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アルスレア  作者: ゆきつき
第四章 ラグノアの森

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効き目の行方


「――ギィァッ!!」


低く、濁った苦鳴が重く響いた。


魔物の背後で弾けた衝撃で、牙を押し付けられていた圧がふっと消えた。

ロイの腕から、張り詰めていた緊張が抜け落ちる。


全力で受け止めた反動と疲労が、一気に押し寄せた。


――だが次の瞬間。


魔物は怒りに任せるように首を大きく振った。


巨体の反動が、二人をまとめて弾き飛ばした。


背中から地面に叩きつけられ、ロイの体はそのまま転がった。


受け身を取る間もなく、肺の空気が一気に押し出される。


一瞬、息が詰まり、視界が白く弾けた。


「クソっ……速攻効果はなしか!」


舌打ちと同時に、サグロスは体勢を立て直す。

腰元へ伸ばした手に、青い光が瞬き、空間から引き抜かれるようにして槍が戻ってきた。


「……うっ……」


ロイは呻き声を漏らし、そのまま地面にうずくまる。

背中に走る鈍い痛みとともに、腕にも足にも力が入らない。


(……立たなきゃ……)


そう思うのに、体は言うことをきかなかった。


「おい! 早く立て! やつが来るぞ!」


サグロスの声が飛ぶ。

その言葉を追い越すように、魔物は地を蹴り、一気に距離を詰めてきた。


鋭い爪が、唸りを上げて振り下ろされる。


「――チッ!」


サグロスは即座にロイの前へ躍り出て、魔物に立ちはだかった。


金属が打ち合う甲高い音。

薙ぎ払われる爪を、必死に捌く。


理性を失った魔物は、間合いも構わず暴れ回り、重い一撃を次々と叩きつけてくる。

サグロスは一歩も退かず、正面から凌ぎ続けた。


「……くっ!」


(……効き目はまだなのか? 守りながらは、さすがにきついぞ)


背後には、まだ動けないガキがいる。

回避すれば――その一瞬で、命を取られる。


そのとき。


地を這うような動きから、魔物の一撃が跳ね上がった。


「なっ――!」


下から突き上げられた衝撃で、槍が大きく弾かれる。

握ったままの腕ごと、上へ持ち上げられた。


がら空きになった胴体へ、魔物の追撃が迫る。


――その瞬間。


サグロスの脇から割り込むように突きが飛び出した。


剣先が迫るのを察し、魔物は反射的に身を引いた。

突きはかわされ、距離が開く。


「……おせーわ」


「……すみません」


ロイは息を整えながら、視線を魔物へ向けた。


「……さっきより、暴れてませんか?」


「さっきの銃弾は、ソポルの果汁入りだ。時間が経てば、睡眠効果が出る……はずだ」


「……じゃあ、それまで耐えるしかないですね」


「そうだ」


短いやり取りのあと、ロイは思うように力の入らない手でアルスレアを握りしめた。


突進をかわし、爪を弾く応酬が続く。

決定打は掴めず、戦況は動かないままだった。


魔物が、再び大きく後方へ跳んだ。


着地した瞬間、体が大きく揺れる。


「……来た! たたみかけろ!」


「はい!」


二人は一気に距離を詰めた。


魔物の目は、どこか焦点が合っていない。

揺れる体で攻撃をかわそうとするが、その動きに、先ほどの鋭さはなかった。


サグロスの槍が脚を捉える。

ロイの剣が、硬い鱗を打ち砕いた。


魔物は身を強張らせ、踵を返す。


「逃すかぁ!」


サグロスは狙いを定め、槍を全力で投げ放った。


風を切った槍は、魔物の背へ突き刺さり、

魔物は悲痛な叫びを上げた。


「ギィァァァァ!」


その直後。


ロイは踏み込み、アルスレアへ魔力を叩き込んだ。


蒼白の光が走り、白銀の刃を一瞬で覆い尽くす。


ロイはそのまま振り抜いた。


斬撃が一直線に奔り、命中の瞬間、光が弾ける。

一瞬、視界が白む。


魔物は音を立てて崩れ落ち、土煙がゆっくりと舞い上がった。


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