正体
ロイは、崩れかけた家屋の戸口から外へ出ると、小さく肩を落とした。
「……ミーオも、置き時計も見つからなかったですね……」
「そうだな」
レイドは短く頷き、視線を巡らせる。
「サグロスと合流しよう。何か見つけているかもしれない」
「はい……」
二人が歩き出した、その時だった。
――ガシャン!
乾いた破裂音が、静まり返った村に響いた。
「!」
レイドが即座に顔を上げる。
「行くぞ!」
「はっ、はい!」
二人は音のした方へ駆け出した。
朽ちた家屋の角を曲がった、その先で――
「レイド! ドラゴンだ! 生け捕りにしろ!」
通りを走りながら叫ぶサグロスの声が飛んできた。
「!」
レイドが反射的に銃を抜く。
その瞬間――
「ミーオ! ここにいたのか!」
「ぴゅっ!」
ロイの声に応えるように、小さな影が跳ねた。
「……は?」
「……何?」
サグロスとレイドの声が重なる。
ミーオはレイドの脇をすり抜け、そのままロイの胸元へ飛び込んだ。
「どこ行ってたんだよ! 心配したんだぞ!」
「ぴゅああああ!」
甲高い鳴き声を上げながら、ミーオはロイの腕の中で身をよじる。
「ん? 何持ってるんだ?」
ロイは、ミーオの前脚に握られているものに気づいた。
小さな――薬の瓶。
「薬……? なんで?……あっ、もしかして俺のために?」
「ぴゅお!」
「俺が寝ちゃったの、病気だと思ったのか?」
「ぴゅっ、ぴゅっ!」
「あー、ごめんごめん。心配かけちゃって。ありがとな」
ロイは苦笑し、ミーオの頭を軽く撫でた。
その様子を、二人は呆然と見ていた。
「……ミーオとは……人の子ではなかったのか?」
レイドが、ようやくそう口にする。
「あれ? ドラゴンって言ってなかったですっけ?」
「……」
レイドは言葉を失う。
次の瞬間――
サグロスがズカズカと歩み寄り、ロイの目の前で足を止めた。
「こんのアホ!!」
怒鳴った勢いのまま、ロイの頬をぐいっと引っ張る。
「ドラゴンなんて重要情報、ちゃんと言え!!」
「わーーー! ごめんなさい!」
「……まあ」
レイドは銃を下ろし、短く息を吐いた。
「見つかって良かったな」
「ひゃい……ありがとうございましゅ」
「ったく、無駄な心配だったぜ」
サグロスは手を離し、吐き捨てるように言った。
人間の赤子だと思い込んでいた――
自分たちの早とちりへの苛立ちが、声ににじんでいた。
「ごめんなさい……」
ロイは肩をすくめ、赤くなった頬をそっと摩った。
その時――
ふと、サグロスの胸に引っかかる感覚が走った。
(……ん? ドラゴン?)
サグロスの視線が、ミーオへと移る。
(……こいつ、誰から預かったと言っていた? それに、フレイヴ山脈……船……魔物……王都……)
点と点が、頭の中で静かに並び始める。
「おい」
サグロスは、ロイをまっすぐに見据えた。
「お前、軍属の者か?」
「え? 違いますけど……」
「じゃあ、質問を変える」
一拍。
「そのドラゴンの飼い主は――ミネア。ミネア・ティレニス中尉か?」
「え? ミネアを知ってるんですか?」
「たった十五歳で中尉なんて階級、持ってりゃ噂にもなる」
サグロスは鼻で笑う。
「それに、希少種のドラゴンを孵したって話もな」
「へっ、へー……」
口をついて出た生返事とは裏腹に、胸の奥がひやりと冷えた。
「確か中尉は、北から何かを王都に運んでいるって話があったが……」
サグロスの目が、細くなる。
「お前と関係があるのか?」
「えっ……そ、そんなことは……」
言葉が詰まり、視線が泳ぐ。
「……」
サグロスは一歩、踏み込んだ。
「お前は何だ?」
低く、問い詰める声。
「何を隠している?」




