ー7ー 小さな英雄たち
並んだランタンが淡く揺れ、掛け声や笑い声が重なって、祭りの広場は一層賑やかさを増している。
そんな中、ユームが衣装の裾を握りしめ、深呼吸をしてから少し名残惜しそうに言った。
「……あたし、そろそろ出番だから行かなきゃ」
「そうか」
ロイは姿勢を屈め、妹の目をまっすぐ見つめた。
「ユームならきっとうまくできる。頑張れよ」
「うん!」
力強くうなずいたユームは背筋を伸ばし、広場の奥へ駆けていった。
舞台裏へと消える小さな背を見送りながら、ロイの胸に温かな誇らしさが広がる。
「おう、お前さんたち!」
突然の声に振り向くと、焼き網の前にマリオンが立っていた。
マリオンはにかっと笑い、焼きとうもろこしを差し出す。
「昼間、畑仕事を手伝ってくれてありがとうな。熱いうちに食えよ」
「ありがとうございます!」
アンがぱっと受け取り、頬をほころばせる。
ロイたちも次々と手にし、表面の焦げ目から立ちのぼる香りに自然と顔がほころんだ。
かじった瞬間、熱さと甘み、香ばしさが口の中にじゅわりと広がり、思わず声が漏れた。
「……うまっ!」
ビットが目を丸くする。
ロイも笑いながらかじりつき、口をもぐもぐさせながら言った。
「こういう時のとうもろこしが一番うまいよな」
笑い合いながら、一行は歩き出した。
焼きとうもろこしの甘い余韻と、友達の笑い声。
そのすべてが、夢のように広場を心地よく包んでいた。
――
ロイ、レヴィ、ビット、アンは焼きとうもろこしを片手に、舞台の周りへと移動し、地面に腰を下ろした。
花の香りが夜風に混じり、観客のざわめきと一緒に広場を満たしていく。
やがて舞台の明かりが強まり、ざわめきが少しずつ静まる。寸劇の幕が上がったのだ。
「わー、みんな上手にやってるな」
ロイは目を細め、舞台で寸劇を演じる子どもたちを眺める。
妹のユームも一生懸命に台詞を口にし、間違えそうになりながらも笑顔を崩さずに舞台を走り回る。
舞台では、オルセリア神話の簡略劇が始まっていた。
「昔々、この世界に現れた怪物が、人々を苦しめていたんだ!」
子どもたちの一人が大げさに手を振ると、怪物役の子は身をよじってうなり声を上げる。
「そこで神様は特別な力を持つ武器を作り、勇敢な女の子――オルセリアに授けたのです!」
ユームも小さな剣を構える真似をして舞台を駆け回る。
「オルセリアは光る剣を手に、怪物に立ち向かいました!」
「怪物を倒せー!」
子どもたちは身振り手振りで戦いの様子を表現し、観客から自然と笑い声と拍手が湧き起こった。中には子どもを抱えた母親が「がんばれー!」と声をかけ、老人たちも手を叩きながら微笑んでいる。
その様子を眺めながら、ビットが小声でつぶやいた。
「こんなの、ただのおとぎ話じゃん。毎年やってよく飽きないなあ」
アンはすかさず突っ込む。
「あんた、昔劇の役割分担を決めるとき、英雄役やりたくて泣いて駄々をこねたじゃない!」
「そ、そんなのガキの頃の話だし……!」
ビットは慌てて弁解しながら後ろを向く。
「今でもガキでしょ」
アンの容赦ない一言に、村人たちは思わず笑い、広場は和やかな雰囲気に包まれた。
レヴィは小さく微笑み、視線を舞台へ戻した。ロイは思わず吹き出しそうになり、ビットは照れ隠しに後頭部をかいた。
その笑い声は、夜空へと吸い込まれるように響いていった。




