目の前の神話
二人は、地面に転がっている七色のコルディアを見つめたまま、完全に固まっていた。
驚愕という言葉では足りない。
息をするのも忘れたように、レイドとサグロスは動かなかった。
その沈黙に耐えきれず、ロイがおずおずと口を開いた。
「……あの、手を離してもらえますか? ちゃんと説明しますから」
その声で、ようやく現実に引き戻されたようにサグロスはロイを無言で見つめ、捻り上げていた腕を放した。
ロイは掴まれていた腕を摩り、足元に転がっているものへと手を伸ばす。
拾い上げたそれは、淡く、しかし確かに七色を帯びて輝いていた。
ランタンの揺れる光とは違う。
内側からにじみ出るような、柔らかく不思議な光。
ロイはそれを手のひらに乗せ、二人によく見えるように見せた。
「これは、七色の霊晶石でできたコルディア――アルスレアです」
その名を聞いて、レイドが息を呑む。
「……アルスレア……」
サグロスは眉をひそめたまま、低く問いかけた。
「……半月ほど前に北東の空が光っていたのは……それのせいか?」
「北東の……空?」
「ここから北東……フレイヴ山脈のあるあたりだ」
「多分……そうです」
ロイは少し考えるように視線を落とした。
「その時、アルスレアが目覚めました。そのあと、軍の人たちが村に来て……
太古の化け物が現れた時のために、これを探していたって言われました」
その言葉に、レイドが思わず声を上げる。
「太古の化け物……?それは、神話に登場する架空の存在ではないのか?」
「俺も……実際に存在するなんて、思ってませんでした」
ロイは一度、言葉を切る。
「でも、軍の人や……国王陛下は、存在すると考えているみたいです」
一瞬の沈黙。
サグロスは小さく息を漏らした。
「まあ……神話の中のもんだと思ってたものが、こうして目の前にありゃ……否定もできねぇわな」
そう言って、ロイの手の中のアルスレアを見る。
七色の光が、わずかに揺れるように瞬いた。
レイドが、静かに問いかける。
「……おまえは、その神話の化け物と戦うのか?」
ロイは、すぐには答えなかった。
視線を落とし、指先に伝わるアルスレアの温度を感じながら、ゆっくりと口を開く。
「……正直に言うと、そんなものと戦うなんて、想像はできていないです」
それでも、言葉は途切れなかった。
「俺はただ……その化け物のせいで凶暴化している魔物から、少しでも多くの人を助けたいって……思っただけです」
「ご立派なこったな」
サグロスはぽつりと呟いた。
レイドは一度咳払いをして、話題を切り替える。
「それで……おまえは王都に行って、どうするつもりなんだ?」
「どうする……?」
ロイはきょとんと目を瞬かせる。
「……どうするんですかね?」
「なんでオレらに聞く……」
「軍の人に、王都に行けって言われただけで……
具体的にどうするのか、何も聞いてなかったです」
「……」
レイドとサグロスは、ほぼ同時に思った。
(……大丈夫か? こいつ……)
サグロスが頭を掻きながら、大きくため息をつく。
「あー、もう……おまえ無謀すぎるだろ。
この辺のことも知らねぇ。王都に行く目的も曖昧。よくそんな状態で、命かける気になれるな」
「そ、それは……」
ロイは気まずそうに視線を逸らし、しどろもどろになる。
「……ちょっと、自分でも舐めてた……とは、思ってます……」
「はぁ……」
サグロスは深く息を吐いた。
「世間知らずなおまえが、一人で行ってもな。
王都に着く前に、くたばるのがオチだ」
「うぅ……」
ロイは小さく声を漏らし、肩を落とす。
その様子を、サグロスは黙って見つめた。




