ー5ー 黄金の畑と赤い光
笑い声が遠のき、道がゆるやかに開けるころ、目の前に畑が広がった。
黄金色に実ったとうもろこしの葉がざわざわと揺れ、陽射しを浴びてきらめいている。風に乗って、土や草の香りがふんわりと漂ってきた。
「……おい、あれ」
ビットが目を細め、指差した先にはマリオンが黙々と収穫を続けていた。
額から汗を滴らせ、とうもろこしの茎から実をもぎ取り、次々と足元に置いていく。
「わぁ……完全に時間忘れてるわね」
アンは呆れたように、でもどこか感心した声を漏らした。
「マリオンさーん!」
ロイが手を振って声をかけると、大柄な人影がようやく顔を上げた。
「おう、どうしたんだ? お前さんたち」
「マリオンさんがまだ戻って来てなかったので、カリオンさんに見に行ってくれって頼まれたんです」
「おお、そうか! すまんすまん」
マリオンは額の汗を拭い、ばつが悪そうに笑った。
「いやぁ、灯花祭の前だからな。気合入れて収穫してたら止まらなくなっちまってよ! おかげでこのとおりだ」
見渡せば、刈り取られたとうもろこしが山のように積まれている。
四人は思わず目を丸くした。
「……これ、村まで全部運ぶんですか?」
ロイは眉をひそめ、率直に問いかける。
マリオンは大きく「ガハハ!」と笑った。
「そうだ! お前さんたち四人が来てくれて、本当に助かった! 一人じゃ日が暮れても終わらんところだったからな!」
アンは積み上がったとうもろこしを見て、小さく息をのんだ。
「……想像以上に、すごい量ですね」
ビットは頭を抱えて小さく叫ぶ。
「マジかよ……! こりゃ腕がもげるやつだ!」
レヴィは肩をすくめ、苦笑した。
「たしかに、大仕事になりそうだね」
ロイは口元に薄い笑みを浮かべ、
「まぁ、手分けすればすぐ終わるさ。みんな頑張れー」
「はぁ!? なに他人事みたいに言ってんのよ! サボる気満々じゃない!」
アンが肘で遠慮なく小突く。
「いててっ……はは、冗談だよ冗談!」
ロイは慌てて笑いながら両手を上げ、ごまかした。
――しんどい作業だが、四人一緒なら案外悪くない。
なんだかんだ言いながらも笑い合える空気に、ロイの胸はほんの少しあたたかくなった。
「さぁ、若いの! 荷台に積み込んじまおう!」
マリオンが腕をまくり、豪快にとうもろこしを抱え上げる。
葉のざらりとした手触りと、実のずっしりとした重みが手に伝わる。
作業の合間、マリオンがふと空を見上げ、いつもの笑い声とは違う、少し真剣な目つきで言った。
「……そういや最近、この辺じゃ見かけない大きな魔物を見たって噂を耳にしてな。夜の山の向こうで、赤い光が揺れてたらしい」
ロイたちは顔を見合わせ、息をのむ。
「赤い……光?」
アンが小さくつぶやいた。
だがマリオンはすぐに豪快な笑みを取り戻す。
「ガハハ! どうせ誰かの灯りを見間違えただけだろう! お前さんたちの騒ぎ声を聞いたら、魔物のほうが耳を塞いで逃げていくわ!」
「……本当、脅かすのはやめてくださいよ」
レヴィが安堵の息をつき、ビットは大げさに胸をなでおろした。
ロイは笑いながらも、胸の奥に小さなざらりとした違和感を覚えていた。
けれど夕陽に照らされる友達の顔を見ていると、その不安は言葉にできないまま、胸の奥で小さく燻り続けていた。




