっていたのですが、それでも間に合わず、仕舞いには走り始めました。


やはり今朝より人通りが多いのですが、構わず私は足を動かしました。

ジャスティンさんが今どんな気持ちでこの太陽を見ているのかと思うと、走らずにはいられません。


港に着いたのは、ちょうど陽が水平線の向こう側に沈んだ頃でした。

慌てて船着き場に行くと、ジャスティンさんはまだそこに居て、見えなくなった太陽の残り火を見ていました。

どうやら間に合ったようです。


ジャスティンさんは息を切らして現れた私に驚いていましたが、私は息を整える事も忘れて想太朗くんの言葉を述べました。


「せめて告白してからにしませんか」


ジャスティンさんはまだ驚いていましたが、私は続けます。


「私が力を貸すので告白しませんか」


それでもジャスティンさんは驚いた顔をしていましたが、しばらくしてからようやく私の言葉を理解し、ゆっくり頷きながら「わかった」と言いました。


「それで、どうやって告白するつもりなんだ?」

「私がジャスティンさんの言葉をローラさんに伝えます」


それは妖術が使える猫又だからこそできる事でした。

以前私が想太朗くんにやったように、奇跡を演出しようと言うのです。


私は自分が計画している事をジャスティンさんに話しました。

非日常的で、超自然現象で、奇跡としか言いようがない演出を。


「そんな事ができるのか?」


計画を聞いたジャスティンさんは、怪訝な顔して言いました。


無理もないでしょう。

現にイルカであるジャスティンさんが猫又である私と会話できているのですが、そんな不思議な事よりももっと不思議な事をしようと言ったのです。


「大丈夫です。まだ未熟ですが、私は猫又ですから」


ジャスティンさんは心配そうな表情をしていましたが、了承はしてくれました。


それから私は計画を実行する日時を決めました。

今日は妖力を沢山使ってしまいましたから明日は休み、人通りが少ない夜中に実行する事にしたのです。


問題はその時間にどうやってローラさんを呼び出すかですが、その問題も妖術で何とかできます。


ジャスティンさんには、ローラさんに何を言いたいか考える事をお願いして、私は港を去りました。


そして、ようやく一日は終わり、ハワイの電灯は次々と消えていきました。

体を眠らせて休息を取る時間がやってきたのです。


私も想太朗くんの部屋に戻ってケージの中で眠ろうと思うのですが、その想太朗くんが眠っていなければ戻れません。


そして、問題はもう一つありました。

ホテルの部屋の鍵はオートロックであり、玄関からは一方通行で帰れないのです。


そこで私はベランダに目を付けました。

オートロックは複雑で私には開けられませんが、ベランダにある窓の鍵なら私でも開けられます。


しかしそのベランダに行くまでに問題がありました。

想太朗くんの部屋は5階なのです。


私は空を飛ぶ妖術を使って想太朗くんの部屋まで上るつもりでしたが、この妖術はまだ習得していないものでした。

小向さんに教わってはいるのですが、結局難しくて断念したままなのです。


他にもベランダに上る方法は考えていたので、あえてこの術を使う必要はありません。

しかし私は空を飛んで部屋に帰りたいと思っていました。


この妖術を習得できれば、ジャスティンさんが告白する時に演出で応用できるかもしれないと思ったのです。


ホテルまでの帰り道は何故だか短く感じました。

すぐにホテルに着き、私の妖力が試される時が来ます。


妖術で空を飛ぶ前に、準備をしておきましょう。


妖術を使う瞬間を人に目撃されないように、自分に不可視化の術を施し、ベランダに上った後の事も考えて、普段通りトイレの個室で猫の姿に戻ります。


そして、私のような初心者の為に、補助の効果がある陣を用意します。

術を発動させる場所に書くだけなので、用意は簡単です。

今回はそこらにあった棒で砂浜に書いて用意しましょう。


準備は以上ですが、私はまだ心配でした。

準備だけは完璧なのですが、それでも成功を確信できる自信を持てません。


だとしても私はやると決めたのです。

失敗した時もこの陣が働いてくれるので怪我をする心配はありません。


私は頬を叩いて自身に気合いを入れました。

深呼吸してから、妖力を行使し始めます。


砂に書いた陣が光り始めました。だんだんと自分の重さの感覚がなくなってきて、浮力が強くなっているのを感じます。


私は妖力を慎重に制御しながら徐々に力を強めていきました。

小向さんに教わった事を思い出します。


そして遂に私の体は地面を離れました。

以前練習した時よりもブレも少なく、妖力を上手く制御できているのを感じます。


私の体はどんどん上へと上っていき、2階から3階ほどの高さまで上がりました。

5階にある想太朗くんの部屋まであと少しです。


しかし安定していた体勢が、途端にブレ始めました。

後方に傾いたので、焦って前に回ろうとしましたが、回りすぎて今度は前方に傾いてしまいます。


右にも左にも体の軸がブレて、浮いている事も難しくなり、私は勢いよく落下していきました。


その時、私は妖術を失敗したと悟りました。

地面に書いていた陣に体を浮かせてもらったので、何とか地面にぶつからずに済みましたが、失敗した事には変わりありません。


もしかしたら術が成功して演出にも応用できるかもしれないと思って試してみたのですが、やはりまだ私には早かったみたいです。


早かっただけなので落ち込む必要はありませんが、やはり落胆してしまいます。


しかし今は想太朗くんの部屋に戻らないといけないので、私はすぐに別の妖術で上る準備を始めました。

飛ぶ事ができないなら、跳んで上るのです。


この妖術は先程と比べて簡単なので、私は無事に想太朗くんの部屋に上れました。

上れたのですが、私はやはり空を飛ぶ妖術を習得したいと思っていました。


空を飛びたいと思っている事が理由ですが、今回はジャスティンさんの為になるという理由もあります。

ジャスティンさんが告白するまでにこの妖術を習得したいのです。


私はどうにか明日妖術を練習できないかと考えました。

今日のようにまた身代わりを用意して部屋を抜け出す事はできますが、絶対に人に見付からない場所が必要になります。


私が今日泳いでいた人通りが少ない海も、絶対に人に見付からないとは言い切れません。

結果として良かったのですが、想太朗くんにも見付かってしまいましたし、やはり完全に一人になれる場所はあまりありません。


しかし私はそのような格好の場所を見付けました。

この想太朗くんの部屋は、彼が居なくなると誰の目にも留まる事がない場所なのです。


まさに灯台下暗しの諺通りですが、私は想太朗くんをまた欺いてしまう事に自分のやましさを感じました。

ジャスティンさんの為に正しい事をしているはずなのですが、想太朗くんに対して悪い事をしていると自分を咎めているのです。


それでも私はジャスティンさんの為に、明日は想太朗くんの部屋で妖術の練習をする事を決めました。


想太朗くんが眠ったのを見計らってケージに戻ったのでした。



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