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【ニキ】000話:~不自由から自由へ。あなたは蛮勇者~

本作は「コメディ担当のニキ視点」と「シリアス担当のネキ視点」が1話ずつ交互に進む、少し変わった変則作品です。


第1章完結まで毎日ニキ視点とネキ視点の1日2回更新でお届けします。

 その声は突然だった。


『人の子らよ。あなた方の中に眠る力を呼び起こし、異世界の迷宮を攻略してもらいます。女神エルコートの名において、適合者に拒否の権利はありません』


 ……は?

 と、思った。


 思っただけで声は出ない、そういう身体で生きているからだ。

 一瞬この声は幻聴で、遂に僕にも天からのお迎えでもきたのかと思った。

 年齢にしてまだ16歳、しかしあと何十年も生き続けろと言われるのは、あまりにも酷で、拷問に等しい長い時間を短縮できるのなら待ってましたと両手を振って出迎えたいくらいだった。

 いや、両手もなにも全身動かないんだけどね……。


 高校入学前、僕は事故で脊髄を損傷し、しかも首から下どころか上までも動かないという大きすぎる絶望に出迎えられた。

 ただ病院のベッドの上で機械に繋がれて生かされるだけの日々……限界なんてものは思うだけならすぐだった。

 なまじ親は資産家で僕を生かすことに苦労はなく、けれど子供に愛情を注ぐような人たちではなかった。

 身体が動かなくなって病院に固定できたことを喜んでいるその声も、僕の耳には届いていたくらいだ。


 だからその女神を名乗る天からの声も、ただ生かされるだけの僕には滅多にない話し相手のようなもので、真剣にその言葉の意味を頭の中で咀嚼した。


 適合者には拒否権なく異世界で迷宮攻略。

 はは、それはなんとも楽しそうで選ばれた奴が羨ましいことだ。

 でもすぐに、これも所詮僕には関係のない話かと気落ちする。

 動かない身体は思考を暗くするばかりで。

 もし僕が仮にその適合者とやらになったって、どうせこの身体じゃ異世界に行ってもなにもできない……いや、僕を生かす機械がないなら死ぬことだけはできるかもしれないと、そんなことを思うだけ。


 だからいつものように溜息すら吐けないことに辟易して──そのかつて聞き慣れた〝あのBGM〟が流れ始めたことに驚愕した。


 ~~♪ ~~~~♪


(──は? え!? なんでこの曲!?)


 それは一昔前にネットでミーム化され、なんかto be continuedとか出てきそうな〝あのBGM〟だった。

 意味がわからない。


 とか思ってるうちに病室には喧しい電子音が鳴り響いて、頼もしくも恨めしい、あの僕を生かし続ける機械が悲鳴を上げているのがわかった。

 病室の外からドタバタと慌てた足音が近づいてくるのがわかって──to be continuedの文字と共に、僕の視界が、ブラウン色に染まった。

 世界が止まったように、けれどそんな僕の様子を色んな角度から俯瞰するサービス付きで〝あのBGM〟が流れ……次の瞬間、僕の視界はブラックアウトした。


 瞼を貫く陽光と耳に伝わる喧噪で目を開く。

 あのわけのわからないBGMは消え、視界もブラウン色から元の彩り豊かものへと戻っている。

 だがそんなことをどうでもいいと置き去りにする事実。


 僕の眼前には見知らぬ中世の都市の広場が広がっていて。

 僕はそこに──立っていた。


 周囲には困惑した様子の人達が大勢いたけど、そんなことも思考には入らず、僕はゆっくりと自分の手を見る。


 手が動く。

 両手が動く。

 指が握れる。

 力が入る。


 無表情の僕の視界に、涙が溜まっていく。

 でも次第にその表情の動かし方も思い出して、僕はくしゃくしゃに泣きながら笑って徐々に徐々にとこの動く身体を確かめるように跳ねて走ってしゃがんでと、動く喜びを嚙みしめた。


「……──っしゃあああああ!!」


 声の出し方も思い出した。

 そうだ、これだ、これが生きるということなんだ。

 僕が望んでも得られず、もう一生手に入らないと思った、幸福。


 周りがどうしたんだと見てくる視線も、今だけは悪いけど気にすることができない。

 僕は、ただただその喜びを文字通り全身で味わっていた。


 そんな僕の耳に、再度あの僕に幸福をくれた女神さまの声が響く。

 それは出だしからなんだかさっきと違って軽いノリの雰囲気だったけど、そこを気にする必要は僕にはなく、女神さまの声に傾注した。


『適合者のみなさ~ん、おめでとうございま~す。私からのお祝いにみなさんにはジョブと装備をプレゼントしちゃいました! 装備は簡単な物だけど迷宮で強化もできるから大切にしてね~?』


 プレゼント?

 その言葉に改めて自分の身体を見れば、確かに服は病院服じゃなくてなんかRPGの村人Aが着てそうな簡素なもの。

 けれど腰にはそれとは不釣り合いな立派な剣……確かシミターとかいう種類の片刃の剣が収まっていた。


 そこまで確認した途端、目の前に半透明なウィンドウが現れる。

 そこには上に女神ちゃんねると書かれていて、枠の中に僕の名前、佐々木龍郎とジョブの欄に……【蛮勇者】の文字があった。


「蛮勇者ってなんぞ……? たった1文字で勇者から遠く離れた存在に」


 そのジョブに思わずふふふっと笑ってしまう。

 別に悲観も抗議もなにもない、むしろ深い感謝があるくらいだ。

 だってジョブなんて別になんでもよかったんだと思えるような【固有能力】が、僕のウィンドウの欄には燦然と主張していたから。



 固有:【to be continued……】

 効果:ピンチの瞬間、強制的にあなたの時間を巻き戻す。



 それは願ってもみなかった、不自由から自由への反転。

 蛮勇上等の死ぬ気上等、どんどんやりたいことやった者勝ちのその能力。


『さぁて。それじゃこの都市の迷宮攻略について解説する前にぃ、大事なことをカミングアウト! 今この瞬間もみなさんの姿は全人類に生配信されています! せっかくの異世界交流ですからねぇ、地球のみんなも配信を通じて異世界を楽しんで? 適合者のみんなは見られてることを意識して攻略頑張ってね~!』


 女神さまのその言葉に僕は内心で強く頷いた。

 配信を意識とか、攻略を頑張るとかそういう話じゃない。

 僕はただこの自由を謳歌するために迷宮に行く。


 僕は──蛮勇者だ。

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